「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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悪役令嬢回避編

私が私である理由

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 失敗した。
最初に思ったのは、それだった。

 結界に魔力を注いだけど、それでもアニエスの魔力は多いから大丈夫なはずだった。

 だけど、結界内で魔獣が爆発した時、私の中の魔力が一気に吸われるような感覚を覚え、そのまま意識が薄れていくのが分かった。

 気がついたら、私は真っ白な空間にいた。
右を見ても、左を見ても、真っ白で、何もない。音もしない。

 自分が歩いているのか止まっているのかすらわからなくなる、そんな何もない空間。

 これって、死後の世界・・・なのかな?前回は転生しちゃったから死後の世界を見ることもなかったけど。

 魔獣・・・倒せたのかな。
レイノルドたちは無事だったんだろうか。
 マリアは目覚めたのかな。マリウスとあのまま上手くいくんだろうか。

 胸の奥がズキン!とした気がする。
死んだ後も、心って痛むんだ。

 だってしょうがないじゃない。
マリアは乙女ゲームのヒロインで、マリウスは攻略対象なんだもん。
 悪役令嬢のアニエスが、どう頑張ったって勝てないよ。

 それに、本来のアニエスならともかく、中身がアラサーの私じゃ、マリウスの恋愛対象にはなれない。

 マリウスのことは・・・
ラノベの中のマリウスに対しては思うところはあるけど、現実のマリ様のことは嫌いじゃない。

 優しいと思うし、大切にしてくれてるとも思う。
 私の、アニエスのことを本当に好きだと思ってくれてるのかなって信じたくなる。

 だけど、どうしてもヒロインに心奪われて、アニエスを捨てるんじゃないかって、そう思うのを止められない。

 マリアは本当に良い子だから、女の私から見ても、本当に可愛くて優しい子だから。
 だから、もしそうなっても仕方ないって思ってしまう自分がいる。

 あれ?
私なんで、こんな風に思ってるんだろう。

 確かに、マリアのことは好きだし、マリウスのことも嫌いじゃないけど、2人がうまくいけばいいって思ってたはずなのに。

 なんで、フラれるのが怖いから諦めるみたいな・・・

 私、マリウスのこと・・・好きなの?
恋愛対象として?

 え?ええ?
だって、とじゃ歳だって離れてて・・・

 混乱してうずくまった私に、聞き慣れた声が聞こえた。

 いつも私の1番近くにあって、いつも聞こえる声。

『自分の気持ちに、素直になれば良いんですわ』

 青みがかった銀色の髪に、空色の瞳。
真っ白なドレスに身を包んだ、3年間ずっと見続けていた姿をした少女ー

「アニエス・・・アニエスだよね?」

『ここはわたくしの、アニエス・リリウムの深層。せっかく、わたくし眠っていましたのに、貴女ってばもどかしいんですもの』

 アニエスはそう言って、とても綺麗に微笑った。
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