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間章7
間話56 水音と「家族」3
しおりを挟む時は3年前。
場所は日本、桜庭家。
それは、暴走した陽菜が、母・清光を傷つけた日の翌日だった。
桜庭家当主の間では、当主・洋次郎の前に沈んで表情をした陽菜が正座していて、壁際には両親と祖母・福世が正座しているが、唯1人、水音だけは自室に閉じこもったまま出てこなかった。
そんな状況の中、
「清光、怪我の方はどうだ?」
と、洋次郎が清光に向かってそう尋ねると、
「はい、まだ少し痛みはありますが、傷はだいぶ塞がりました」
と、清光はそう答えた。
その答えに、陽菜はビクッとなったが、洋次郎はそれに構わず、
「福世、航士達の状態は大丈夫か?」
と、今度は福世に向かってそう尋ねた。その質問に対して、福世は表情を暗くしながら答える。
「こちらも大丈夫。全員、命に別状はないわ。ただ……」
「ただ?」
「航士の方ですが、昨日の一件がトラウマになってるのか、『鬼の闘気』を出すのを怖がってしまったみたいなの」
そう答えた福世の言葉に、陽菜はシュンとなった。
しかしそれに構わず、洋次郎は「そうか」と小さく呟くと、
「さて、陽菜よ」
と、陽菜に声をかけたので、
「は、はい」
と、陽菜は怯えたそう返事をした。
「お前は、自分が何をしたのか、理解しているな?」
と、声を低くしてそう尋ねてきた洋次郎に、陽菜は更に怯えた表情になりながらも、
「……はい」
と、ゆっくりと頷きながら答えた。
その答えを聞いて、洋次郎は再び「そうか」と小さく呟くと、
「ならば、儂は当主として、お前に罰を与える」
と、真っ直ぐ陽菜を見てそう言ったので、それを聞いた陽菜、優誓、清光、そして福世は、皆ゴクリと固唾を飲んだ。
そんな状況の中、洋次郎は告げる。
「水音に絶対に『真実』を告げてはならぬ」
その言葉を聞いて、
「お、お爺ちゃん、何を言ってるの!?」
と、陽菜は思わず立ち上がった。
そのすぐ後に、
「そ、そうよお父さん! どうして!?」
と、清光も立ち上がった洋次郎を問い詰めた。
すると、優誓は冷静な表情で、
「お義父さん、それはつまり……」
と、口を開いたが、それを遮るように、
「そうだ。水音にはこのまま、『自分が母親を傷つけた』と思い込んでもらう」
と、洋次郎は冷たい口調でそう言ったので、
「どうして!? どうしてよお爺ちゃん!? だって、お母さんは私が……!」
と、陽菜が文句を言おうとしたが、
「黙れ!」
と、洋次郎にそう怒鳴られてしまい、陽菜はビクッとなって黙り込んだ。それは、優誓達も同様だった。
そんな陽菜達を前に、洋次郎は更に話を続ける。
「水音はお前のことを大切に想っていた。そんなお前が清光を傷つけたと知れば、水音が受ける精神的なダメージは計り知れないものになるだろう」
「……だから、このまま水音に何も告げるな、と?」
と、声を震わせながらそう尋ねる優誓に向かって、
「そうだ。そしてそれは、水音にとっての『罰』にもなる。『妹を止めることが出来なかった』ということへのな」
と、洋次郎は冷たい口調のままそう答えたので、
「そ、そんな……そんなの酷い! 酷いよお爺ちゃん!」
と、陽菜は怒りのまま洋次郎に詰め寄ろうとしたが、
「フン!」
と、洋次郎が出す「鬼の闘気」にピシャリと弾かれて、
「キャア!」
と、陽菜は床に叩きつけられた。
それを見て、
「陽菜!」
と、清光は陽菜に駆け寄ろうとしたが、
「駄目だ」
と、優誓に腕を掴まれて止められてしまう。
そんな2人をよそに、洋次郎はスッと立ち上がり、陽菜に向かって再び告げる。
「陽菜よ、当主としてもう一度命令する。水音には何も告げるな。それが、『母親』と『兄』を傷つけた、お前への『罰』だ」
と、冷たく言い放つと、洋次郎は部屋を出て行った。
それを追いかけるように、福世も静かに部屋を出ていき、それを更に追いかけるように、優誓も清光の手を引っ張りながら、部屋を出て行った。
そして、1人残された陽菜はというと、
「お、お母さん……お兄ちゃん……」
ゆっくりと立ちあがろうとしたが、上手く力が入らず、
「ご、ごめ……ごめん……なさ……」
清光と水音……自分が傷つけた人達を思い出して、
「う……あ……ああぁ……!」
そのまま、声が枯れるまで泣き叫んだ。
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