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最終章
11話——追憶『シャルナンドとの出逢い』
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「誰がヤベー奴だコラァ!!」
(注:超巻き舌)
独特の舌使いでクダを巻くちあきが、金髪の少年、シャルナンドへ詰め寄っていく。
その迫力と目力に恐怖を抱いた精霊達が、何人か逃げてしまった。
そんなちあきに特に臆するでもなく少年はその場を動かない。睨む様にその黒い瞳を見つめ返している。
「見たままを言っただけだ。ただでさえ目を引くんだから、せめて変なのは格好だけにしておけ」
美形から発せられた辛辣な台詞に、ちあきのこめかみに幾筋か血管が浮き上がる。
「セーラー舐めんなコラぁ! スケバンの立派な戦闘服じゃボケぇ!!」
(注:巻き舌多め)
おでこが引っ付いてしまう程の距離まで詰め寄るちあきに、それでもシャルナンドは動かない。精霊達も常に側にいる4人以外は既に姿はなくなっている。その4人もシャルナンドの肩の向こう側へ身を隠し、目から上だけを覗かせている状態だ。白に至っては涙目だ。
「そっちこそ体中に可愛いの引っ付けやがって、どんな趣味じゃコラぁ! 思わず二度見しちまっただろーが! 乙女かコノヤロー!!」
(注:以下省略)
「な……ちが……」
涼しい顔をしていたシャルナンドの頬がたちまち上気していく。耳まで赤く染めるとちあきへ負けじと食ってかかる。
「これが趣味なわけないだろ! 勝手にくっついてくるんだよ!! 何も知らないくせに、言い掛かりはやめろ!」
「んだとクソガキ!! そっちこそ何も知らねぇクセに、あたしの戦闘服にイチャモンつけてんじゃねーぞコラぁ!」
「ガキ扱いするな! どう見たってお前の方がガキだろうが!」
「んだとぉ——」
「………」
尚も言い争いを続ける二人をレーヴェは黙って見守っている。
寡黙で感情をあまり表に出す事の無かったシャルナンドが、初対面のちあきとこうして胸の内をぶつけ合っている事に驚いたのだ。
ちあきもちあきだ。
生まれた時からシャルナンドの側には4人の精霊が付いていた。幼い彼を守る為に、近付く者を容赦なく攻撃して来た彼等の所為で、シャルナンドは常に一人で過ごしてきたのだ。
精霊の姿が見える者は尚更、彼等の魔力を伴うプレッシャーを恐れ近付こうとはしない。
それなのに、ちあきは会って間も無く精霊達だけでなく、シャルナンドの間合いにづけづけと踏み込んでいる。
此方の世界の常識が無い所為もあるのだろうが、聖獣であるレーヴェに火の魔法で脅されたばかりだと言うのに、何ともまぁ恐れ知らずだ。
ふふっ
レーヴェの口元が歪んでいく。
笑い声に驚いた顔をしながら言い争っていた二人がレーヴェを見つめる。同じ様な表情で此方を見つめる二人に、レーヴェは益々笑いを堪える。
「…まぁ、何だ。仲良くなって良かったの」
「「何処がだよ!!」」
息ピッタリな反論に、レーヴェはとうとう吹き出してしまった。
「兎に角、一度村へ戻るとしよう」
聞けば、二人が拠点にしている村だと言う。
ちあきとレーヴェが出会った場所から歩いてそれ程もしない内に辿り着いた。
ちあきの印象としては、田舎の山の中にありそうな集落といった所だ。
シャルナンドが住んでいるという家へ案内してもらう。
村の真ん中を通っているにも関わらず、一人の村人にも出会さない事にちあきは疑問を抱いた。
「他の奴は?」
「居ないよ。ここは一度魔族に滅ぼされた村だからな」
耳を疑う言葉にちあきの瞳が開かれる。
「…は…? 滅ぼされたって何だよ? …何でそんな事…」
表情を歪め、唇を結んでいるシャルナンドに代わり、レーヴェが状況を説明する。
「魔の王誕生の予兆に、この世界の魔族が活性化しておるのだ。力を増した魔族が群れを成し、人間の街や村、精霊達の住処を襲っている」
「………」
「奴等は『魔素』を集めておるのだ。我等と違い、捕食することでしか魔素を得られない奴等があちこちで暴れ回っておる」
「………」
すっかり口を閉ざしてしまったちあきにシャルナンドが一振りの剣を見せた。
「オレは勇者として女神の啓示を受けた。証の聖剣だ。これから誕生する魔王を倒す為、ここでレーヴェと修行している」
辺りをぐるりと見渡す。
シャルナンドが住んでいる家以外はボロボロだ。全壊半壊しているもの、一部が抉られたように崩れたもの、無惨に破壊された囲い、畑もめちゃくちゃだ。
何をどうすればこんな有り様になるのか、ちあきには想像も出来なかった。
「他に仲間は?」
「え?」
「一緒に戦う仲間だよ! いないのか?」
「いない」
「何で!? こんな…こんな酷い事出来る奴らの親玉だろ!? 一人でなんて無謀だろーが!!」
「要らない」
キッパリとそう言い切ったシャルナンドを見つめる。
ヤケクソで言ったのかと反論しかけたちあきは、彼の瞳を見て言葉を呑み込んだ。
自暴自棄になった訳でも諦めた訳でも無いのだと分かったのだ。
青く澄んだ瞳には宿命を受け入れ、覚悟を決めた強い光が宿っている様に思えた。
「オレは力を与えられた。その為の力だ。だから一人でいい。オレにしか出来ない事なんだ」
「…お前…」
何だよ
少女趣味で生意気なクソガキだと思ったら
超カッケーじゃん
「しょうがねぇな。手伝ってやるか!」
「は?」
「一人よかマシだろ? どうせする事無いし、行くトコ無いしな!」
「………」
「おぬしが呼ばれたのは共に戦う為だがな」
レーヴェの補足に「そうだっけ?」とちあきが首を傾げる。
「どうせそのひねくれた性格のせいでダチいねーだろ? あたしが第一号になってやるよ!」
ニカッと笑うちあきに、シャルナンドは分かりにくく目を見開く。
「は……はぁ? そんなの、別に欲しく無…——」
言い終える前に頭をガシガシ撫で回わす。女子とは思えぬ豪快な手つきに、シャルナンドの首がガクガクと振り回されている。
「照れるな照れるな! 宜しくな、シャル」
無遠慮な手を押しのけ、シャルナンドが乱れた髪に手櫛を入れる。そんな彼の頬は心無しか赤く染まっている。
「戦闘力ゼロのクセに、生意気言ってんな!!」
「なにおー! 戦うのはライオネルがするからいんだよ!!」
「…丸投げか」
レーヴェが溜め息と共にやれやれとばかりに吐き出す。まぁ、そんな所業を許す訳もないが、今は口を挟まない。
「お前達も宜しくなー」
つい先程までシャルナンドの陰に追いやり、迫力と目力で怯えさせていた精霊達に声を掛けている。
全く。
怒った彼等に攻撃されるかもとは思わないのか。
度胸が据わっているのか、はたまた唯の考えなしなのか…。
精霊達はまるでシャルナンドの心情を表しているのか、4人で顔を見合わせながら戸惑っている様子だ。
しかしちあきに敵意を向ける者は無く、伺うようにシャルナンドの周りをふよふよ飛び回ると、その内ちあきの周りも飛び交う様になった。何処と無く嬉しそうにも窺える。
「…勝手な事を…」
視線を逸らし、頬を僅かに染め、ポツリと呟くシャルナンドの表情は、ちあきからもレーヴェからも窺えない。
彼等を見守るレーヴェの口角が僅かに上がっていた事に、二人は全く気付いていないのだった。
それから数週間後、この世界に魔族の王が誕生した。
(注:超巻き舌)
独特の舌使いでクダを巻くちあきが、金髪の少年、シャルナンドへ詰め寄っていく。
その迫力と目力に恐怖を抱いた精霊達が、何人か逃げてしまった。
そんなちあきに特に臆するでもなく少年はその場を動かない。睨む様にその黒い瞳を見つめ返している。
「見たままを言っただけだ。ただでさえ目を引くんだから、せめて変なのは格好だけにしておけ」
美形から発せられた辛辣な台詞に、ちあきのこめかみに幾筋か血管が浮き上がる。
「セーラー舐めんなコラぁ! スケバンの立派な戦闘服じゃボケぇ!!」
(注:巻き舌多め)
おでこが引っ付いてしまう程の距離まで詰め寄るちあきに、それでもシャルナンドは動かない。精霊達も常に側にいる4人以外は既に姿はなくなっている。その4人もシャルナンドの肩の向こう側へ身を隠し、目から上だけを覗かせている状態だ。白に至っては涙目だ。
「そっちこそ体中に可愛いの引っ付けやがって、どんな趣味じゃコラぁ! 思わず二度見しちまっただろーが! 乙女かコノヤロー!!」
(注:以下省略)
「な……ちが……」
涼しい顔をしていたシャルナンドの頬がたちまち上気していく。耳まで赤く染めるとちあきへ負けじと食ってかかる。
「これが趣味なわけないだろ! 勝手にくっついてくるんだよ!! 何も知らないくせに、言い掛かりはやめろ!」
「んだとクソガキ!! そっちこそ何も知らねぇクセに、あたしの戦闘服にイチャモンつけてんじゃねーぞコラぁ!」
「ガキ扱いするな! どう見たってお前の方がガキだろうが!」
「んだとぉ——」
「………」
尚も言い争いを続ける二人をレーヴェは黙って見守っている。
寡黙で感情をあまり表に出す事の無かったシャルナンドが、初対面のちあきとこうして胸の内をぶつけ合っている事に驚いたのだ。
ちあきもちあきだ。
生まれた時からシャルナンドの側には4人の精霊が付いていた。幼い彼を守る為に、近付く者を容赦なく攻撃して来た彼等の所為で、シャルナンドは常に一人で過ごしてきたのだ。
精霊の姿が見える者は尚更、彼等の魔力を伴うプレッシャーを恐れ近付こうとはしない。
それなのに、ちあきは会って間も無く精霊達だけでなく、シャルナンドの間合いにづけづけと踏み込んでいる。
此方の世界の常識が無い所為もあるのだろうが、聖獣であるレーヴェに火の魔法で脅されたばかりだと言うのに、何ともまぁ恐れ知らずだ。
ふふっ
レーヴェの口元が歪んでいく。
笑い声に驚いた顔をしながら言い争っていた二人がレーヴェを見つめる。同じ様な表情で此方を見つめる二人に、レーヴェは益々笑いを堪える。
「…まぁ、何だ。仲良くなって良かったの」
「「何処がだよ!!」」
息ピッタリな反論に、レーヴェはとうとう吹き出してしまった。
「兎に角、一度村へ戻るとしよう」
聞けば、二人が拠点にしている村だと言う。
ちあきとレーヴェが出会った場所から歩いてそれ程もしない内に辿り着いた。
ちあきの印象としては、田舎の山の中にありそうな集落といった所だ。
シャルナンドが住んでいるという家へ案内してもらう。
村の真ん中を通っているにも関わらず、一人の村人にも出会さない事にちあきは疑問を抱いた。
「他の奴は?」
「居ないよ。ここは一度魔族に滅ぼされた村だからな」
耳を疑う言葉にちあきの瞳が開かれる。
「…は…? 滅ぼされたって何だよ? …何でそんな事…」
表情を歪め、唇を結んでいるシャルナンドに代わり、レーヴェが状況を説明する。
「魔の王誕生の予兆に、この世界の魔族が活性化しておるのだ。力を増した魔族が群れを成し、人間の街や村、精霊達の住処を襲っている」
「………」
「奴等は『魔素』を集めておるのだ。我等と違い、捕食することでしか魔素を得られない奴等があちこちで暴れ回っておる」
「………」
すっかり口を閉ざしてしまったちあきにシャルナンドが一振りの剣を見せた。
「オレは勇者として女神の啓示を受けた。証の聖剣だ。これから誕生する魔王を倒す為、ここでレーヴェと修行している」
辺りをぐるりと見渡す。
シャルナンドが住んでいる家以外はボロボロだ。全壊半壊しているもの、一部が抉られたように崩れたもの、無惨に破壊された囲い、畑もめちゃくちゃだ。
何をどうすればこんな有り様になるのか、ちあきには想像も出来なかった。
「他に仲間は?」
「え?」
「一緒に戦う仲間だよ! いないのか?」
「いない」
「何で!? こんな…こんな酷い事出来る奴らの親玉だろ!? 一人でなんて無謀だろーが!!」
「要らない」
キッパリとそう言い切ったシャルナンドを見つめる。
ヤケクソで言ったのかと反論しかけたちあきは、彼の瞳を見て言葉を呑み込んだ。
自暴自棄になった訳でも諦めた訳でも無いのだと分かったのだ。
青く澄んだ瞳には宿命を受け入れ、覚悟を決めた強い光が宿っている様に思えた。
「オレは力を与えられた。その為の力だ。だから一人でいい。オレにしか出来ない事なんだ」
「…お前…」
何だよ
少女趣味で生意気なクソガキだと思ったら
超カッケーじゃん
「しょうがねぇな。手伝ってやるか!」
「は?」
「一人よかマシだろ? どうせする事無いし、行くトコ無いしな!」
「………」
「おぬしが呼ばれたのは共に戦う為だがな」
レーヴェの補足に「そうだっけ?」とちあきが首を傾げる。
「どうせそのひねくれた性格のせいでダチいねーだろ? あたしが第一号になってやるよ!」
ニカッと笑うちあきに、シャルナンドは分かりにくく目を見開く。
「は……はぁ? そんなの、別に欲しく無…——」
言い終える前に頭をガシガシ撫で回わす。女子とは思えぬ豪快な手つきに、シャルナンドの首がガクガクと振り回されている。
「照れるな照れるな! 宜しくな、シャル」
無遠慮な手を押しのけ、シャルナンドが乱れた髪に手櫛を入れる。そんな彼の頬は心無しか赤く染まっている。
「戦闘力ゼロのクセに、生意気言ってんな!!」
「なにおー! 戦うのはライオネルがするからいんだよ!!」
「…丸投げか」
レーヴェが溜め息と共にやれやれとばかりに吐き出す。まぁ、そんな所業を許す訳もないが、今は口を挟まない。
「お前達も宜しくなー」
つい先程までシャルナンドの陰に追いやり、迫力と目力で怯えさせていた精霊達に声を掛けている。
全く。
怒った彼等に攻撃されるかもとは思わないのか。
度胸が据わっているのか、はたまた唯の考えなしなのか…。
精霊達はまるでシャルナンドの心情を表しているのか、4人で顔を見合わせながら戸惑っている様子だ。
しかしちあきに敵意を向ける者は無く、伺うようにシャルナンドの周りをふよふよ飛び回ると、その内ちあきの周りも飛び交う様になった。何処と無く嬉しそうにも窺える。
「…勝手な事を…」
視線を逸らし、頬を僅かに染め、ポツリと呟くシャルナンドの表情は、ちあきからもレーヴェからも窺えない。
彼等を見守るレーヴェの口角が僅かに上がっていた事に、二人は全く気付いていないのだった。
それから数週間後、この世界に魔族の王が誕生した。
応援ありがとうございます!
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