「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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悪役令嬢回避編

敵わない《クラン視点》

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 姉上が、魔獣との戦いに参加したと聞いたのは、学園から戻った後だった。

 倒れて意識を失った姉上は、そのまま王宮へと一旦運ばれていた。
 王宮医師に診断を受け、魔力が枯渇気味だと言われたが、本来ならしばらく休めば目を覚ますはずだった。

 だが、1週間たっても姉上は目覚めず、父上たちが公爵家での治療を望んだために戻されたのだ。

 魔獣からご令嬢たちやマリア嬢を守ったことで、瀕死の状態になったというマリウス殿下を責めても、仕方のないことだと分かっている。

 マリア嬢によって癒された殿下に、マリア嬢を医務室に運ぶように言ったのは姉上だと言うし、その場に残ることを選択したのも姉上自身だ。

 だから、マリウス殿下を責めるのは間違いだと理解している。

 理解していても、頭の中はどうしてと繰り返される。
 殿下を責めているわけではない。
どうして僕はあの日、姉上のそばにいなかったのだろう。

 僕がそばにいたなら、姉上が残ったことも、ちゃんと気付いたのに。

 マリウス殿下は、公爵家に姉上が戻されて以降、毎日姉上のもとを訪れている。

 そして時間が許す限り、姉上の手を握り、ずっと離れない。

 僕たちもそうだが、学園を休むことは許されない。
 姉上が目覚めるまでそばに居たい。だけど、父上も母上も許可してくださらなかった。

 そして、それは殿下も同じで、学園を休んでまでそばにいると言うのなら、今後会わせないとまで父上に言われていた。

 だから、殿下は学園に通い、王太子としての公務もこなし、その上で姉上のもとを訪れる。

 日に日に顔色の悪くなっていくマリウス殿下を、責めることはできなかった。

「マリウス殿下。そろそろ・・・」

「ああ、クラン。すまない、そんな時間か。では、アニエス。また明日来るよ」

 そっと姉上の額に口付けをして、部屋を出て行くマリウス殿下を見送るために、カイに後を任せて僕も部屋を出る。

 ろくに眠っていないんじゃないか。
いつもなら頼りがいさえ感じる背中の弱々しさに、僕は小さく息を吐いた。

「目覚めた時に殿下が倒れてたりしたら、姉上が心配します。ちゃんと体を休めてください」

「・・・すまない」

 弱々しく微笑うマリウス殿下に、もどかしさが募る。

 この人は・・・
本当に姉上のことが好きなんだなと、痛感する。

 僕はいつも、この人には敵わない。
どれだけ姉上のことを大切に思っていても、僕は血の繋がった弟で、姉上が僕を弟以外の目で見てくれることはない。

 だけど、この人は、姉上が自分のことを特別視しなくても絶対に諦めないような気がする。
 姉上が振り向いてくれるまで、ずっと隣に立ち続けるような気がする。

 だから、僕はこの人には敵わない。


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