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罠?これは罠ですか?

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 アルフレッド様の手が私の頬を撫で、その銀の瞳が私を見つめている。

 いけないわ。心臓が大爆走してるわっ!ものすごく激しい音を立ててるわ!このままでは大事故を起こしてしまうわ!

 落ち着いて!私は25歳の大人よ(中身)
ここは大人の女の余裕で、にっこりと微笑むのよ!

 微笑もうと思うのに、私はアルフレッド様の瞳を見つめたまま動くことができない。
 駄目だわ!表情筋が死んでるわっ!
しっかりして!花っ!!

「アルフレッド様」

「うん?」

「アルフレッド様は、どうして私の婚約者になってくださったの?」

 そんなこと、口にするつもりはなかったのに、口から出たのは疑問だった。

 例え王妃様が強く求めたとしても、アルフレッド様は王太子だ。断ることだってできたはず。
 ましてや、私は元々が平民だ。王太子妃には相応しくない。

 私は、頬に添えられたアルフレッド様の手のひらに頭を傾げた。
 私より大きな、ゴツゴツした手に、自分のそれを重ねる。

「・・・っ」

 私の頬と手に挟まれた手のひらが、ビクッと震えた気がしたけど、私はそのまま目を閉じる。

「ローズは、僕ではだめだった?」

「ふふっ。そんなわけありません」

 目を瞑ったまま笑う私の頬を、アルフレッド様の親指がスッと撫でた。ふふっ。くすぐったい。

「どうしてそんなこと聞くの?」

「だって、王太子妃に相応しい方は他にたくさんいますもの」

「王太子妃に相応しい令嬢は確かに他にもいるけど・・・僕に相応しい令嬢に婚約者になって欲しかったんだ」

 え?それってー

 思わず手のひらから顔を上げた私の唇が、しっとりとした何かに触れた。
 アルフレッド様は、びっくりしたようなお顔をされていて。

「!?!?」

 えっ?今のって・・・
手のひらじゃないわよね、だって、私の頬を乗せてたもの。
 じゃあ、整ったアルフレッド様のお鼻かしら?それとも、ほんのり赤く染まっている頬?

「アル・・・フレッド様?」

 思ってたより近づいていたお顔が、いたずらを見つかった子供のように、ニヤリと笑った。

 あら?いけないお顔だわ。そんなお顔もされるのね。

 ゲームの中では見たことのなかった顔をした『モブの王太子殿下』が、アルフレッド・フォーチューンとして目の前で生きているということを、私は改めて感じずにいられなかった。

 その、薄い唇が弧を描き、私の唇にアルフレッド様の長い人差し指がそっと触れてくる。

 な、な、な、な、何をするのっ!
しゅ、しゅ、淑女の唇に触れるなんて!
 こんなタラシな15歳は、お、大人のお姉さんが注意しなくちゃいけないわっ!
 ああっ!でも今なにかを言おうとしたら、私の唇を押すこの長い指が、お口の中に入ってしまうわっ!

 罠?これは何かの罠なの?

 私の唇をフニフニとしばらく押した後、アルフレッド様の指は、今度はご自分の薄い唇に添えるように立てられた。

「誰にも内緒だよ?」

 きゃぁぁぁぁぁ!

 その麗しいお顔に、私の心臓は動くことをやめたようだ。
 激しくドキン!と胸を震わせた後、私はそのまま気を失ってしまったー

 駄目よ、心臓さん。働くことを拒否しないで。勤勉なあなたに戻ってちょうだい。

 そんなことを思いながら。



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