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間章7
間話59 もう1つの「ランクアップ」
しおりを挟むそれは、凛依冴、クリフ、そしてヘファイストスが、新たな彼岸花を打ち始めた時のことだった。
「う、うぅ……」
「大丈夫。大丈夫だからね」
凛依冴達が作業している中、ジゼルは自身の中に避難させている精霊の彼岸花を優しく励ましていた。
だが、
(くぅ……)
ジゼルもまた、精霊の彼岸花と同じように苦しんでいた。
何故なら、凛依冴達が「カン、カン」と刀を打つ度に、精霊の彼岸花の「記憶」が、ジゼルの頭の中へと流れ込んでいたからだ。
(これは、かなりキツイなぁ)
と、ジゼルが心の中でそう呟くように、その「記憶」はあまりにも残酷で、あまりにも悲しすぎるものだった。
それからちょっとした騒ぎはあったが、漸く新たな彼岸花が出来上がった。
しかし、出来上がったといっても、
「まだ完成したわけではない。最後の『仕上げ』が残っている」
と、ヘファイストスはそう言ってたが。
その後、ジゼルはヘファイストスに促されるように、自分の中にいる精霊の彼岸花と共に、その新たな彼岸花ーー「彼岸花・神ウチ」の中へと入った。最初は中に入れるか少し不安になったジゼルだが、精霊の彼岸花のおかげか、特に問題なく入ることが出来た。
そして、凛依冴によって「彼岸花・神ウチ」が春風の手に渡った後。
「コレヨリ、『ランクアップ』ヲ開始シマス」
という「声」が、ジゼルの頭の中で聞こえた。
次の瞬間、ジゼルの体がスゥッと小さな光の粒となった。それは、彼女の中にいる精霊の彼岸花も一緒だった。
そして、
(ああ、私達の心と体が……)
完全に粒子となった2人の心と体が集まり、やがて1つの体を形成していった。
その後、1つとなった彼女達の頭の中で、再び「声」が聞こえた。
「『ランクアップ』ガ完了サレマシタ」
「『零ノ精霊ジゼル』ト、『刀ノ精霊彼岸花』ノ、融合ヲ確認」
「新タナ精霊、『零ト花ノ精霊ジゼル・リコリス』ガ誕生シマシタ」
(ジゼル・リコリス。それが、私達の名前……)
その声を聞き終えた後、生まれ変わったジゼルがゆっくり目を開けると、
「あ、春風……様」
そこにいたのは、春風だった。
「おはようございます、ジゼルさん」
と、春風がニコッと笑ってそう言うと、
「……はい、おはようございます春風様」
と、生まれ変わったジゼルも、ニコッと笑ってそう返事したが、
「あれ? 春風様、私のことがわかるのですか?」
と、頭上に「?」を浮かべながらそう尋ねてきたので、
「勿論わかりますよ、あなたはジゼルさんであると同時に、彼岸花でもあるんでしょ? 随分若くなっちゃいましたね」
と、春風も「フフ」と笑いながら、「何を言ってるんだ?」と言わんばかりにそう尋ね返した。
その言葉にジゼルが「え?」となると、自身の両手や体を見て、
「え、あ、あれ?」
と、若干混乱気味になったので、
「あ、これどうぞ」
と、春風は腰のポーチから姿見鏡を取り出して、それをジゼルの前に置いた。
そして、そこにうつってる自身の今の姿を見ると、
「えぇっ! これが私ぃ!?」
と、あまりの変化に驚きを隠せないでいた。
その時、
「ふむ、どうやら無事に『ランクアップ』出来たようだね」
という声がしたので、ジゼルと春風は「ん?」と声がした方へと振り向くと、
「やぁ」
そこには、地面にへたりこんでる20代前半くらいの若い男性と、彼の側に寄り添ってる2人の顔がそっくりな幼い少女がいた。
ジゼルは男性達を見て、
(え、誰?)
と一瞬思ったが、すぐに「いえ……」と呟くと、
「あなたは、フレデリック……いえ、最初の固有職保持者のフリードリヒ様と、この世界の「意志」、クロエル様とシロエル様、ですね?」
と、彼らに向かってそう尋ねた。
「おや、僕達のことをご存知でしたか?」
と、その青年ーーフリードリヒがそう尋ねると、
「はい、『ランクアップ』の時に、春風様の「記憶」を見ましたから」
と、ジゼルは真面目な表情でそう答えた。
その答えを聞いて、フリードリヒが「そうですか」と納得すると、背後の方でドォンという大きな音が聞こえた。
その時、春風はハッとなると、ジゼルの方へと振り向き、
「ジゼルさん、早速で申し訳ありませんが、みんながピンチなんです。あなたの力を、俺に貸してください」
と、深々と頭を下げてそう頼み込んだ。
すると、ジゼルはスッと春風に近づき、両手で彼の顔に触れると、
「……ムグ!?」
その唇にキスをした。
突然のことに、キスをされた春風は勿論、フリードリヒ、クロエル、シロエルもギョッとなると、
「はい、春風様。私……いえ、私達は何処までも、あなたと共にあります」
と、ジゼルは穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
その後、
「……はは。それじゃあ、行きましょうか!」
と、再びハッとなった春風がそう言うと、
「はい、春風様!」
と、ジゼルは元気よくそう返事した。
そして、ジゼルと春風は、仲間達のもとへと駆け出すのだった。
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