上 下
29 / 30

勝手なものです

しおりを挟む
「ネモフィラ王国は、我がメルキオール王国と戦をするつもりか?」

 ヴィンセント様の問いに、ネモフィラ王国の王太子殿下は顔色を悪くさせます。

 聖女の力に頼りきりで、ろくに騎士たちの育成をしていなかった(今は知りませんけど)ネモフィラ王国と、最強と呼ばれる魔王であるヴィンセント様。

 戦わずしてどちらに軍配が上がるのかは、私でも分かります。

「・・・ッ!せっ、聖女を監禁した上に戦を仕掛けたなどと他国に知られれば、メルキオール王国は孤立するでしょう!いっ、今までの外交努力は無と記しますよ、よろしいのですか?今、聖女を引き渡せば、その発言もなかったことにして差し上げ・・・」

「くどい」

 まだしつこく言い募る王太子殿下を、ヴィンセント様はバッサリと切り捨てました。

「やりたければやればいい。我が国は別に外交したいわけでもない。人が我らを厭うなら、誰もこの国には入れないようにして、静かに暮らしていくだけだ。ノワール、謁見は終わりだ。帰っていただけ」

「かしこまりました」

 ノワールさんが恭しく頭を下げ、ヴィンセント様は玉座から立ち上がります。

 ヴィンセント様に手を引かれて立ち上がった私に、王太子殿下は手を伸ばそうとしましたが・・・

 イブリンとアレッタが立ち塞がり、その手が私に届くことはありませんでした。

 言葉を交わすこともありませんでしたけど、何だか過去の王太子殿下と変わらないですね。

 まぁ、どういう人だろうと、全くもってどうでもいいです。

 二度と会うこともないでしょうし。

「でも、外交ができなくなってもいいのですか?」

 お部屋に戻る途中で、ヴィンセント様に尋ねてみました。

 ネモフィラ王国に囚われるのは絶対に嫌ですが、回復薬とかを売るとかなら別に新たに作りますし。

 そう思って尋ねると、ヴィンセント様は「平気だ」とお答えになりました。

「元々、魔族と人は相容れなかった。人はあまりに強い魔族を畏れたし、魔物との区別が付かずに攻撃してくる者もいた。だから、人間の国と離れたここに国を築いた。同胞たちを守るために。聖女がいたネモフィラ王国は知らぬが、他の国は魔物に襲撃されることもある。ある時、スタンピードが起きた。助けを求めて来た国を救ったことで、外交が始まったのだ。だから、別段困らない。何よりルディアを引き渡すなどあり得ない」

 人というものは勝手なものです。
助けを求めるときだけ媚びへつらい、喉元を過ぎるとそれを忘れるのですから。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【本編完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,086pt お気に入り:3,714

ときめき♥沼落ち確定★婚約破棄!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:752pt お気に入り:573

朔の生きる道

BL / 連載中 24h.ポイント:1,831pt お気に入り:175

婚約者の様子がおかしいので尾行したら、隠し妻と子供がいました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:38,305pt お気に入り:571

【完結】ヒーロー兄弟に助けられた悪役くん

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,454

【R18】絶倫にイかされ逝きました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:901pt お気に入り:103

処理中です...