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第2章

21話―なんだか貴族っぽくなってきましたね。

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「教会も交えて夜会を開くことになった」


 いつもの如く、ハワード様がアルカン邸へやって来て、お茶とお茶菓子を半ば強制的に要求され、皆が席へ着いた頃、唐突にそれを聞かされた。

「へぇー」

 全く関係ない私は適当な相づちを挟み、茶をすする。
 アルクさんは苦笑いを浮かべ、シャルくんもおやつの『ドーナツ』に夢中だ。
 メリッサに、目で『王子に失礼ですよ』と言われたが、仕方無いと思う。

『夜会』が何かをよく知らないし。

 貴族のお偉いさん方が集まってお酒飲んだりダンスしたりするアレの事でしょうか?
 どうぞご自由に。
 そう呑気に構えていたら、まさかのアルクさんから変化球を食らった。

「今回の主役はシャガールとえみだよ」

「「は?」」

 シャルくんと綺麗にハモったね!
 なんで今日はシャルくんも一緒なのかと思っていたらいたらそういうことか。

「どういうことですか!?  聞いてませんけど!!」

 目を怒らせてハワード様を睨み付けると

「今言ったからな」

 なんて軽く受け流されてしまう。

「オレはともかく、えみもですか?」

 シャルくんは確かに『勇者様』として、表舞台に立つ機会は多いだろう。
 私の場合は『黒の巫女』とは言われているが、基本的には補佐役だ。
 積極的に表舞台に立つ必要は無いように思うのだが……。

「教会の連中がな…えみを正式な『巫女』としてお披露目しろと言ってきている」

「……どうしてでしょうか……」

 また偉い人の前に出ていかなければならないなんて震えますけど。
 まさかソラを連れて乗り込んだこと、根に持ってるとか!?
 悪いのは全部ハワード様なのに!?
 などと独りで混乱していると、

「どちらかと言えば、えみは『教会派』の人間になるからだよ」

 と、アルクさんから解説が入った。


 アルクさんが言うことには、教会は元々女神であるミランツェ様を自分達の唯一神として信仰している。
 魔力を持つ人間は女神の力の一部を頂いた信者とみなされ、教会が有する『聖騎士団』へ入団することが許されるのだ。
『勇者』は、女神様の魔力を生まれながらにして持っている為、信仰する神の落とし子とされ、教会の管理下へ置かれる事が、国との誓約の中で決められているのだそうだ。
    シャルくんが『騎士団』ではなく、『聖騎士団』へ入隊したのは、そういう理由からだった。
 そして、『黒の巫女』もまた、女神様の恩恵を受けている人間の為、本来ならば教会の管理下へ置かれるのだ。
 が、今回(私の場合)は教会へ所属する前に、精霊や四聖獣の契約者となり、王宮騎士団のアルクさんの婚約者となったことから、教会ではなく王宮の管理下へ置かれる事となったのだ。
 謂わば『特例』なのだそうだ。


「よって、教会は自分達の面子を保つ為にえみを表舞台に立たせろと言ってきている」

「それがどうして夜会なんですか?  女子がドレス着て化粧して出ていくアレですよね?」

「教会主催で認定式やるって言ったのを、オレが断ったからな」

「…………」

「数日後には王都を出発するのに、そんな事に時間を取っている暇はないと言ったら、騎士昇格試験合格者を祝う為の夜会に参加させろと、ねじ込まれた。流石にそっちは断れないから仕方無く了承したと言うわけだ」


 要するに、王宮に巫女捕られたから、せめて教会の公認ですよと公の場で言わせろと。
 そこで、巫女の顔を拝んでやろうじゃないかと。
 そういう事ですかな?

 あー……面倒くせー……
 全部ハワード様のせいじゃねぇか!


「まぁ、いつかのホットケーキの礼と言うことで、参加してくれ。ついでに料理の監修頼むな」

「え、全っ然嬉しくないけど。逆に迷惑ですけど。迷惑以外有りませんけど!  そして絶対そっちメインですよね!?」

 おっといけない!
 心に留めておくつもりが、駄々もれてしまいました。
 最近巫女使い荒くて心の声を心に留めて置けなくなってきている。
 全てハワード様のせいだけど。
 ハワード様は「ドレスで着飾って皆の注目を集めるのが嫌いな女が存在したとは……」
 とかなんとか、驚愕の表情でぶつぶつ言ってる。
 女がみんな派手好きだと思ったら大間違いだから!
 アルクさんはまたまた苦笑いだ。
 メリッサはハラハラした様子でこちらを伺っている。

「まぁ、とにかく明後日の夜だから、アルにとびきりのドレスを用意して貰ってくれ」

「え?」

 思わずアルクさんの方を見ると、アイドルスマイルがそこにはあった。

「妻のドレスを用意するのは夫の仕事だからね」

 なんて言いながら、メリッサへ仕立て屋を呼ぶよう手配している。
 もう夫婦にでもなったかのような言い草に、血液が沸点へ到達してしまった。
『虫刺され』の事を思い出してしまって、途端に顔が見られなくなってしまう。


「だったらオレは装飾品を贈るよ」

 そう言って手を握ってきたのはシャルくんだ。
 きょとんとしていると、キラっキラの眼差しが降り注ぐ。

「だって、アルクさんはまだ婚約者だろ?  それならオレだってそうだ。だから、オレもえみに贈りたい」

「やぁ……それは……」

 面倒くさくなってきたなと思っていたら、案の定アルクさんから黒いオーラが……。

「それなら、オレもだな」

 なんて言って、まさかのハワード様まで参戦してくる。
 あなたが絡むと余計にややこしくなると何故わからない?
 絶対面白がってるだけだよね?


 結局話し合いの末、シャルくんにネックレスと腕輪を、ハワード様にティアラと耳飾りを作って頂くことになった。

 どうしていつもこうなるんだろう……

 盛大な溜め息を吐き出し、恐ろしさに打ち震えていると、今度は執事さんから私宛の来客の知らせが入った。

「私に、ですか?」

 驚いて聞き返していると、使いの方らしき女性が現れる。

「えみ・ナカザト様でいらっしゃいますね」

「え、ええ」

「お嬢様から、こちらをお預かりして参りました」

 渡されたのは真っ白な封筒だ。
 わざわざ封蝋印まで押してある。
 もう嫌な予感しかしない……。


 それは、エトワーリル・ド・ツェヴァンニ様からの茶会への招待状だった。
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