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第二章
満月の夜④ アルストSide
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「……さて。バハム伯爵……と呼んで良いのかな?」
「えっ、わたしっ!?」
後ろ手に縄で縛られて座り込んでいるバハム伯爵に向かって、俺は声を掛けた。なんとなく状況は理解しているが念の為確認は必要だろう。
「そうだ。とは言っても恐らく中身はバハム伯爵ではないという認識で間違いないか?」
俺の問いかけにバハム伯爵は自分の身体をあちこち眺めて確認を始めたので光魔法で鏡を作り出して、自身の姿を見せてやった。マジマジと鏡の中の姿を確認したバハム伯爵はガックリと肩を落として項垂れた。
「うう……どう見てもバハム伯爵だわ。これって憧れのゲーム転生よね!? そして貴方達もそうなのよね?」
涙目になりながらこちらへ問いかけてくる伯爵に俺ら三人は頷いてみせる。ただ中身は他の転生者と同じ様に恐らく前世では女性だったのだろうが、なんせ外見は三十代後半のヒョロッとした中年男がうるうるした瞳をこちらに向けているのだから何とも言えない気分になる。
「ゲーム転生して喜んだのになんでわたし、バハム伯爵なのよー。しかもこれってもう終盤のバハム邸のイベント!? 思いっきり詰んでるじゃないの……」
「まぁ……この後はバーベンス伯爵と共に処刑となるであろうからな……」
「何の罰ゲームよ、まだ何にもこの世界楽しんでないのに……」
嘆くバハム伯爵を気の毒には思うが不運だと言うしかない。転生先によって(しかも転生するタイミングによって)こんなに境遇が変わる事になるとは今の今まで気に留めた事もなかった。まぁ、俺の場合はこうして王太子に転生して結構自由に生活しているからな……。
「とは言うものの確かにこのままシナリオ通り処刑するのは後味が悪いな……」
俺は暫し考え、落ち込んで床にへたり込んでいる新たな転生者へと提案する。
「……なんとか俺の権限で処刑は回避してやろう。その代わり、俺に忠誠を誓って俺の言う事をなんでも聞くと約束するか?」
「するするっ! なんでも言う事聞きます!!」
バハム伯爵は屈指の錬金術師だ。この先使い道は幾らでもあるだろう。思わぬ所でいいカードを手に入れたかもしれない。だが表向きにはシナリオ通りに裁きを下した事にしなくてはならないだろう。今の本人には責任は無いとは言え、王族と高位貴族を拉致したのだ。
また面倒な処理が増えたな……と内心溜息をつきながら、今後の段取りを説明した後に展開していた光魔法を解除した。すかさずタクト達が駆け寄って来る。
「罪人を連行しろ」
「はっ!」
騎士達へと指示を出すと不安そうな顔をしながらもバハム伯爵とその部下は大人しく連行されて行った。
「それからパチェット嬢。今回の手助け、礼を言う。後日何か褒美を贈らせて貰うよ」
「えっ、本当!? だったら甘いお菓子がいいな、もう随分と食べてないんだもの」
疲労困憊という表情を見せていたが一瞬でぱぁあああっと瞳を輝かせるパチェット嬢を見て、相変わらずの様子に苦笑いする。
「タクト、悪いがパチェット嬢を修道院へと送り届けてくれないか。その後、城へ来てくれ」
「分かった」
「じゃあ、わたくしも同行致します」
アスチルゼフィラ嬢が俺に一礼をし、パチェット嬢とタクトの後を追う。この騒動の間ずっとタクトの事が心配だったのであろう。目の下に少し隈が出来ている様だったが、こうして無事再会出来て少しは安堵しただろう。ティアナの友人、イーグル嬢はスクトが邸まで送ると言って数名の騎士を連れて先に出て行った。
そして勿論、我が愛しのティアナについては俺自身がローゼン邸へと送るのが当然だろう。俺が色々と指示を出している中、ティアナは少し離れた所で俺の事を待っていた。何やら話し掛けたそうにしながらも、何も言わずに俺の事を見ている姿が可愛くて堪らなくて思わず鼻息が荒くなりそうなのを必死に抑えたのだった。
「えっ、わたしっ!?」
後ろ手に縄で縛られて座り込んでいるバハム伯爵に向かって、俺は声を掛けた。なんとなく状況は理解しているが念の為確認は必要だろう。
「そうだ。とは言っても恐らく中身はバハム伯爵ではないという認識で間違いないか?」
俺の問いかけにバハム伯爵は自分の身体をあちこち眺めて確認を始めたので光魔法で鏡を作り出して、自身の姿を見せてやった。マジマジと鏡の中の姿を確認したバハム伯爵はガックリと肩を落として項垂れた。
「うう……どう見てもバハム伯爵だわ。これって憧れのゲーム転生よね!? そして貴方達もそうなのよね?」
涙目になりながらこちらへ問いかけてくる伯爵に俺ら三人は頷いてみせる。ただ中身は他の転生者と同じ様に恐らく前世では女性だったのだろうが、なんせ外見は三十代後半のヒョロッとした中年男がうるうるした瞳をこちらに向けているのだから何とも言えない気分になる。
「ゲーム転生して喜んだのになんでわたし、バハム伯爵なのよー。しかもこれってもう終盤のバハム邸のイベント!? 思いっきり詰んでるじゃないの……」
「まぁ……この後はバーベンス伯爵と共に処刑となるであろうからな……」
「何の罰ゲームよ、まだ何にもこの世界楽しんでないのに……」
嘆くバハム伯爵を気の毒には思うが不運だと言うしかない。転生先によって(しかも転生するタイミングによって)こんなに境遇が変わる事になるとは今の今まで気に留めた事もなかった。まぁ、俺の場合はこうして王太子に転生して結構自由に生活しているからな……。
「とは言うものの確かにこのままシナリオ通り処刑するのは後味が悪いな……」
俺は暫し考え、落ち込んで床にへたり込んでいる新たな転生者へと提案する。
「……なんとか俺の権限で処刑は回避してやろう。その代わり、俺に忠誠を誓って俺の言う事をなんでも聞くと約束するか?」
「するするっ! なんでも言う事聞きます!!」
バハム伯爵は屈指の錬金術師だ。この先使い道は幾らでもあるだろう。思わぬ所でいいカードを手に入れたかもしれない。だが表向きにはシナリオ通りに裁きを下した事にしなくてはならないだろう。今の本人には責任は無いとは言え、王族と高位貴族を拉致したのだ。
また面倒な処理が増えたな……と内心溜息をつきながら、今後の段取りを説明した後に展開していた光魔法を解除した。すかさずタクト達が駆け寄って来る。
「罪人を連行しろ」
「はっ!」
騎士達へと指示を出すと不安そうな顔をしながらもバハム伯爵とその部下は大人しく連行されて行った。
「それからパチェット嬢。今回の手助け、礼を言う。後日何か褒美を贈らせて貰うよ」
「えっ、本当!? だったら甘いお菓子がいいな、もう随分と食べてないんだもの」
疲労困憊という表情を見せていたが一瞬でぱぁあああっと瞳を輝かせるパチェット嬢を見て、相変わらずの様子に苦笑いする。
「タクト、悪いがパチェット嬢を修道院へと送り届けてくれないか。その後、城へ来てくれ」
「分かった」
「じゃあ、わたくしも同行致します」
アスチルゼフィラ嬢が俺に一礼をし、パチェット嬢とタクトの後を追う。この騒動の間ずっとタクトの事が心配だったのであろう。目の下に少し隈が出来ている様だったが、こうして無事再会出来て少しは安堵しただろう。ティアナの友人、イーグル嬢はスクトが邸まで送ると言って数名の騎士を連れて先に出て行った。
そして勿論、我が愛しのティアナについては俺自身がローゼン邸へと送るのが当然だろう。俺が色々と指示を出している中、ティアナは少し離れた所で俺の事を待っていた。何やら話し掛けたそうにしながらも、何も言わずに俺の事を見ている姿が可愛くて堪らなくて思わず鼻息が荒くなりそうなのを必死に抑えたのだった。
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