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第三十七話 ハイキングデート
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私が恋心を自覚してから、二ヶ月の月日が経った。
あれから更にギルドに依頼をしてくる人は増えていき、サイラス様のギルドは順調に知名度と規模が大きくなりだしていた。
とはいっても、急激にマグナス様のギルドくらいに成長するというわけではないけどね。
「えっと、目的の鉱石は……あった、この緑色のだわ」
「これだな! よし、俺に任せろ!」
足元が悪い山道の道中にあった崖に向かって、サイラス様の振り上げたピッケルが振り下ろされる。すると、砕けた緑色の鉱石が、足元に広がった。
この鉱石は、薬に使えるものなのだけど、中々市場に出回らない。
カロ君のおじいちゃんのおかげで、色々と素材が仕入れられるようになったとはいえ、この鉱石は手元に無かったから、こうして採取しに来ているの。
本当は一人で来るつもりだったのだけど、話を聞いたサイラス様が、そんな力仕事なんてエリシアにはさせられない! の一点張りで……結局こうして一緒に来てもらった次第だ。
「これだけあれば十分だわ。そろそろギルドに戻りましょう」
「わかった。よっと!」
「重くない? 私が持つわよ」
「俺が持つ。絶対にエリシアには運ばせない」
今採取できた鉱石だけではなく、来る途中に見つけた薬草も入ったカゴを背負うのは、見た目以上に重労働ということを、この身をもって理解している。
そんな荷物を、サイラス様に持たせるのは申し訳ないと思ったのだけど……驚く程淡々とした口調で断られてしまった。
「じゃあ、後ろから支えるわ。これなら少しは重さが緩和されると思うの」
「それはありがたいけど、それよりも俺にとって力になることがあるんだ」
「あなたのことだから、抱きつかれたら愛のパワーで無敵! みたいなことを言うつもりでしょう?」
「ば、バレてしまったのなら仕方がない。エリシアの愛があれば、こんな荷物なんて、小指で十分だからな!」
「も、もうっ! そんなことをするわけないでしょ!」
「そうか。それは残念だ……」
……ああ、またやってしまった。サイラス様に触れられるチャンスだったのに、恥ずかしさが勝ってしまって、拒絶してしまった。
告白をしてこの関係が壊れるのを恐れて、普段からサイラス様の愛情を拒絶して……本当に情けない。
「どうしたんだ、そんな悲しそうな顔をして……」
「ううん、なんでもない……それよりも、どうすればあなたの力になれるの?」
「こうするのさ」
こうってなに? と聞く前に、ギュッとサイラス様に手を握られた。そのたった一回の行動だけで、私の心臓は大きく跳ね、体中が一気に熱くなった。
手を繋ぐのなんて、初めての経験じゃないのに……サイラス様への気持ちを自覚してから、更に恥ずかしくなるのに磨きがかかっている。
「こうすれば、エリシアからパワーをもらって、最強の俺になれるのさ」
「な、なによそのよくわからない理論は……もうっ、サイラス様ってば……」
口ではいつもの様にもうもう言ってはいるものの、離したくなくて……手に力を入れてしまった。すると、サイラス様は嬉しそうに頬を赤らめながら、ニコッと微笑んだ。
「それじゃあ、帰ろうか!」
「ええ」
ギルドに向かって、下山をしていく。足元がかなり悪いから、たまに転びそうになるけど、必ずサイラス様が掴んで転ばないようにしてくれる。
さすがサイラス様、頼りになるわね……。
「……? サイラス様、なんだか楽しそうね」
足元が悪い中、背中に大きな荷物を背負っているというのに、サイラス様はとても上機嫌だ。たまに私の方を向いては、屈託のない笑顔を見せてくれる。
「そりゃ楽しいさ! 仕事で来ているとはいえ、エリシアと二人きりでハイキングデートみたいなことをしてるんだからな!」
「もうっ、あなたはなんでもデート気分にしちゃうのね」
「まあな。ほら、最近仕事が忙しくて、家でもなかなか二人きりで過ごせることってないだろう?」
「そうね。元々あなたは忙しそうだったけど、最近は更に忙しそうだものね」
ギルドが大きくなることはとても喜ばしいことだけど、長であるサイラス様の仕事も、以前より格段に増えている。
おかげで、家には寝に帰っているようなもので……一緒に住んでいるのに、食事すら一緒に出来ないくらいだ。
サイラス様が忙しいのだから、私が合わせるべきなのはわかっている。
でも、私の仕事も以前より増えているし、新しく入った人に色々と教えないといけなかったりと、中々時間が取れないの。
「そうなんだよなぁ。だから、いつも以上に二人きりの時間が貴重に思えるんだ。ははっ、この気持ちが学生の時にあったら、一分一秒をもっと大切に出来たのにな!」
「学生の時かぁ……懐かしいわね。まだ卒業してからそんなに経っていないのに、凄く遠い昔のような気がするわ」
「それだけ大変だったということだろう? まったく、今思い出してもマグナスには腹が立つ!」
あっ、これは絶対に地雷を踏んだ。せっかく二人きりの時間なのに、イライラして過ごすなんてもったいないわ。別の話題を振りましょう。
「サイラス様は、学生の時に一番楽しかったことってなに?」
「楽しかったこと? そりゃあもちろん、エリシアと過ごした全ての時間!」
「一番って言っているのに、それだと数が多すぎるじゃないの、もうっ」
「競争をしているわけじゃないんだから、一番がいくつあってもいいじゃないか!」
……それは、確かにその通りかもしれない。たくさん思い出がある中で、無理に一番を一つ決める必要なんてないわね。
「一緒に勉強をしている時はもちろん、ただおしゃべりをしている時とか、一緒に帰る時とか、昼食を一緒に食べてる時とか、数えきれないくらい一番があるよ」
「改めて振り返ると、私達って一緒に過ごしていた時間は多いわね」
私の中では、マグナス様の独占欲のせいで、ずっと一人で学生らしい生活は出来なかったと思い込んでいたけど、実は満喫できていたのかもしれない。
それもこれも、全てはサイラス様が、何度マグナス様に邪魔されても、私のところに来てくれたおかげね。
ついでに言うと、マグナス様がいなければ、サイラス様と学生の時にずっと一緒に過ごして、婚約とかまでしていたかもしれないわね。
――そんなことを考えながら、サイラス様と思い出話に花を咲かせていると、いつのまにかギルドまで戻ってきてしまっていた。
「楽しい時間も終わりかぁ……あと百三十二倍くらいは、デートを楽しみたかったよ」
「一応、名目上は素材の採取だからね。あと、その辺に具体的な数字は何?」
「適当!」
「適当!? なにか深い意味があるのかと思って、頭の中をグルグルさせちゃったじゃないの! もうっ!」
「……ふっ」
「…………うふふっ」
プリプリ怒っていたのだけど、サイラス様の顔を見ていたら、なんだかおかしくなってきちゃった。
「また時間が出来たらさ、一緒に愛のデートに行こうじゃないか!」
「も、もうっ……愛だなんて……ま、まあ? デートは……行ってもいい、かも……なんて」
あっ、よかった……今度はちゃんと認められた。相変わらずツンツンした言い方になってしまったけど、ちゃんと肯定は出来た!
たったそれだけかもしれないけど、私には大きな進歩だ。
「っ!? よっしゃー! 必ず行こうな!」
「ええ、楽しみにしてるね」
「ああ、サイラスさん、エリシアさん、おかえりなさいっす。さっき、サイラスさんにお手紙が来てたっすよ」
「手紙? ありがとう! えーっと……はぁ……」
さっきまで太陽みたいに明るかったサイラス様の顔が、凄くどんよりしてしまった。手紙の内容が、よほど嫌なものなのかもしれない。
「それ、なんだったの?」
「……パーティーの招待状」
あれから更にギルドに依頼をしてくる人は増えていき、サイラス様のギルドは順調に知名度と規模が大きくなりだしていた。
とはいっても、急激にマグナス様のギルドくらいに成長するというわけではないけどね。
「えっと、目的の鉱石は……あった、この緑色のだわ」
「これだな! よし、俺に任せろ!」
足元が悪い山道の道中にあった崖に向かって、サイラス様の振り上げたピッケルが振り下ろされる。すると、砕けた緑色の鉱石が、足元に広がった。
この鉱石は、薬に使えるものなのだけど、中々市場に出回らない。
カロ君のおじいちゃんのおかげで、色々と素材が仕入れられるようになったとはいえ、この鉱石は手元に無かったから、こうして採取しに来ているの。
本当は一人で来るつもりだったのだけど、話を聞いたサイラス様が、そんな力仕事なんてエリシアにはさせられない! の一点張りで……結局こうして一緒に来てもらった次第だ。
「これだけあれば十分だわ。そろそろギルドに戻りましょう」
「わかった。よっと!」
「重くない? 私が持つわよ」
「俺が持つ。絶対にエリシアには運ばせない」
今採取できた鉱石だけではなく、来る途中に見つけた薬草も入ったカゴを背負うのは、見た目以上に重労働ということを、この身をもって理解している。
そんな荷物を、サイラス様に持たせるのは申し訳ないと思ったのだけど……驚く程淡々とした口調で断られてしまった。
「じゃあ、後ろから支えるわ。これなら少しは重さが緩和されると思うの」
「それはありがたいけど、それよりも俺にとって力になることがあるんだ」
「あなたのことだから、抱きつかれたら愛のパワーで無敵! みたいなことを言うつもりでしょう?」
「ば、バレてしまったのなら仕方がない。エリシアの愛があれば、こんな荷物なんて、小指で十分だからな!」
「も、もうっ! そんなことをするわけないでしょ!」
「そうか。それは残念だ……」
……ああ、またやってしまった。サイラス様に触れられるチャンスだったのに、恥ずかしさが勝ってしまって、拒絶してしまった。
告白をしてこの関係が壊れるのを恐れて、普段からサイラス様の愛情を拒絶して……本当に情けない。
「どうしたんだ、そんな悲しそうな顔をして……」
「ううん、なんでもない……それよりも、どうすればあなたの力になれるの?」
「こうするのさ」
こうってなに? と聞く前に、ギュッとサイラス様に手を握られた。そのたった一回の行動だけで、私の心臓は大きく跳ね、体中が一気に熱くなった。
手を繋ぐのなんて、初めての経験じゃないのに……サイラス様への気持ちを自覚してから、更に恥ずかしくなるのに磨きがかかっている。
「こうすれば、エリシアからパワーをもらって、最強の俺になれるのさ」
「な、なによそのよくわからない理論は……もうっ、サイラス様ってば……」
口ではいつもの様にもうもう言ってはいるものの、離したくなくて……手に力を入れてしまった。すると、サイラス様は嬉しそうに頬を赤らめながら、ニコッと微笑んだ。
「それじゃあ、帰ろうか!」
「ええ」
ギルドに向かって、下山をしていく。足元がかなり悪いから、たまに転びそうになるけど、必ずサイラス様が掴んで転ばないようにしてくれる。
さすがサイラス様、頼りになるわね……。
「……? サイラス様、なんだか楽しそうね」
足元が悪い中、背中に大きな荷物を背負っているというのに、サイラス様はとても上機嫌だ。たまに私の方を向いては、屈託のない笑顔を見せてくれる。
「そりゃ楽しいさ! 仕事で来ているとはいえ、エリシアと二人きりでハイキングデートみたいなことをしてるんだからな!」
「もうっ、あなたはなんでもデート気分にしちゃうのね」
「まあな。ほら、最近仕事が忙しくて、家でもなかなか二人きりで過ごせることってないだろう?」
「そうね。元々あなたは忙しそうだったけど、最近は更に忙しそうだものね」
ギルドが大きくなることはとても喜ばしいことだけど、長であるサイラス様の仕事も、以前より格段に増えている。
おかげで、家には寝に帰っているようなもので……一緒に住んでいるのに、食事すら一緒に出来ないくらいだ。
サイラス様が忙しいのだから、私が合わせるべきなのはわかっている。
でも、私の仕事も以前より増えているし、新しく入った人に色々と教えないといけなかったりと、中々時間が取れないの。
「そうなんだよなぁ。だから、いつも以上に二人きりの時間が貴重に思えるんだ。ははっ、この気持ちが学生の時にあったら、一分一秒をもっと大切に出来たのにな!」
「学生の時かぁ……懐かしいわね。まだ卒業してからそんなに経っていないのに、凄く遠い昔のような気がするわ」
「それだけ大変だったということだろう? まったく、今思い出してもマグナスには腹が立つ!」
あっ、これは絶対に地雷を踏んだ。せっかく二人きりの時間なのに、イライラして過ごすなんてもったいないわ。別の話題を振りましょう。
「サイラス様は、学生の時に一番楽しかったことってなに?」
「楽しかったこと? そりゃあもちろん、エリシアと過ごした全ての時間!」
「一番って言っているのに、それだと数が多すぎるじゃないの、もうっ」
「競争をしているわけじゃないんだから、一番がいくつあってもいいじゃないか!」
……それは、確かにその通りかもしれない。たくさん思い出がある中で、無理に一番を一つ決める必要なんてないわね。
「一緒に勉強をしている時はもちろん、ただおしゃべりをしている時とか、一緒に帰る時とか、昼食を一緒に食べてる時とか、数えきれないくらい一番があるよ」
「改めて振り返ると、私達って一緒に過ごしていた時間は多いわね」
私の中では、マグナス様の独占欲のせいで、ずっと一人で学生らしい生活は出来なかったと思い込んでいたけど、実は満喫できていたのかもしれない。
それもこれも、全てはサイラス様が、何度マグナス様に邪魔されても、私のところに来てくれたおかげね。
ついでに言うと、マグナス様がいなければ、サイラス様と学生の時にずっと一緒に過ごして、婚約とかまでしていたかもしれないわね。
――そんなことを考えながら、サイラス様と思い出話に花を咲かせていると、いつのまにかギルドまで戻ってきてしまっていた。
「楽しい時間も終わりかぁ……あと百三十二倍くらいは、デートを楽しみたかったよ」
「一応、名目上は素材の採取だからね。あと、その辺に具体的な数字は何?」
「適当!」
「適当!? なにか深い意味があるのかと思って、頭の中をグルグルさせちゃったじゃないの! もうっ!」
「……ふっ」
「…………うふふっ」
プリプリ怒っていたのだけど、サイラス様の顔を見ていたら、なんだかおかしくなってきちゃった。
「また時間が出来たらさ、一緒に愛のデートに行こうじゃないか!」
「も、もうっ……愛だなんて……ま、まあ? デートは……行ってもいい、かも……なんて」
あっ、よかった……今度はちゃんと認められた。相変わらずツンツンした言い方になってしまったけど、ちゃんと肯定は出来た!
たったそれだけかもしれないけど、私には大きな進歩だ。
「っ!? よっしゃー! 必ず行こうな!」
「ええ、楽しみにしてるね」
「ああ、サイラスさん、エリシアさん、おかえりなさいっす。さっき、サイラスさんにお手紙が来てたっすよ」
「手紙? ありがとう! えーっと……はぁ……」
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「……パーティーの招待状」
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