37 / 105
37.私の見間違いなら良いのに
しおりを挟む
最初の街で休息をとってから、二つ目の街に着いた。
この街を超えると、あとは王都まで小さな街になるので、ここで二日ほどゆっくり疲れをとってから出立することになる。
この街からアスラン様に、帰還する旨のお手紙を出す予定だ。
さすがに他国の令嬢が、連絡も入れずに王都に入るわけにはいかない。
リュカと数人の護衛を伴って、街に便箋を買いに出かける。
残りの護衛と私の世話役の侍女には、宿で休んでもらう。
夜も交代で護衛するために、先に眠る必要があるからだ。
「便箋と・・・あと、マデリーン王国に戻る護衛たちに何かお土産を・・・え?」
世話役の侍女と数人の護衛たちは、私を王都に送り届けたらすぐにマデリーン王国へ戻るので、王都でお土産を買う余裕がない。
だから、この街で何か買っておこうと思ったのだけど・・・
私は離れた店から出てきた、見慣れた後ろ姿に思わず足を止めた。
蜂蜜色の髪に細身だけどしっかりと鍛えられた体躯の青年は、エメラルド色の瞳で隣に立つ金色のウェーブした髪をハーフアップにしたとても美しい令嬢に笑いかけている。
私はそれと同じ光景を、何度もクライゼン王国の王宮で見ていたから・・・
その二人が別人だとは思わなかった。
「お嬢様、どう・・・!」
リュカが気付いて、彼らに近づこうとするのを手を引いて止める。
「お嬢様?」
「良いの、リュカ。今は王太子殿下もいらっしゃらないから、単にお忍びで買い物にでも来ているんでしょう。王都では二人は目立ってしまうから」
元々、二人の距離は近いと思ったことがある。
でも、フランチェスカ様はアスラン様のお兄様である王太子殿下の婚約者で、すでに王太子妃教育も終えられている方。
アスラン様とフランチェスカ様は同い年だし、私とウィリアム殿下の関係と似ているのかもしれない。
レオナルド王太子殿下に年齢の近い身分の合うご令嬢がいたら、もしかしたらフランチェスカ様はアスラン様の婚約者だったのかも。
でもお二人は、王太子殿下の婚約者、私の婚約者として振る舞って下さっていた。
だから、あれは何でもないのだ。
いずれ姉と弟になるお二人だし、もしかしたら王太子殿下に贈るプレゼントでも買いに来ているのかもしれない。
「大丈夫よ、リュカ。私はアスラン様もフランチェスカ様も信じているから」
「・・・はい」
「それよりもお買い物に行きましょう?早く戻らないとみんなも心配するわ」
私は、二人が消えた方角と逆に向かって歩き出した。
胸の奥に刺さった、小さな棘に気付かないふりをして。
この街を超えると、あとは王都まで小さな街になるので、ここで二日ほどゆっくり疲れをとってから出立することになる。
この街からアスラン様に、帰還する旨のお手紙を出す予定だ。
さすがに他国の令嬢が、連絡も入れずに王都に入るわけにはいかない。
リュカと数人の護衛を伴って、街に便箋を買いに出かける。
残りの護衛と私の世話役の侍女には、宿で休んでもらう。
夜も交代で護衛するために、先に眠る必要があるからだ。
「便箋と・・・あと、マデリーン王国に戻る護衛たちに何かお土産を・・・え?」
世話役の侍女と数人の護衛たちは、私を王都に送り届けたらすぐにマデリーン王国へ戻るので、王都でお土産を買う余裕がない。
だから、この街で何か買っておこうと思ったのだけど・・・
私は離れた店から出てきた、見慣れた後ろ姿に思わず足を止めた。
蜂蜜色の髪に細身だけどしっかりと鍛えられた体躯の青年は、エメラルド色の瞳で隣に立つ金色のウェーブした髪をハーフアップにしたとても美しい令嬢に笑いかけている。
私はそれと同じ光景を、何度もクライゼン王国の王宮で見ていたから・・・
その二人が別人だとは思わなかった。
「お嬢様、どう・・・!」
リュカが気付いて、彼らに近づこうとするのを手を引いて止める。
「お嬢様?」
「良いの、リュカ。今は王太子殿下もいらっしゃらないから、単にお忍びで買い物にでも来ているんでしょう。王都では二人は目立ってしまうから」
元々、二人の距離は近いと思ったことがある。
でも、フランチェスカ様はアスラン様のお兄様である王太子殿下の婚約者で、すでに王太子妃教育も終えられている方。
アスラン様とフランチェスカ様は同い年だし、私とウィリアム殿下の関係と似ているのかもしれない。
レオナルド王太子殿下に年齢の近い身分の合うご令嬢がいたら、もしかしたらフランチェスカ様はアスラン様の婚約者だったのかも。
でもお二人は、王太子殿下の婚約者、私の婚約者として振る舞って下さっていた。
だから、あれは何でもないのだ。
いずれ姉と弟になるお二人だし、もしかしたら王太子殿下に贈るプレゼントでも買いに来ているのかもしれない。
「大丈夫よ、リュカ。私はアスラン様もフランチェスカ様も信じているから」
「・・・はい」
「それよりもお買い物に行きましょう?早く戻らないとみんなも心配するわ」
私は、二人が消えた方角と逆に向かって歩き出した。
胸の奥に刺さった、小さな棘に気付かないふりをして。
304
お気に入りに追加
2,748
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。
gacchi
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる