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37.私の見間違いなら良いのに
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最初の街で休息をとってから、二つ目の街に着いた。
この街を超えると、あとは王都まで小さな街になるので、ここで二日ほどゆっくり疲れをとってから出立することになる。
この街からアスラン様に、帰還する旨のお手紙を出す予定だ。
さすがに他国の令嬢が、連絡も入れずに王都に入るわけにはいかない。
リュカと数人の護衛を伴って、街に便箋を買いに出かける。
残りの護衛と私の世話役の侍女には、宿で休んでもらう。
夜も交代で護衛するために、先に眠る必要があるからだ。
「便箋と・・・あと、マデリーン王国に戻る護衛たちに何かお土産を・・・え?」
世話役の侍女と数人の護衛たちは、私を王都に送り届けたらすぐにマデリーン王国へ戻るので、王都でお土産を買う余裕がない。
だから、この街で何か買っておこうと思ったのだけど・・・
私は離れた店から出てきた、見慣れた後ろ姿に思わず足を止めた。
蜂蜜色の髪に細身だけどしっかりと鍛えられた体躯の青年は、エメラルド色の瞳で隣に立つ金色のウェーブした髪をハーフアップにしたとても美しい令嬢に笑いかけている。
私はそれと同じ光景を、何度もクライゼン王国の王宮で見ていたから・・・
その二人が別人だとは思わなかった。
「お嬢様、どう・・・!」
リュカが気付いて、彼らに近づこうとするのを手を引いて止める。
「お嬢様?」
「良いの、リュカ。今は王太子殿下もいらっしゃらないから、単にお忍びで買い物にでも来ているんでしょう。王都では二人は目立ってしまうから」
元々、二人の距離は近いと思ったことがある。
でも、フランチェスカ様はアスラン様のお兄様である王太子殿下の婚約者で、すでに王太子妃教育も終えられている方。
アスラン様とフランチェスカ様は同い年だし、私とウィリアム殿下の関係と似ているのかもしれない。
レオナルド王太子殿下に年齢の近い身分の合うご令嬢がいたら、もしかしたらフランチェスカ様はアスラン様の婚約者だったのかも。
でもお二人は、王太子殿下の婚約者、私の婚約者として振る舞って下さっていた。
だから、あれは何でもないのだ。
いずれ姉と弟になるお二人だし、もしかしたら王太子殿下に贈るプレゼントでも買いに来ているのかもしれない。
「大丈夫よ、リュカ。私はアスラン様もフランチェスカ様も信じているから」
「・・・はい」
「それよりもお買い物に行きましょう?早く戻らないとみんなも心配するわ」
私は、二人が消えた方角と逆に向かって歩き出した。
胸の奥に刺さった、小さな棘に気付かないふりをして。
この街を超えると、あとは王都まで小さな街になるので、ここで二日ほどゆっくり疲れをとってから出立することになる。
この街からアスラン様に、帰還する旨のお手紙を出す予定だ。
さすがに他国の令嬢が、連絡も入れずに王都に入るわけにはいかない。
リュカと数人の護衛を伴って、街に便箋を買いに出かける。
残りの護衛と私の世話役の侍女には、宿で休んでもらう。
夜も交代で護衛するために、先に眠る必要があるからだ。
「便箋と・・・あと、マデリーン王国に戻る護衛たちに何かお土産を・・・え?」
世話役の侍女と数人の護衛たちは、私を王都に送り届けたらすぐにマデリーン王国へ戻るので、王都でお土産を買う余裕がない。
だから、この街で何か買っておこうと思ったのだけど・・・
私は離れた店から出てきた、見慣れた後ろ姿に思わず足を止めた。
蜂蜜色の髪に細身だけどしっかりと鍛えられた体躯の青年は、エメラルド色の瞳で隣に立つ金色のウェーブした髪をハーフアップにしたとても美しい令嬢に笑いかけている。
私はそれと同じ光景を、何度もクライゼン王国の王宮で見ていたから・・・
その二人が別人だとは思わなかった。
「お嬢様、どう・・・!」
リュカが気付いて、彼らに近づこうとするのを手を引いて止める。
「お嬢様?」
「良いの、リュカ。今は王太子殿下もいらっしゃらないから、単にお忍びで買い物にでも来ているんでしょう。王都では二人は目立ってしまうから」
元々、二人の距離は近いと思ったことがある。
でも、フランチェスカ様はアスラン様のお兄様である王太子殿下の婚約者で、すでに王太子妃教育も終えられている方。
アスラン様とフランチェスカ様は同い年だし、私とウィリアム殿下の関係と似ているのかもしれない。
レオナルド王太子殿下に年齢の近い身分の合うご令嬢がいたら、もしかしたらフランチェスカ様はアスラン様の婚約者だったのかも。
でもお二人は、王太子殿下の婚約者、私の婚約者として振る舞って下さっていた。
だから、あれは何でもないのだ。
いずれ姉と弟になるお二人だし、もしかしたら王太子殿下に贈るプレゼントでも買いに来ているのかもしれない。
「大丈夫よ、リュカ。私はアスラン様もフランチェスカ様も信じているから」
「・・・はい」
「それよりもお買い物に行きましょう?早く戻らないとみんなも心配するわ」
私は、二人が消えた方角と逆に向かって歩き出した。
胸の奥に刺さった、小さな棘に気付かないふりをして。
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