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夢……だよね?

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(また夢見ちゃった……)
 レオンと最後までする夢を見た。しかも寝相が悪かったのか、身体の痛みまである。
(私……、想像力はんぱないな……)
 レオンと一線を越えたいと思いながら眠ったせいだろうが、触れられた感触や吐息までやけにリアルな夢だった。
(とりあえず、シャワーだけでも浴びておこ……)
 昨日は結局あのまま眠ってしまったし、これからレオンとまた演習場で訓練だ。
 もうなりふり構わず迫りまくると決めたのだから、好きな人の前では身綺麗でありたいと思うのは普通である。
(香油も塗って……、それから……)
 寝台から立ち上がり、支度を整えようとしたとき、足の間からとろっと血が混じった何かが太ももを伝って流れ出てきた。
「あら? 生理……?」
 つい先日終わったばかりのはずだが、まだ終わっていなかったのだろうか。シャーロットは慌てて手洗い場に急ぐ。
(そういえばちょっとお腹痛いかも……。ストレスで生理不順になっちゃったのかな……)
 もしそうなら、レオンに迫る計画は少し後ろ倒した方がいいだろう。良い雰囲気になれたとしても、最終目的が果たせずタイミングを逃すのは得策ではないのだ。
 もう一週間が経とうとしている。つまりあと三週間しか時間がないのである。まだレオンがシャーロットをただの貴族令嬢としか思っていないのだから、逆算してもチャンスは一度切りだと思っておいた方が良いだろう。
(レオン様って、堅物そうだから、一度や二度お誘いしたところで、お相手はしてもらえなさそうだし……)
 それこそ「そうする理由と目的」を明確にして、計画的に迫らなければならないだろう。
 ゲームの攻略のように何かしらイベントをクリアすれば好感度が上がる、という世界ではないため、自然な流れに持っていく必要もある。
(最悪の場合は泣き落としか、薬を盛ることになりそうだなぁ……)
 考え事をしながらシャワーまで済ませ、シャーロットは脱衣所の鏡の前に立ち、風の魔法で髪を乾かす。そのとき、自分の身体の変化に気づいた。
(あれ……?)
 胸の先端が、明らかに腫れていた。少しヒリヒリもする。
(そんなに弄ったかなぁ……?)
 寝ている時にでも無意識に弄ってしまったのか。それなら破廉恥を通り越して淫乱だ。マリアンヌは開発されてそういう身体にされてしまったが、誰の手にも触れられていないシャーロットがそうであるとすると、ある意味問題である。
(前世の余計な記憶があるから……)
 本来は経験したことがないはずなのに、記憶の上では快楽を知っているからややこしい。
 はぁ、とため息を吐き、持ってきていた制服に袖を通した。




「お身体の具合はどうですか」
 演習場で既に待っていたレオンは、シャーロットがそこに現れると足早に近づいてきて開口一番にそう尋ねてくる。
 昨日はコンラッドたちのせいで妙な別れ方をしてしまったから、体調が悪化したと思われたのだろう。
「昨日は失礼いたしました。ご心配には及びませんわ」
 にっこりと微笑み、シャーロットはレオンの手を取った。
「今日もよろしくお願いします。何から始めましょう?」
「本当に、どこもなんともありませんか?」
「……? えぇ特には」
「身体のどこかが痛いなど、本当にないのですか?」
「身体……ですか?」
 魔力が枯渇すると、筋肉痛のような症状まで出るというのだろうか。そんな話は聞いたことがないが、この世界にはまだ知らないことがたくさんある。
 そう結論付け、シャーロットは改めて自分の身体をぺたぺたと触れて具合を確かめてみる。
 そういえば乳首がヒリヒリするし、お腹も何かが這い上がってくるような、何とも言えない痛みがあるのだが、これらの症状は生理の初期症状である可能性もある。
 余計なことを言って彼との一緒の時間を減らす要因を作る言動は控えるべきだろう。
「なんともありませんわ。昨晩も朝までぐっすり眠ってしまって、逆にいつもより調子が良いくらいですし」
 良い夢が見られたのも、気分がスッキリしている要因の一つだ。
(言葉攻めしてもらえたら、もっとよかったなぁ~)
 彼は夢の中で、ほとんど何も言ってはくれなかった。ただシャーロットの希望通りに身体に触れて、お慰みまでもらえたのだから、それで満足するべきだろう。少なくとも、今は。
「そう……ですか……」
 どこか歯切れの悪いレオンに、シャーロットは首を傾げた。
(もしかして、私が体調悪い方が都合が良かった……? まぁ、私の面倒見るの、そもそも嫌だろうしなあ……)
 こうして毎日レオンはシャーロットの魔法操作に協力してくれているが、彼の本来の任務は第一王子の護衛である。
 シャーロットに対して「余計な仕事を増やしやがって」という感情を抱いていても、不思議ではない。
(嫌われてる前提だと、立ち回りも難しいなぁ……)
 まずは関係の再構築からしないといけない。せめて「一度くらい抱いてやっても良いか」くらいに思ってもらわないと困るのだ。
「それにしても、今日は少し暑いですね」
 にっこりと微笑みつつ、シャーロットはシャツを第三ボタンまで開けて胸元をチラ見せさせた。
「ここにはレオン様しかいらっしゃいませんし、少しはしたない恰好ですが、ご容赦くださいね」
 レオンの前だからこそ、無防備で油断した行動を取っている。そう彼に伝わればこちらの勝ちだ。
 男性の前でこんな行動をすれば、「慣れている」と思われかねないが、それでいいのだ。どうせ彼との未来は絶望的にないのだ。遊んでいる女、と思われた方が、シャーロットにとっては都合が良かった。
 シャーロットの目的は如何にレオンと一晩の過ちを犯せるか、だ。両想いになろうなどという叶わぬ希望など、最初から抱いていない。
「さ、参りましょう」
 馴れ馴れしいかとは思ったが、彼の腕を両手で抱き、胸の谷間に押し付ける。拒絶されたら謝れば良いだけの話だと思っていたのだが、レオンは意外にもシャーロットの手を拒みはしなかった。
(あれ……?)
 高い位置にあるレオンの顔が、少し赤みを増したような気がする。これは効果があったということだろうか。
(この調子ね!)
 思いのほか、レオンを落とすのは容易いかもしれない。どんなに綺麗な顔をしていても、男は男。それにこの世界はエッチなことがやたらと起きやすいティーンズラブの世界だ。その恩恵は、この世界の住人であるシャーロットも変わらないのかもしれない。
(でもヘイトを稼ぎすぎるシャーロットがそういうことになるのって……。マリアンヌとは違う意味でドエロイことになりそうだなぁ……)
 仮に複数プレイに発展してしまったとしても、相手にレオンが含まれているのであれば、それはそれで喜ばしい――が、ただでは済まなそうだ。
(慰み者になって婚約破棄とか? あり得るかもなぁ……)
 マリアンヌじゃないのだから、複数の男に身体を弄ばれるのは嫌だ。マリアンヌにはエッチなトラブルが良く付きまとうのである。今後彼女は、男子生徒に輪姦されかけるという展開が待ち受けている。当然未遂で終わるのだが、それがまたとんでもない話なのだ。
いわゆる「そういう物語の主人公」というのはそういう目に遭いがちだが、もしシャーロットがマリアンヌだったら、たぶん人間不信になる。
(だって、子宮脱させられちゃうんだもんなぁ……)
 マリアンヌは常に貞操帯をつけている。それも、ふたつの棒が付いた代物だ。この棒付きの貞操帯はコンラッドの魔力でぴったり彼女の中に収まっていて、彼が意識的に解かなければ取れないというおまけつき。
 それを彼女は、無理やり男子生徒たちに抜き取られてしまうのだ。泣き叫ぶマリアンヌを押さえつけた彼らは、容赦がなかった。無理やり引き抜かれたとき、内壁がめくれあがってしまうものの、棒の先端が子宮口を塞ぐようにくっついていて辛うじて犯されなかったという、そんな展開だったはずだ。
(殿下が駆けつけて男子生徒たちも捕まるんだけど……。殿下もちゃっかり子宮脱プレイでエッチしちゃうんだから、ほんと言葉もないわ……)
 さらに言えば、そんな目に遭ったマリアンヌの身体は本当に大丈夫なの? という疑問は残る。
 そのあたりはファンタジーなので「大丈夫だった」ということにはなっているが、この世界の住人に転生した身としては、ちょっと怖い。
(まぁ結局マリアンヌもあんあん言ってるんだし、あんな顔して私より性癖に偏りがあるんだよね、たぶん)
 既に後ろの穴まで開発が進んでいるのだ。そういう痛いプレイも、慣れたものなのだろう。
(なんか……マリアンヌに同情しちゃうわ……)
 まだ十六歳の女の子が、その若さでとんでもない身体に開発されていることを、マリアンヌは自覚していない。
 コンラッドを心から愛してしまった彼女は、もう彼の毒牙に侵されているのだ。
 プレイ中、コンラッドはとても優しく、まるでマリアンヌのためと言いたげに彼女に色々なプレイを強いる。優しく攻められ、快楽に堕とされたマリアンヌは、自分が淫らだから、と思い込んでコンラッドの本質に気づこうともしない。
(恋は盲目とはいうけど……)
 初めての相手がコンラッドだった。それが彼女の運の尽きだ。だがどうせ彼らは幸せな生涯を迎える。結局、彼らは何が起ころうとも結果的に幸せになるのだから、解せない。
「今日は、どんな訓練がよろしいでしょうか?」
 ぎゅっ、とレオンの腕を掴む手に力を籠める。
 シャーロットなど、こうして一方的に彼に触れることが精いっぱいなのに。
「――そう、ですね……。本日は――」
 レオンはやはり歯切れが悪い。
 性格のねじ曲がった侯爵令嬢がいきなり甘えてくるものだから、警戒しているのかもしれない。
 わずかに顔を反らす彼の横顔を、シャーロットは上目遣いで見上げる。
 高い位置にあるその唇に、いつか届くことができるのか。シャーロットは密かにため息を零し、彼の言葉に耳を傾けた。
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