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人の逢瀬の邪魔してんじゃねーよ!!

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「私の土の壁に風の魔力をぶつけるイメージで今日は練習してみましょう」
 レオンの提案は、まずシャーロットが空気を一か所に留めるための訓練だった。
 まずはレオンが土の魔力で作った防御障壁にシャーロットの風の防御障壁をぶつけさせ、徐々に土の防御障壁にぶつからないようギリギリのラインを攻めて魔力を操作できるようにする、という本当に物理的な訓練法だった。
 今までこれをしてこなかったのは、これが幼少期にする訓練だからである。
 魔法をある程度操作するためには、相反する魔力にぶつける練習がまず先に行われる。
 魔力にも強弱が存在するため、幼少期には自分の魔力を高めるためにこうした訓練が行われるのだが、幼少期の時と違い、当てる的は一瞬で現れては消えていく。
 モグラ叩き方式であることが、難易度を極端に上げていた。
「よく見てください。瞬発力が大事です」
「はい!」
 ボコ、ボコ、と不規則に土の防御障壁がシャーロットの周囲に出現しては、すぐに消えていく。
 ここまで早いと、自分の周囲全体を風魔法で覆うのは至難の業でもあり、一か所に集中して防御障壁を作ることができたが、その強度に問題があった。
「今のでは敵の背後に仲間がいた場合、衝撃波で吹き飛びます。もう少し抑えてください。――次は弱すぎます。それでは何からも守れません」
「はい!」
 一生懸命レオンの指示に従うが、魔法の方がついていかない。
 だがそれはシャーロットの集中力を邪魔する存在がかなり近くにいるせいでもあった。
「婚約者殿も頑張るものだな。なぁ? マリア」
「そう……ですね……」
 声のした方をキッと睨みつけると、魔力が制御しきれず不発に終わった。
 余計なギャラリーたちは、シャーロットの魔法制御を演習場の見物席から楽し気に眺めている。否、楽しそうなのはコンラッドだけであり、マリアンヌはやはり居心地が悪そうだ。
「もう! ちょっと黙っていてくださいませんこと!?」
 いい加減イライラしてきたシャーロットは、とうとう彼らに噛みついた。
「さっさとどこかへ行ってくださいませ!」
「なんだ。婚約者殿は冷たいな。キミの訓練がひと段落したら、昼食でもと思って、こちらも待っているというのに」
「待たなくて良いです! 勝手にしてください!」
「それでは寂しいじゃないか。なぁ? マリア」
 いちいちマリアンヌに聞くな。
 自分たちの仲睦まじさを見せびらかせたいのか、コンラッドはマリアンヌの腰を抱いて離さず、彼女は彼女でそれを拒否していない。
 一応、まだ、かろうじて、第一王子の婚約者であるシャーロットの前で、堂々とこの態度を貫くのはどうなのだろうか。
(羨ましすぎてむかつく……!)
 レオンに手取り足取り腰取り教えてもらう算段だったのだが、彼らが来たことで積極的にアプローチすることができなくなってしまった。
 婚約破棄の未来を変えるつもりはないが、浮気まがいの現場を目撃されてすべての責任をシャーロットにひとりに押し付けられてはたまらない。
 コンラッドは「友人」という体を貫いているが、シャーロットがお相手願いたいのは王宮の護衛騎士だ。
 普段は会話することもない護衛騎士と何かあれば、簡単に悪い噂が広まる。
(王子っていうのは、本当に良いご身分だわ……)
 王族だからこそ、身分の低い者に対して分け隔てなく接するべき、という風習があるため、コンラッドが明らかにマリアンヌを優遇していても誰も文句を言わない。
 誰が見ても明らかな浮気なのに、コンラッドが何をしても「見て見ぬふり」を貫く周囲の者たちへも苛立ちが募っていく。
 コンラッドがどんな不貞を働いても、すべては「婚約者を奪われたシャーロットのせい」にされるという構図は納得できなかった。
「シャーロット嬢。そろそろ休憩にしますか?」
 完全に集中力が切れてしまったシャーロットに、レオンがそっと尋ねてくる。
「――そう、ですわね……」
 このまま魔力を無駄打ちしたところで、成果は望めないだろう。
 ただ魔力を枯渇させていくだけだ。
「なんだ。ようやく休憩か? 結構待たされたぞ? 我が婚約者殿」
 マリアンヌを連れ立って演習場の中に入ってきたコンラッドが、シャーロットの目の前で立ち止まる。
「こちらの都合も考えずに一方的にお越しになったのは殿下ではありません? 私に文句を言われても困るのですが」
「キミこそ、婚約者を無視して課題の特訓を続けるとは、どういうつもりだろう?」
「あらあら。その腕にお抱えの方を見せつけておきながら、どの口がおっしゃっているのでしょうか?」
 バチィィと二人の間で火花が散る。
 いっそのこと魔法の訓練中に暴発、ということにして彼らを吹き飛ばしても良かったが、それで咎められるのは監修をしていたレオンになってしまうため、拳を握りしめるだけに留めた。
 今までコンラッドは、シャーロットに近づこうともしなかったくせに、一体何のつもりなのか。
 先日の交換条件について、探りを入れてきているのだろうか。
 だがそれなら本人が来る必要はない。
 ここには彼のお抱え護衛騎士であるレオンもいるのだ。
 ある意味レオンも当事者なので、正確な情報が得られないと思って自らこんなところまで赴いただろうと推測されるが、この腹黒王子のやることはかなり鬼畜だ。
 笑顔の裏にある闇より黒いモノを知っているため、シャーロットは敵意を向け続けるしかない。
「課題は全然達成できそうもないようだが、早く諦めたらどうだ?」
「お忘れかもしれませんが、まだこれを始めて一週間も経っていませんのよ」
「賢いキミのことだから、そろそろ諦めると思っていたんだがな」
「こう見えて、往生際が悪いのです。そこが取り柄でもありますのよ」
 ご存じないでしょう? と笑みを浮かべると、マリアンヌの身体がピクッと震えた。
 今の会話を、コンラッドへの執着だと取ったのだろう。
「『お姫様』には何もお伝えしていないのですね」
「そうだな。俺の姫は、そういうことには適していないからな」
 ふぅ、と腕を組み、シャーロットは俯いているマリアンヌを流し見る。
 小さくて華奢で、でも胸は大きくて。
 プルプルと震える姿はまるで小動物か何かのようだ。庇護欲や母性をくすぐられる。
 だがその震えは、本当にこの状況だけが原因だろうか。
(貞操帯のが挿ったままだから?)
 スカートの下に隠されたその場所は、硬くて冷たい棒に犯され続けているはずだ。コンラッドはマリアンヌに授業中だろうがこれを付けることを強制している。
 今もきっと、マリアンヌは密かな羞恥を抱えていて、この会話も聞こえていない可能性は高かった。
「――お連れの方の具合がとても悪そうですが、医務室にお連れしたらよろしいのではなくて?」
 涙目になっている少女が恐怖であれ、快楽であれ、心身ともに攻められている姿を間近で見てしまうと、つい助け船を出したくなってしまう。
「そんなことはない。なぁ? マリア」
「は、い……」
 コンラッドの手がマリアンヌの尻辺りに伸ばされたのを、シャーロットは見てしまった。
(マリアンヌ、もしかしてイカせてもらえてないのかもなぁ……)
 中途半端な快楽だけを与えて放置プレイ。この王子の十八番だ。
 小説ではシャーロットを謹慎塔に監禁した頃には、彼女は下を弄られなくても、自分で胸を弄っただけで達せる身体になっているはずだが、それも今は難しいのだろう。
 彼女の乳首には両方とも、コンラッドが特別に作らせた彼の魔力に作用するガラスの吸引機が取り付けられている。それを付けているため、胸当てもつけられないという状態だ。
 そしてコンラッドは、授業中だろうが彼女が友人たちと談笑しているときであろうが、お構いなしに気まぐれにその吸引機で彼女の乳首を刺激するのだ。
 その度に彼女はイキそうになるのだが、絶頂に達しそうになるとそれをやめてしまうため、彼女は夜、コンラッドを激しく求めることになるのだ。
「ほら、返事をして。そうすれば――」
 こそっとコンラッドがマリアンヌに耳打ちする。
 彼が言った言葉はシャーロットには聞こえなかったが、たぶん「あとで乳首を刺激してあげる」と言ったに違いない。
「わ、私は……大丈夫、です……!」
 どこか嬉しそうな彼女の瞳が、この時初めてシャーロットに向けられた。
(そんなに弄ってほしいくらい、限界なのか……)
 シャーロットは小さくため息を吐き、レオンの方へと足を向けた。
「レオン様。今日は私、昼食を用意しているのです。でも忘れてしまって。一緒についてきて頂いてもよろしいでしょうか?」
「――よろしいのですか?」
 レオンがチラリとコンラッドたちへと視線を向ける。
 彼はシャーロットがまだコンラッドに執着しているとでも思っているのだろうか。否、最初からそんなことはないのだが、レオンが気にするのも仕方がない。
 彼は何も知らないのだから。
「あの方々は放っておいても良いと思います。ここは学園長の結界で守られている場所でもありますし」
「いえ、ですが……」
「どうせ取りに行かないといけないのですし、行きましょう? ね?」
 ギュッ、とレオンの腕を抱き、シャーロットはぐいぐい引っ張った。
「――わかりました」
 レオンは困惑しつつも、シャーロットに従ってくれる。
「ありがとうござい……」
 レオンに笑顔でお礼を言いかけたときだった。
「ぁんっ」
 か細い喘ぎ声がわずかに聞こえ、シャーロットは進める足の速度を速めた。
(わざとやってるの? あの腹黒鬼畜王子……)
「マリア。声を抑えないと聞こえてしまうぞ」
 思いっきり聞こえたわ! と心の中でツッコミを入れつつ、シャーロットはレオンを連れてその場を後にした。
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