公園のベンチで出会ったのはかこちゃんと・・・・。(仮)

羽月☆

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13 まだまだ遠慮のある距離。

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急にメールとか増やしていいものだろうか?
ちゃんとお互いに気持ちを打ち明けてそういう関係になったんだから、いいかな?
掃除をしながら考える。仕事中は携帯はロッカーに入れてある。
スケッチブックとペンなどはトートバッグに入れてカウンターの下へ置いてある。
準備をしつついつものように常連のお客さんを迎える。
今日はノーティーのマスターはいない。お休みなのだ。
今日子さんは昨日というか今朝というか、私が佐野さんと会っていたのを知らない。
いまのところ話も聞いてないと思う。

でも黙っていられない人はいるもので。

「ねえ、真奈ちゃん。昨日は佐野君とどこに行ったの?」

「へ?」

「あ、ノーティーさんでお会いしましたよね?」

「嫌だなあ、それは覚えてるって。その後その後。」

「あ、一緒に本屋さんに行って、親切にうちまで送ってくれました。」

「それだけ?」

「は、はい。」

うまくごまかせただろうか?
背中を冷や汗が伝うようで、今日子さんの視線も浴びてるようで。

「なんだぁ、そうなんだ。」

私は適当におしゃべりを終わらせて、せっせと準備に集中するふりをする。
ひと段落したところで次々にパンを持ち帰る常連さんを見送る。
意味ありげにじっと見られたけど普通の顔していつも通り振舞った・・・つもり。
さてこれから今日子さんの質問攻めにあうかと心していたら特に何も聞かれず。

「じゃあ、後はお願いね。」と下がっていった。

むしろ怖い。絶対揶揄ってきそうなのに。
もしかして・・・・。
まさかね、さすがに報告なんてしてないよね?
昼に聞いてみようかな・・・多分聞けない。
ぽつりぽつりとやってくるお客さんに対応しているとお昼近くになっていた。

「ごめんね、火曜日はどうしても合間がなくて。ちょっと座って休憩して。もうすぐお昼だけど。」

今日子さんの言葉に甘えて少しカフェスペースで座り水分補給をする。
今頃仕事かなあ?先にメールもらえてれば返事しやすいんだけどなあ。
来てるかなあ?メール。
仕事中だったら悪いかあ。佐野さんの場合いつ仕事なのか全く分からないから。
でも携帯が鳴ると仕事かと思ってすぐ見ると思う。
それなのに私からだと分かるとガッカリかなあ?
ガッカリとまではいかなくても仕事じゃないのかあなんて思うよね。
やっぱり自分からは出来ない。せめて夜にしよう。

意外に不便だなあ、あの仕事・・・なんて一瞬思ってしまって慌てて否定する。
だって普通のお勤めの人だったら月曜日に会ったり、部屋でゆっくりしたりなんてできないし。絶対行動エリアの狭い私には合わせやすいはず。
でもメールはしずらい。
なんだか急にわがままで自分勝手な発想になる。いけない。

前に優しくしてくれて付き合ってくれた人も社会人だった。まだ大学生だった私は行動エリアはともかく世界が小さくて。仕事をしている相手のことまでちゃんと考えようとはしなかった。本当に幼稚だったのだ。

「仕事中だって、一人なら少し指を動かすだけで済む話なのに・・・・。」

メールのレスが遅いからもっと早く欲しいというようなお願いをした時だった。

「どうしてそうやって自分の時間で相手の時間を計るの?仕事中って言うのは場所と時間と精神の問題だよ。場所も職場だし、時間がかからないとはいえ仕事をしてるのは体だけじゃなくて頭も心もなんだよ。そんなにずっと集中してるとは言わないけど仕事中は仕事中。そんなに時間に余裕がある相手が欲しいなら同じような大学生と付き合えばいいんだよ。それじゃなきゃ満足しないんじゃない?」

夜、何度目かの電話にやっと出てくれた相手に言われた。
怖くてその後はメールも電話も出来ずに彼からも来ないまま終わった。
怒らせてしまったんだと。
本当は『言い過ぎた、ごめんね』という電話を待っていた。
いつまでも握りしめた携帯は鳴らず、それでもあきらめきれずに数日は片時も離さずにいた。でも徐々に諦めた。本当に徐々に。
諦めるのにも忘れるのにも時間がかかったけど、自分の幼稚さに気がつかずに相手の事を非難した。何度も、大人なのに・・・と責めたりして。
今は自分が悪かったと本当にそう思う。
私はあの頃から成長できているだろうか?


ぼんやりしてると今日子さんと目が合った。

「すみません、ぼんやりしてました。」

「大丈夫よ。休んでいいって言ったんだから。」

今日子さんが怪訝な顔を笑顔に変えて言う。

「少し早いけどお昼に行って来ていいわよ。」

「はい、じゃあ行ってきます。」

ロッカーにいく。一番に携帯をチェックしたいけどそれは後回しにして上着を手にしてお昼に行く。サラダとヨーグルトを買ってベンチに座る。
気になって仕方ないので携帯を出した。点滅する光にかすかな期待感が膨らむ。
佐野さんからだった。
昨日のお礼とお食事のお誘い。
今日は昼に打ち合わせと書かれていた。まだ打ち合わせ中かな?
お昼が終わったらロッカーで返事をしようと思ってお昼を食べ始めた。
相変わらずスーツ姿の人が行き来する。
バリバリ仕事してますって、引き締まって見える顔からそう読み取ってしまう。
そして劣等感を感じずにはいられない自分。
しばらくすると後ろに2人のスーツの男性が座った。
ぼそぼそと語られた内容があまりにもネガティブで。
恨み節を吐き続ける2人、やがて対象が一人に絞られて人格攻撃になる。
・・・いろいろあるようだ。

誰でも環境に折り合いをつけて生きている、それが得意か不得意か。
ぼんやりしてたらうっかりお昼時間いっぱいになってしまった。
急いで片づけをしてお店へ戻る。
佐野さんに返事をすることはすっかり忘れていた。

「すみません遅くなりました、ぼんやりしてたらすっかり時間になってしまって。」

今日子さんと交代してお店に立つ。

「お帰りなさい。真奈ちゃん、大丈夫よ。後で打ちあわせしましょう。じゃあ、お願いね。」


毎日いい天気でまだまだ梅雨の気配はないけど来月からカエルキャンペーンをすることになっている。壁にはる大きめのイラストは昨日できなかったので今日やるつもりで。自分で提案した手前できるだけやりたい。
粘土細工もたくさん作り後は色を塗りニスがけするばかり。
カフェ用のランチョンマットはコピーしてあるので後は折り紙でアジサイを作ってくっつける。さやかちゃんが手伝ってくれるらしい。ポップのように張り出すイラストはできている。カエルの型抜きとリボン付けもさやかちゃんと一緒に。
今日試食をする予定で、そのためにお昼は軽めにした。
佐野さんを誘いたいんだけど「カエルのかこちゃん」ばかりでそれはちょっと恥ずかしい。
キャンペーンがすごく楽しみ。
すでに来月のキャンペーン予告としてちいさなチラシをお客様には渡している。
早くイラストを描き上げて壁にも告知をはりだしたい。
今日子さんがあまり装飾を好まないらしく店内はとてもシンプルだ。
今の私の部屋もシンプルだけど、本当はかわいいものをたくさん置いたりする方が好きなのだ。飾っていいなら白い壁をカラフルにしたい。

「いらっしゃいませ。」

ペコリと挨拶して入ってくるお客さん。顔は良く知っている、何度も来てくれるから。
時々小さい子を連れている。トレーの上のパンを手際よく袋やプラケースに入れて袋に詰めていく。つぶれないように、優しく。
最後に来月のキャンペーンの紙を差し上げたか聞いて。

「あ、頂いてますから大丈夫です。さやかちゃんがつけてる手作りの髪飾りが欲しいってうちの子も言ってました。絶対早めに来ますね。」

「あ、ありがとうございます。」

ぺこりとお礼をして背中を見送る。
さやかちゃんにあげたのは試作の段階のいくつかで短いチェーンをつけたり髪ゴムをつけて使ってもらってる。子供の視線に留まるならうれしい。もともと大人向けじゃないし。ん?私もガッツリとつけるつもりだけど、あり?
今更コスプレはご自由にと言われたのが恥ずかしくなってきた。
ブローチにしようか?ブローチは針があるから子供には危ないかと思ってさやかちゃんには渡してない。自分用はそうしようと思った。

午後は二時頃からお母さんのお客さんが増える。
子供のおやつや朝の分を買って帰る波があり、ひと段落した頃がいつも休憩時間になる。

今日子さんがトレーを持ってきてカフェテーブルへ。
温かいパンが並べられている。
自分が粘土で作ってイメージしたのとほとんど変わらない。
ビー玉の模様のようなパン、白いパン生地とフレーバーの色の渦がきれい。
カエルのかこちゃんは茶色っぽいパン色。大きな目とほっぺのクッキーが可愛い。
テルテル坊主もちょっと大きいかな?ってくらいの存在感。
うれしい、かわいい。
目をあげると務さんと目が合う。

「かわいいです。美味しそうです。」

「真奈ちゃん、食べてみて。試食の方が大切よ。」

「頂きます。」

もったいないけどお腹空いてるから。ビー玉から味わう。
色味はジャムを練り込んで作っている。小さくて本当は一口サイズくらい。
でもゆっくり味わう。半分づつ残しながらすべての色を食べる。
かこちゃんも顔半分、まずは目から。顔にはクリームが入っている。
テルテル坊主には頭にアンが入ったアンパンで体は何もない。

美味しい、けど。

「う~ん、テルテル坊主が大きくて、スカートの味がないならもう少し小さくするのはどうでしょうか?」

「そうなの、意外に面倒なのよ。テルテル坊主。ね。」

「そうなんだよね。バランスがとりずらいし、手間がかかる。」
みんなでテーブルの上の食べかけのパンを見つめて考える。

「メレンゲっぽく軽くてぷっくりしたクッキーとかできますか?壊れやすいかな?
パンから離れてますけど。この頭の立体的な感じはかわいいんで残したいです。」

「マカロンみたいな?」

「そうです、そういう生地です。」

ドアが開く音がする。

「いらっしゃいませ。」

反射的に席を立ちゆっくりとレジ前に戻る私。

「ああ、雪さん、いいところに。ねえ、パンを選んだらちょっとこっちで意見聞いていい?」

さやかちゃんの同級生の冬美ちゃんのママ雪さん。

トレーのパンの会計をして今日子さんの方へ歩いていく。

「務さんお久しぶりです。こんにちは。」

「こんにちは。」

「ねえ、来月のキャンペーン商品の試作。こっちのテルテル坊主なんだけど、どう?見た目の話。」

「ずいぶん大きいのね。アンパンと・・・素パン。」

「そうなの、やっぱり惹かれない?」

「そうね。正直大きいのはいいけど。美味しそうかというと・・・。」

「やっぱり無しだね。マカロンで作ってみるか。」

「マカロンだといろんな色が楽しめますよね。ジャムを挟んでサンドして立体的になります。」

後ろからつい口をはさむ。

シーン。

「すみません、作ったこともないのに適当にあれこれと。」

「マカロンいいんじゃない?カラフルなテルテル坊主。楽しそう。」

雪さんが加わってくれた。

務さんを見る。

「出来ると思う。日持ちもするから二日くらいは大丈夫かも。」

「アジサイの花びらとのセットにしたりとか。」

「楽しそうね、真奈ちゃん。」

「だって袋に入れるのは私も出来ます。私がもらったら開けて食べるのも特別感があってうれしいです。さやかちゃんと沢山型抜きしますから。」

「分かった、よろしくね。マカロンはまた試作してからね。」

「雪さん、ありがとう。」

私は手に持った袋を渡す。

「うん、楽しみにしてる。冬美もカエルの髪飾りが欲しいって言ってるし。」

今日子さんが私を見る。

「本当ですか?うれしいです。」

にっこりと微笑んで帰っていった。

「さやかちゃん、すごい広告塔になってますか?他のお母さんにも言われました。」

「そうなの。真奈姉ちゃんに作ってもらったって言いふらしてるらしいから。」

「今日一緒に型抜きしようって約束してるんです。」

「うん、今日はまっすぐこっちに連れてきてもらうから。」

私はトレーの上のパンに目をやった。
残りは少し冷えたけどおいしいのは変わらない。
だいたい焼きたてを食べれるなんてすごく贅沢。
完食してお腹いっぱい。

務さんと今日子さんがいなくなったカフェスペースでトートバッグから切り抜きのセットを用意して切り取りをして見本を作る。さやかちゃんの為に。
カエルの形とアジサイの花びら。大量に作りたい。
接客をしながらさやかちゃんを待ってるとお祖母ちゃんに連れられて帰ってきた。
髪の毛にはカエルの髪ゴム。さやかちゃんには緑と茶色っぽい色をあげた。
今日つけてるのは焼き立てパンの様な茶色っぽいほう。

「さやかちゃん、お帰り。こんにちは。」

お祖母ちゃんにもご挨拶。

「ただいま、真奈姉ちゃん。」

「さやかちゃん、髪も可愛いね。緑とどっちが好き?」

「さやかこっちのパン色がいい。」

「そう。」

「さやか、今日はお仕事しに来ました。真奈姉ちゃんのお手伝いだよ。」

「ありがとう。うれしい、助かる。」

カフェテーブルの方へ行って用意をする。
粘土で作った三色ビー玉パンを入れたものを袋に詰めた見本と切り抜きの見本をテーブルに置く。

「さやかちゃんとこれを作りたいの。ここにつけるカエルさん。」

「やる、やる。かわいい。」

はさみと色紙を置く。
カエルの形は書いてあるのでその通りに切ってもらえばいい。
幼稚園児と言えどもさやかちゃんはとても器用で任せても大丈夫そうだった。

「あとね、アジサイの花びら。こっちの完成はこんな感じ。カエルが終わったらこっちをやろうね。」

「うん。」

「じゃあ、お祖母ちゃんが小さく千切るからさやかが線に沿って切っていく?」

「うん。そうする。おばあちゃんも手伝って。」

「あ、すみません。」

「いえいえ、暇ですから。」

さやかちゃんが切り抜いたカエルに穴をあける私。
その後みんなでよくあるパンの口を止める短いワイヤー入りのタイに通す。
三人協力してサクサクと作業が進む。
カエルは全く手を入れることなく上手に切り抜かれていく。
カエルが終わりアジサイに。花弁はいろんな和紙を使うことにした。お菓子の箱に色ごとに小さな四角を入れていく。それを四枚重ねて花びらを一つ作る。それをいくつか重ねてランチョンマットにはると出来上がり。
途中今日子さんが顔をのぞかせたけど、さやかちゃんもお祖母ちゃんも楽しそうにやっているのを見て顔をひっこめた。
終わるものだ。これで予定終了。
アジサイもビニールタイもたくさん予備は作っておく。
余っても何かに使えるだろう。

「ありがとう。さやかちゃん。これで準備万端です。」

「さやかもお手伝いしたいなあ。いっぱいお客さん来たらお店のお手伝いしていい?」

「ママに聞いてね。」

「うん。」

私も自分の役割が出来て張り切るからさやかちゃんもやりたいんだろう。
たくさん来てくれればいいけど。
さやかちゃんとおばあちゃんは家へ。
夕方にはまたひと波ある。
サンドイッチなどを補充して今日子さんも2階に上がっていった。
来月のチラシは十分にある。

壁に1枚のランチョンマットを貼りだして、今日色塗り予定のイラストも貼りだす予定で。
明日にはにぎやかな店内になるかもしれない。
務さんも顔を出し今日の商品はこれで終わり。
後はここにある商品を売り切るのみ。
マカロンの試作をするという務さん。
「楽しみです。」とお願いする。
思ったより早くパンが減っていく。
カフェスペースの掃除をしたり棚のかたずけをしてパンをまとめて袋に入れて特売パックにする。レジ横に並べて棚はすっかり掃除を終える。

「いらっしゃいませ。」

いつも仕事帰りに寄ってくれるお客さんが棚を見てあれっという顔をする。

「すみません。今日は思ったより早くなくなって、今あれだけなんです。」

その人が袋の中を見て一つ取り買ってくれた。

「ありがとうございます。」

来月の予定表は渡してある。
その後来てくれた人が残り二袋を買ってくれて完売。終了。早い!!

「務さん、完売です。後片付けしますね。」

声をかけてブラインドを下ろして看板を取り込む。掃除をして終了。
ゴミをまとめて所定の場所へ。ふぅ。これですべて終了。
後は務さんに声をかけて挨拶をしてロッカーへ向かう。
あ、すっかり忘れてた。佐野さんに返信したかったんだ。

急いでお店をでて外で携帯を開く。
お疲れさまと次回会えるのを楽しみにしてますと返信しておく。
もう終わっただろうなあ。遅くなったお詫びを最後に入れた。
試食で大量に食べたせいでお腹も空いてない。
そのまま商店街に寄らずにまっすく家へ帰る。
イラストの入ったバッグも持って帰り、今夜仕上げをしなくては。

部屋についてササッとお風呂に入り洗濯をする。
テーブルにイラストブックを広げて色塗りを始める。
カラフルな色は大好きだ。どんどん心が明るくなる。
パン色のカエルってよく考えたら斬新。
粘土で作るとカエルパンだなって思えるけど、この絵だとあんまりピンとこない。
パン特有の光沢感も出ない。どうしよう。
ただの素人の画だからそこまで芸術的基本がないから。
小さい画だと気にならないけど大きくなると粗が目立つ。
色塗りせずに白地にチークと目だけの色使いにした。
味の説明を明るいポップ風に吹き出しをつけてと。
夢中になっていたら肩が疲れた。


キッチンでお湯を沸かしながらぼんやりと窓から外をのぞく。
なんとなく薄暗い中に浮かんだシルエットに見覚えがあるような、まさかね。
その影が携帯を取り出して画面が明るくなる。
その光で顔が浮かび上がる。佐野さん?
急いで携帯をチェックする。特にメールはない。
携帯を手に持ったままもう一度窓から見下ろす。やっぱり佐野さん?
電話してみると影の人が携帯を耳に当てる。

「もしもし、真奈さん、お疲れ様。」

「佐野さん、お疲れ様です。あの、もしかして今すごく近くに居ますか?」

佐野さんがこっちを見上げる。耳元からアッという声が聞こえる。

「佐野さん、どうかしましたか?よかったら部屋へどうぞ。」

顔を下に向けた佐野さんが行きますと言うのが聞こえて電話が切れた。
動き出した影に、私も机の上を片付けてオートロックを開けて玄関に向かう。

「佐野さん、どうぞ。」

「ありがとう。突然ごめんね。」

携帯を手に持ったまま入ってくる佐野さん。
ここにいたのは偶然?通り道だったとか?

「佐野さん、お食事は?」

すっかりくつろいだ格好の私。

「大丈夫。今日は忙しくなかったので済ませてる。」

「じゃあ、コーヒー淹れますか?私も丁度お茶にしようと思ってたところだったんです。私は緑茶にしたんですが何がいいですか?」

「じゃあ、同じく緑茶でお願いします。」

マグカップをテーブルに置いて隣に座る。

「お昼にメールもらってたのに、遅くなってすみませんでした。打ち合わせって聞いてたので邪魔にならないようにって思ってて。」

「大丈夫。打ち合わせの時はマナーモードにしてるから、気にせずいつでも大丈夫だよ。今日の打ち合わせはほとんど雑談だったんだ。」

「今帰りだったんですか?」

「ううん、今日は早かったよ。」

じゃあ、何故ここに?

「あ、っと。随分早くに気がついてた?僕がいること?」

「いえ、似てるけどなあって思ったら携帯の明かりで顔が分かって。急いで携帯を見たけど特に連絡もなかったので電話してみたんです。」

「あ、これ。サノマルの写真。」

「佐野さんがサノマルって言うとなんだか・・・・。」

「せっかく名前を付けたんだからいいよね。逞しく育ってるよ。」

佐野さんから携帯を受け取り写真を見る。大きくなったサノマルがくつろいでたり、遊んでたり、すましてたり。10枚ほどの写真を次々に見ていく。かわいい。
すっかり自分の居場所を見つけたみたいだ。

「かわいがられてるみたいですね。良かった。」

「そうだね。家族が四人いて、その中ですっかり家族の一員になったって。いたずらもあんまりしないいい子みたい。あとで携帯に送るから。」

「お願いします。私、これ好きです。ちゃんと自分の座布団があるんですね。」

丸い小動物用の座布団の中に丸くなり目を閉じている写真。毛並みもいいし、目鼻ヒゲもきれい。自分の居場所ですっかりくつろいでるような写真。

「わざわざありがとうございました。良かったです。幸せそうで安心しました、ちょっと寂しいけど。」

「そうだね。」

携帯を受け取りポケットにしまう佐野さん。
2人でのんびりお茶を飲む。

「週末からいよいよ植木屋さんなんだ。家族が旅行に出かける間に顔馴染みのおじいさんの話し相手にもなってほしいってことでゆっくりでもいいからって言われてるんだ。毎日一緒に食べて欲しいってお昼ご飯までついてるんだよ。」

「毎年行ってるお家ってことでしたよね。」

「そう。子供が来年小学生になるから休ませてまで旅行に行けるのは最後ってことで、連休取って旅行に行くみたい。とくに普通のおじいさんなんだけど、いつも孫がいる家に一人だと寂しいかもしれないからって。」

「そうですね。私も今日はさやかちゃんに手伝ってもらって仕事したんですが、いるだけでも暖かいですよね、子供って。」

「真奈さん、月曜日良かったら一緒に行かない?」

「どこに?おじいさんの家にですか?」

「そう。せっかくのお休みだけど僕のお手伝いと、おじいさんの話し相手とお茶係、代わりに出前のお昼がついてます。僕だけじゃあおじいさんも変化がないし、真奈さんなら商店街の狸おやじ相手で慣れてるかなって。夜はお礼にご馳走するよ。あの、勝手なお願いなので考えておいて。予定では10時過ぎから15時くらいまでかな。」

「いえ、手伝います。佐野さんのお仕事にもちょっと興味ありますし。

「ありがとう。一応家族と本人の了承を取ってからお願いするね。」

「はい。」
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