「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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悪役令嬢回避編

公爵令嬢の死んだ日《アニエス視点》

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 わたくしの名前は、アニエス・リリウム。リリウム公爵家の令嬢であり、このハイドランジア王国王太子殿下の婚約者ですわ。

 わたくしと王太子殿下の婚約は、生まれた時から決まっていたことです。
 ですが、わたくしは王太子殿下のことを心からお慕いしておりました。

 煌めく太陽のような金色の髪に、夏の空のように青く澄んだ瞳。
 マリウス王太子殿下の、その見目麗しいお姿に、私は心惹かれてしまったのです。

 それに殿下は、見た目だけでなく立ち振る舞いも王族然とされていて、王命という形の婚約者であるわたくしにも、優しくしてくださいました。

 わたくしたちは王族と高位貴族です。
平民の方のように好いて好かれてという結婚ではなく、家と家の繋がりのために婚約婚姻を結ぶことが当たり前とされています。

 ですが、わたくしは幸せ者です。このように心惹かれた方と婚約者になれ、いずれ婚姻することができるのですから。

 その幸せが、突如として壊されたのは、わたくしが10歳の誕生日を迎えた日でした。

 いつも通りに王太子妃教育のために王宮を訪れたわたくしは、国王陛下や王妃様、王太子殿下からお祝いをいただき、その日の教育を終えて公爵家への帰路へとつくことになりました。

 そして、その帰り際に、王宮勤めのみんなからだとお菓子をいただいたのです。

 普段のわたくしなら、その侍女が見慣れない人間であったことに気づいたでしょう。

 しかし、大好きな殿下からいただいた贈り物に浮かれていたわたくしは、王太子妃教育の疲れもあって、その夜、その焼き菓子を安易に口にしてしまったのです。

 わたくしは、そのまま意識を失ってしまったようです。
 まるで眠りにつくように、自分の意識が深層に沈んでいくのが分かるのです。

 後で悔やんでも仕方のないことですが、おそらくあの焼き菓子には毒が仕込まれていたのでしょう。

 筆頭公爵家の娘であるわたくしを邪魔だと思う方々がいることは、無理のないことです。
 王太子殿下の婚約者の座を求める貴族も多いでしょう。

 わたくしさえいなければ、殿下の婚約者になれる可能性ができるのです。

 それを王太子妃教育でも学んでいたというのに、わたくしはなんて愚かなことをしたのでしょうか。

 お父様やお母様を、悲しませてしまいますわ。
 10年も大切に大切に育てて下さったのに、申し訳ありません。

 マリウス王太子殿下は、少しは悲しんでくださるかしら。
 殿下はお優しいから、きっと悲しいと言って下さいますわね。
 わたくしのことを特別な感情で見ていなくても、婚約者として悲しんで下さるでしょう。

 もし叶うなら、もう1度、お会いしたかったですわ。

 わたくしはそのまま深い眠りの中に引き込まれていきました。

 






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