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第二章
ティアナの憂鬱
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アルスト殿下達の救出が無事に済んで、あたしは自宅であるローゼン家の邸へ向かう為に王家所有の馬車に揺られていた。向かい側の席には何日も監禁されていたとは思えない程、いつもと変わらず爽やかな微笑みを携えているアルスト殿下が座っている。
あの地下広間で久々に殿下達のお姿を拝見出来た時、あまりの嬉しさに本当は駆け寄ってしまいそうになったけどそこは淑女たるもの。ぐっと我慢して堪えた。殿下が特に大きな怪我も無く無事な様子に安堵し、部下達へとテキパキと指示を飛ばしているお姿をあたしは黙って見守る。
でも実は自分の胸がドキドキと早鐘を打っている事に少し驚きつつも、それを誰かに悟られやしないかとヒヤヒヤしていた。だって、こんな時に殿下のお姿にドキドキしてるだなんて。なんて自分は不謹慎なんだろう……と。
幼い頃から互いに知る仲でもあり、少し変わった所はあるけれど多くの貴族令嬢が憧れる誰もが認める素敵な王子様――。そんな彼のお姿をずっと近くで見て来たし、部下に指示を出す所なんて見慣れている筈なのに……暫く会えなかったせいなのか、彼の一挙手一投足がキラキラと眩しく見えてしまう。
すぐにでも傍に駆け寄ってあの腕に触れてみたい……だとか、思考はなんだかおかしな方向へと向かってしまう自分にどうして良いのか分からなくなる。そして久々に「ティアナ」と名前を呼ばれ、それだけで顔が火照ってしまっていた。
だけど――。名前を呼ばれた後ようやく落ち着いてお話が出来るのかと思っていたら「ティアナも有難う。さあ、邸まで送るよ」と、あたしの手も取らずに少し距離を取りながら馬車の方へと先導されてしまった。いつもの彼ならまずは再会のハグがあったり馬車までは手を取ってエスコートして下さるのに普段と違う態度に戸惑ってしまった。
勿論、パッと見はお元気そうに見えるが連日監禁されていたのだからお疲れになっているだろう。だからあたしも別に我儘をいうつもりはない。そうじゃなくて、何だか他人行儀な感じの殿下の対応に急に不安を感じてしまったのだ。
こうして目の前に座って優しく微笑んで下さっているお姿だけを見れば、何を不安がっているのだろうと思う。けれど再会してから一度もあたしに触れて下さらないし、馬車へ乗る際も何故か殿下付き従者のデペッシュにエスコートを任せる程だ。
「あの……お疲れでしたら、少し横になられてはいかがですか?」
会話すら殆どない馬車内であたしは精一杯笑顔を保ってそう殿下へと声を掛けた。元気そうに見えていても本当は無理をしていて、お疲れで眠りたいのかもしれない。ここには婚約者のあたししか居ないのだから少しくらい気を抜いて休んでも構わない筈だ。
「え? ――あぁ、大丈夫だよ気遣い有難う。ティアナこそ疲れてはいないかい?」
「わたくしは平気ですわ。こう見えて体力はありますもの」
「そうか、それは頼もしいな」
そう言って笑みを返してくれる殿下。だけどすぐに視線は馬車の窓へと向けられてしまう。さっきから会話をしてもすぐにこうして途切れてしまうのだ。やはりいつもの殿下とは何か違う。
――あたし、自分で気付かぬ所で何か殿下のお気に障る事でもしてしまったのかしら。それともこの会えなかった数日の間に何かがあって、殿下のお心が変わってしまったとか……?
こうして不安は拭えぬまま、ただひたすら馬車が邸へと到着するのを待つだけの時間がとても辛く感じて仕方なかった。
あの地下広間で久々に殿下達のお姿を拝見出来た時、あまりの嬉しさに本当は駆け寄ってしまいそうになったけどそこは淑女たるもの。ぐっと我慢して堪えた。殿下が特に大きな怪我も無く無事な様子に安堵し、部下達へとテキパキと指示を飛ばしているお姿をあたしは黙って見守る。
でも実は自分の胸がドキドキと早鐘を打っている事に少し驚きつつも、それを誰かに悟られやしないかとヒヤヒヤしていた。だって、こんな時に殿下のお姿にドキドキしてるだなんて。なんて自分は不謹慎なんだろう……と。
幼い頃から互いに知る仲でもあり、少し変わった所はあるけれど多くの貴族令嬢が憧れる誰もが認める素敵な王子様――。そんな彼のお姿をずっと近くで見て来たし、部下に指示を出す所なんて見慣れている筈なのに……暫く会えなかったせいなのか、彼の一挙手一投足がキラキラと眩しく見えてしまう。
すぐにでも傍に駆け寄ってあの腕に触れてみたい……だとか、思考はなんだかおかしな方向へと向かってしまう自分にどうして良いのか分からなくなる。そして久々に「ティアナ」と名前を呼ばれ、それだけで顔が火照ってしまっていた。
だけど――。名前を呼ばれた後ようやく落ち着いてお話が出来るのかと思っていたら「ティアナも有難う。さあ、邸まで送るよ」と、あたしの手も取らずに少し距離を取りながら馬車の方へと先導されてしまった。いつもの彼ならまずは再会のハグがあったり馬車までは手を取ってエスコートして下さるのに普段と違う態度に戸惑ってしまった。
勿論、パッと見はお元気そうに見えるが連日監禁されていたのだからお疲れになっているだろう。だからあたしも別に我儘をいうつもりはない。そうじゃなくて、何だか他人行儀な感じの殿下の対応に急に不安を感じてしまったのだ。
こうして目の前に座って優しく微笑んで下さっているお姿だけを見れば、何を不安がっているのだろうと思う。けれど再会してから一度もあたしに触れて下さらないし、馬車へ乗る際も何故か殿下付き従者のデペッシュにエスコートを任せる程だ。
「あの……お疲れでしたら、少し横になられてはいかがですか?」
会話すら殆どない馬車内であたしは精一杯笑顔を保ってそう殿下へと声を掛けた。元気そうに見えていても本当は無理をしていて、お疲れで眠りたいのかもしれない。ここには婚約者のあたししか居ないのだから少しくらい気を抜いて休んでも構わない筈だ。
「え? ――あぁ、大丈夫だよ気遣い有難う。ティアナこそ疲れてはいないかい?」
「わたくしは平気ですわ。こう見えて体力はありますもの」
「そうか、それは頼もしいな」
そう言って笑みを返してくれる殿下。だけどすぐに視線は馬車の窓へと向けられてしまう。さっきから会話をしてもすぐにこうして途切れてしまうのだ。やはりいつもの殿下とは何か違う。
――あたし、自分で気付かぬ所で何か殿下のお気に障る事でもしてしまったのかしら。それともこの会えなかった数日の間に何かがあって、殿下のお心が変わってしまったとか……?
こうして不安は拭えぬまま、ただひたすら馬車が邸へと到着するのを待つだけの時間がとても辛く感じて仕方なかった。
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