64 / 200
64 様子がおかしい友人
しおりを挟む
翌朝、アイザックは学園に来ていなかった。
「昨日も早退してたし、例の仕事はやっぱり忙しいのでしょうね。
無理し過ぎていないと良いのだけど」
「そうですね」
ベアトリスの言う『例の仕事』とは、勿論、王太子殿下の側近の事だ。
本人の前では素っ気ない態度のベアトリスだが、実は結構心配しているらしい。
元婚約者の件をベアトリスとアイザックに相談しようか迷っていたが、やっぱり、ただでさえ忙しい二人を余計な厄介事に巻き込むのは憚られる。
話してしまえば、二人はきっと率先して動いてくれるとは思う。
だけど、いくら権力があっても、他家の縁談に無理矢理干渉すれば、周囲からあまり良い印象を持たれないだろう。
力を持った友人の存在は心強いけど、出来れば迷惑をかけない方向で解決したい。
頼ってばかりの現状では、対等な関係とは言い難いだろう。
いや、そもそも、高貴な存在である彼等と平凡な私が対等になりたいなどと考えるの自体が、烏滸がましい事なのかもしれない。
だが、せめて私は彼等を『便利な存在』として扱いたくないと思っている。
二人とは利害だけで繋がる関係ではなく『ちゃんとした友達』でいたいのだから。
ちょっと頼りないけど、お父様が断ってくれるって言ってたし、多分、再婚約の件は大丈夫だよね。
当のクレイグはと言えば、今日は遠巻きに私への意味深な気持ちの悪い視線を投げてきたくらいで、直接話し掛けてくる事はなかった。
そんなクレイグを見て、ベアトリスが「何あれ? ウザッ!!」と令嬢らしくない呟きを漏らしていたが、それについては聞かなかった事にしておいた。
クレイグからの接触がなかったのは良かったんだけど、警戒していた私はちょっとだけ肩透かしを食らった気分だ。
寧ろ、何か行動を起こしてくれた方が、こちらとしても反撃しやすいのに。
(あの暴走伯爵令嬢の時みたいに、煽ったら手を上げてくれないかしら?
そうしたら三倍返しで殴って差し上げるのに……あ、いや、ダメだったわ)
自分の脳裏に浮かんだ考えを、一瞬にして打ち消した。
そういう無謀な事はしないって決めたばっかりだったと思い出したから。
午後になって、やっと登校してきたアイザックは、疲れているせいなのか、いつもよりもやや機嫌が悪そうに見えた。
「あら、今日はもう来ないのかと思ったわ。
遅かったのね。アイザック」
ベアトリスが声を掛けると、「ああ、うん……」と素っ気ない返事が返された。
「かなりお疲れのご様子ですが、昨日のお仕事に手こずっているのですか?」
「あーー……、いや、それも確かに大変ではあるんだが……、まあ、他にも色々とあってね」
アイザックは言葉を濁した。
おそらくは『答えたくないのだから察して欲しい』という意思表示なのだろう。
私とベアトリスは『仕方がないわね』と視線だけで会話をしながら肩をすくめてそれ以上の追及を諦めた。
その後もアイザックは、窓の外をボーッと眺めたり、かと思えば、溜息をつきながら頭をガシガシと乱暴に掻いたりと、普段は絶対に見せない姿を無意識に披露している。
クラスメイト達も興味深そうにいつもと違う彼に注目しているし、なんなら他のクラスからも見物人が来るくらいだ。
有名人って大変だね。
「オフィーリアが側に居るのに、心ここに在らずみたいな態度を取るなんて、本当に珍しいわね」
ベアトリスの言葉に、私も頷いた。
「アイザック様は、傷痕のせいか、いつも私に気を使ってくれていますものね」
「それ、本気で言ってる?」
「? どういう意味です?」
「………分からないなら良いわ。
ちょっとアイザックが可哀想に思えてきた」
溜息を零しながら呟いたベアトリスの台詞の意味は、私には理解できなかった。
それにしても、アイザックは何か悩み事でもあるのだろうか?
完璧超人なアイザックの悩みなんて凡人には想像もつかないけど、彼だって一応人間なんだし、たまには悩む事くらいあるよね。
普段助けてもらってばかりなので、私に何か出来る事があるなら是非とも協力したいとは思うのだが……。
(残念ながら、私には相談したくないみたいだしなぁ……)
まあ、相談してくれたとて、私が出来る事なんて高が知れているんだけどね。
私が出来てアイザックに出来ない事なんてないのだから、私に相談するくらいなら、とっくに自分で解決してるか。
役立たずな自分が不甲斐無くて、ちょっと悔しい気持ちになった。
「オフィーリア、やっぱり僕達、婚約しよう」
何の前触れもなく、唐突にアイザックがそんな事を言い出した。
それはアイザックの様子が変わってから三日が経った頃の出来事だった。
「昨日も早退してたし、例の仕事はやっぱり忙しいのでしょうね。
無理し過ぎていないと良いのだけど」
「そうですね」
ベアトリスの言う『例の仕事』とは、勿論、王太子殿下の側近の事だ。
本人の前では素っ気ない態度のベアトリスだが、実は結構心配しているらしい。
元婚約者の件をベアトリスとアイザックに相談しようか迷っていたが、やっぱり、ただでさえ忙しい二人を余計な厄介事に巻き込むのは憚られる。
話してしまえば、二人はきっと率先して動いてくれるとは思う。
だけど、いくら権力があっても、他家の縁談に無理矢理干渉すれば、周囲からあまり良い印象を持たれないだろう。
力を持った友人の存在は心強いけど、出来れば迷惑をかけない方向で解決したい。
頼ってばかりの現状では、対等な関係とは言い難いだろう。
いや、そもそも、高貴な存在である彼等と平凡な私が対等になりたいなどと考えるの自体が、烏滸がましい事なのかもしれない。
だが、せめて私は彼等を『便利な存在』として扱いたくないと思っている。
二人とは利害だけで繋がる関係ではなく『ちゃんとした友達』でいたいのだから。
ちょっと頼りないけど、お父様が断ってくれるって言ってたし、多分、再婚約の件は大丈夫だよね。
当のクレイグはと言えば、今日は遠巻きに私への意味深な気持ちの悪い視線を投げてきたくらいで、直接話し掛けてくる事はなかった。
そんなクレイグを見て、ベアトリスが「何あれ? ウザッ!!」と令嬢らしくない呟きを漏らしていたが、それについては聞かなかった事にしておいた。
クレイグからの接触がなかったのは良かったんだけど、警戒していた私はちょっとだけ肩透かしを食らった気分だ。
寧ろ、何か行動を起こしてくれた方が、こちらとしても反撃しやすいのに。
(あの暴走伯爵令嬢の時みたいに、煽ったら手を上げてくれないかしら?
そうしたら三倍返しで殴って差し上げるのに……あ、いや、ダメだったわ)
自分の脳裏に浮かんだ考えを、一瞬にして打ち消した。
そういう無謀な事はしないって決めたばっかりだったと思い出したから。
午後になって、やっと登校してきたアイザックは、疲れているせいなのか、いつもよりもやや機嫌が悪そうに見えた。
「あら、今日はもう来ないのかと思ったわ。
遅かったのね。アイザック」
ベアトリスが声を掛けると、「ああ、うん……」と素っ気ない返事が返された。
「かなりお疲れのご様子ですが、昨日のお仕事に手こずっているのですか?」
「あーー……、いや、それも確かに大変ではあるんだが……、まあ、他にも色々とあってね」
アイザックは言葉を濁した。
おそらくは『答えたくないのだから察して欲しい』という意思表示なのだろう。
私とベアトリスは『仕方がないわね』と視線だけで会話をしながら肩をすくめてそれ以上の追及を諦めた。
その後もアイザックは、窓の外をボーッと眺めたり、かと思えば、溜息をつきながら頭をガシガシと乱暴に掻いたりと、普段は絶対に見せない姿を無意識に披露している。
クラスメイト達も興味深そうにいつもと違う彼に注目しているし、なんなら他のクラスからも見物人が来るくらいだ。
有名人って大変だね。
「オフィーリアが側に居るのに、心ここに在らずみたいな態度を取るなんて、本当に珍しいわね」
ベアトリスの言葉に、私も頷いた。
「アイザック様は、傷痕のせいか、いつも私に気を使ってくれていますものね」
「それ、本気で言ってる?」
「? どういう意味です?」
「………分からないなら良いわ。
ちょっとアイザックが可哀想に思えてきた」
溜息を零しながら呟いたベアトリスの台詞の意味は、私には理解できなかった。
それにしても、アイザックは何か悩み事でもあるのだろうか?
完璧超人なアイザックの悩みなんて凡人には想像もつかないけど、彼だって一応人間なんだし、たまには悩む事くらいあるよね。
普段助けてもらってばかりなので、私に何か出来る事があるなら是非とも協力したいとは思うのだが……。
(残念ながら、私には相談したくないみたいだしなぁ……)
まあ、相談してくれたとて、私が出来る事なんて高が知れているんだけどね。
私が出来てアイザックに出来ない事なんてないのだから、私に相談するくらいなら、とっくに自分で解決してるか。
役立たずな自分が不甲斐無くて、ちょっと悔しい気持ちになった。
「オフィーリア、やっぱり僕達、婚約しよう」
何の前触れもなく、唐突にアイザックがそんな事を言い出した。
それはアイザックの様子が変わってから三日が経った頃の出来事だった。
3,047
あなたにおすすめの小説
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる