49 / 128
悪役令嬢回避編
敵わない《クラン視点》
しおりを挟む
姉上が、魔獣との戦いに参加したと聞いたのは、学園から戻った後だった。
倒れて意識を失った姉上は、そのまま王宮へと一旦運ばれていた。
王宮医師に診断を受け、魔力が枯渇気味だと言われたが、本来ならしばらく休めば目を覚ますはずだった。
だが、1週間たっても姉上は目覚めず、父上たちが公爵家での治療を望んだために戻されたのだ。
魔獣からご令嬢たちやマリア嬢を守ったことで、瀕死の状態になったというマリウス殿下を責めても、仕方のないことだと分かっている。
マリア嬢によって癒された殿下に、マリア嬢を医務室に運ぶように言ったのは姉上だと言うし、その場に残ることを選択したのも姉上自身だ。
だから、マリウス殿下を責めるのは間違いだと理解している。
理解していても、頭の中はどうしてと繰り返される。
殿下を責めているわけではない。
どうして僕はあの日、姉上のそばにいなかったのだろう。
僕がそばにいたなら、姉上が残ったことも、ちゃんと気付いたのに。
マリウス殿下は、公爵家に姉上が戻されて以降、毎日姉上のもとを訪れている。
そして時間が許す限り、姉上の手を握り、ずっと離れない。
僕たちもそうだが、学園を休むことは許されない。
姉上が目覚めるまでそばに居たい。だけど、父上も母上も許可してくださらなかった。
そして、それは殿下も同じで、学園を休んでまでそばにいると言うのなら、今後会わせないとまで父上に言われていた。
だから、殿下は学園に通い、王太子としての公務もこなし、その上で姉上のもとを訪れる。
日に日に顔色の悪くなっていくマリウス殿下を、責めることはできなかった。
「マリウス殿下。そろそろ・・・」
「ああ、クラン。すまない、そんな時間か。では、アニエス。また明日来るよ」
そっと姉上の額に口付けをして、部屋を出て行くマリウス殿下を見送るために、カイに後を任せて僕も部屋を出る。
ろくに眠っていないんじゃないか。
いつもなら頼りがいさえ感じる背中の弱々しさに、僕は小さく息を吐いた。
「目覚めた時に殿下が倒れてたりしたら、姉上が心配します。ちゃんと体を休めてください」
「・・・すまない」
弱々しく微笑うマリウス殿下に、もどかしさが募る。
この人は・・・
本当に姉上のことが好きなんだなと、痛感する。
僕はいつも、この人には敵わない。
どれだけ姉上のことを大切に思っていても、僕は血の繋がった弟で、姉上が僕を弟以外の目で見てくれることはない。
だけど、この人は、姉上が自分のことを特別視しなくても絶対に諦めないような気がする。
姉上が振り向いてくれるまで、ずっと隣に立ち続けるような気がする。
だから、僕はこの人には敵わない。
倒れて意識を失った姉上は、そのまま王宮へと一旦運ばれていた。
王宮医師に診断を受け、魔力が枯渇気味だと言われたが、本来ならしばらく休めば目を覚ますはずだった。
だが、1週間たっても姉上は目覚めず、父上たちが公爵家での治療を望んだために戻されたのだ。
魔獣からご令嬢たちやマリア嬢を守ったことで、瀕死の状態になったというマリウス殿下を責めても、仕方のないことだと分かっている。
マリア嬢によって癒された殿下に、マリア嬢を医務室に運ぶように言ったのは姉上だと言うし、その場に残ることを選択したのも姉上自身だ。
だから、マリウス殿下を責めるのは間違いだと理解している。
理解していても、頭の中はどうしてと繰り返される。
殿下を責めているわけではない。
どうして僕はあの日、姉上のそばにいなかったのだろう。
僕がそばにいたなら、姉上が残ったことも、ちゃんと気付いたのに。
マリウス殿下は、公爵家に姉上が戻されて以降、毎日姉上のもとを訪れている。
そして時間が許す限り、姉上の手を握り、ずっと離れない。
僕たちもそうだが、学園を休むことは許されない。
姉上が目覚めるまでそばに居たい。だけど、父上も母上も許可してくださらなかった。
そして、それは殿下も同じで、学園を休んでまでそばにいると言うのなら、今後会わせないとまで父上に言われていた。
だから、殿下は学園に通い、王太子としての公務もこなし、その上で姉上のもとを訪れる。
日に日に顔色の悪くなっていくマリウス殿下を、責めることはできなかった。
「マリウス殿下。そろそろ・・・」
「ああ、クラン。すまない、そんな時間か。では、アニエス。また明日来るよ」
そっと姉上の額に口付けをして、部屋を出て行くマリウス殿下を見送るために、カイに後を任せて僕も部屋を出る。
ろくに眠っていないんじゃないか。
いつもなら頼りがいさえ感じる背中の弱々しさに、僕は小さく息を吐いた。
「目覚めた時に殿下が倒れてたりしたら、姉上が心配します。ちゃんと体を休めてください」
「・・・すまない」
弱々しく微笑うマリウス殿下に、もどかしさが募る。
この人は・・・
本当に姉上のことが好きなんだなと、痛感する。
僕はいつも、この人には敵わない。
どれだけ姉上のことを大切に思っていても、僕は血の繋がった弟で、姉上が僕を弟以外の目で見てくれることはない。
だけど、この人は、姉上が自分のことを特別視しなくても絶対に諦めないような気がする。
姉上が振り向いてくれるまで、ずっと隣に立ち続けるような気がする。
だから、僕はこの人には敵わない。
92
お気に入りに追加
8,193
あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
愛されない王妃は、お飾りでいたい
夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。
クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。
そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。
「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」
クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!?
「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける
堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」
王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。
クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。
せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。
キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。
クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。
卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。
目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。
淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。
そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる