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間章7
間話57 水音と「家族」4
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「……そっか、あの時そんなことがあったんだ」
画面越しに洋次郎の話を聞き終えて、水音は顔を下に向けながらそう呟いた。
すると、
「ふ……ふっざけんなぁあああああっ!」
と、突然アビゲイルがそう叫んだので、水音をはじめとしたその場にいた誰もがギョッとなった。
「え、あの、アビーさん……?」
と、水音が恐る恐るアビゲイルに声をかけると、
「おい、ジジイ! テメェ、自分の孫に何て酷いことしやがる!」
と、アビゲイルは水音を無視して、画面の向こうの洋次郎に向かってそう怒鳴った。
そしてそれに続くように、
「……確かに、当主殿は孫に対して、随分と残酷な『罰』を与えたようだなぁ」
と、セレスティアも腕を組んだ状態で洋次郎に向かって静かにそう言った。
そんなセレスティアとアビゲイルの様子を見て、水音、イチ、リネットはオロオロしていると、
「確かに、お二人の言う通り、私は孫に対して酷なことをしたと理解しております。今更何を言っても言い訳にしかならないでしょう。故に、非難は全て受け入れる所存です」
と、洋次郎は落ち着いた表情でセレスティアアビゲイルに向かってそう言ったので、2人はそれ以上何も言わなかった。ただ、アビゲイルは黙ってはいるが未だに「納得出来るか!」と言わんばかりに怒っているが。
そんな2人を前に、
「水音」
と、洋次郎は今度は水音に話しかけてきたので、
「ふえ!? な、何、爺ちゃん?」
と、水音は驚きながら返事すると、
「全てを思い出したなら、お前も、陽菜に対して『怒り』や『恨み』があるだろう? ならば、その全てを儂にぶつけるといい。儂は当主として、それらを墓まで持って行こう」
と、洋次郎はそう言ってきたので、水音は「え、うーん……」と暫く考え込むと、
「……あのさぁ、爺ちゃん」
「何だ?」
「航士達は、あれからどうなったの? あの出来事の後、全然音沙汰無しだったから」
と、水音は洋次郎に向かってそう尋ねので、
「ああ、そうだったな」
と言った後、洋次郎は答える。
「先ほどの話に出たように、あれから航士は『鬼の闘気』を出すことに恐怖を覚えてしまってな、あれではもう二度と立ち直ることは出来んだろう。故に、奴はあの出来事の原因を作った者として、家族や奴を今まで持ち上げてきた親戚達は桜庭家を追放となった。今は遠い地で大人しく生活していると、時折報告が来ている」
その答えを聞いて、水音は再び下を向いて「そう……」と小さく呟くと、スッと顔を上げて、
「爺ちゃん、僕はあの日のことで、陽菜には『怒り』も『恨み』もないよ。寧ろ、申し訳ないって気持ちでいっぱいなんだ」
と、真っ直ぐ洋次郎を見てそう言った。
その言葉に、
「ほう、それは何故だ?」
と、洋次郎が尋ねると、
「あの時、僕がもっとしっかりしてたら、陽菜に航士達や、母さんを傷つけさせるなんてことはしなかったと思ってる。まぁ、ちょっと自惚れ入ってる言い方なのは、勘弁してね。だから、爺ちゃんが『僕への罰』って言った時は、『ああ、その通りだ』って思ってるんだ」
そう言うと、水音は「だから……」と付け加えて、視線を陽菜に移した。
そして、
「陽菜」
「な、何、お兄ちゃん?」
と、陽菜が怯えた表情でそう返事すると、
「駄目な兄ちゃんで、本当に、ごめん」
と、水音は深々と頭を下げて謝罪した。
その言葉に、誰もが何も言えないでいると、
「……そんなこと、ない」
と、陽菜が口を開いてそう言ったので、水音は「え?」と返事すると、
「お兄ちゃんが一生懸命なの、知ってるから。いつも、私の為に頑張ってたの、知ってるから。そんなお兄ちゃんだから、私も、『頑張ろう』って気になれたから……!」
と、陽菜は大粒の涙を流しながらそう言って、
「わ、私も、ずっと本当の、こと、言わなくて、ごめんなさい! ずっと、お兄ちゃんを、苦しめて、ごめんなさい!」
と、陽菜も水音に向かって、深々と頭を下げて謝罪した。
そんな陽菜の姿を見て、水音が「陽菜……」と口を開こうとした、まさにその時、
「ふむ、いいだろう。ならば、私が私が言うことは1つだ!」
と、それまで黙ってたセレスティアが急に口を開いたので、水音と陽菜が「え、何?」と少しギョッとした表情になると、
「おい、桜庭陽菜!」
「は、はい!」
「お前も水音同様、私のものにする!」
と、セレスティアは声高々にそう宣言したので、
『……』
と、誰もがポカンとした表情になった後、
「「ハァアアアアアアア!?」」
と、水音と陽菜は驚愕の声をあげた。
その後、
「ちょっと、セレスティア様! 一体何を言ってるのですか!?」
と、水音がセレスティアを問い詰めると、
「妹だけじゃないぞ。ご両親殿や祖父母殿も、全員ウォーリス帝国に迎え入れるからな!」
と、また声高々にそう宣言したので、
『……ハァ!?』
と、洋次郎達も驚愕の声をあげた。
しかし、そんな彼らを無視して、
「勿論、これは決定事項だからな! 拒否権もないし、文句は言わせんからな!」
と、セレスティアはドンと胸を張りながらドヤ顔でそう言ってきたので、
『だからちょっと待てぇえええええええ!』
と、水音、イチ、リネット、アビゲイルは、セレスティアに向かってそう突っ込みを入れた。
そんな水音達の様子に、陽菜はただポカンとなって、優誓と清光は遠い目をした。
そして、洋次郎と福世はというと、
「……なぁ、福世よ」
「なぁに、洋次郎さん」
「……どうやら水音は、えらい女性と出会ってしまったようだなぁ」
と、洋次郎も優誓達と同じように遠い目をしながらそう言って、それを聞いた福世は、
「うふふ、そのようねぇ」
と、困ったような笑みを浮かべながらそう言った。
その後、今後のことについて一悶着あったが、水音達は楽しいひと時を過ごすのだった。
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