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第14章 更なる「力」を求めて
第478話 春風編39 さらば「友」よ
しおりを挟む「アアンディイイイイイイイッ!」
そう叫んだ中学3年の春風が放った、「彼岸花」の斬撃。
それは、流が乗る黒いジャーベリンから発射されたビームと、その発射元である本体を切り裂いた。
しかし、それが当たる直前、
「な、何だと!? くぅっ!」
流はすぐに黒いジャーベリンのハッチを開いて、外へと脱出し、それと同時に、斬撃を受けた黒いジャーベリンは、大きな音を立てて爆発した。
「あ、アンディ……さん」
脱出した流を見て、中学3年の春風がそう呟くと、
「な、何だよ、これ!?」
と、彼岸花の刀身にうつった自分の姿を見て驚愕した。
その時、彼岸花の柄から更に触手が伸びて、中学3年の春風の右腕に絡みついた。
「う、うわぁ何!?」
「春風!」
「春風ちゃん!」
突然のことに驚く中学3年の春風。そんな彼を見て、丈治とサンディ、そして子供達が駆け寄った。
「春風ちゃん、大丈夫!?」
「いかん! このままでは、何か良くないことが起こるかもしれん!」
丈治達は春風の右腕に絡みついた触手と、その手に持つ彼岸花を掴んで、
「よし、引っ張るぞ!」
『せーのっ!』
と一斉に叫ぶと、中学3年の春風の右腕から、強引に彼岸花を引き剥がすと、それをその場に投げ捨てた。
「ううあ、ぐうう……」
あまりの激痛に、中学3年の春風はその場に膝をつきそうになったが、どうにか持ち直すと、落ちていた彼岸花を鞘におさめた。その間、触手が絡みついていた右腕から、血がポタポタと流れていた。
「春風、すぐに手当てを……!」
と、丈治がそう言うと、
「っ! アンディ博士!」
と、流が足を引きずりながら逃げ出しているのが見えたので、
「アンディ博士、待って!」
中学3年の春風はすぐにその後を追いかけた。
「ま、待て、春風!」
当然、丈治達もその後を追った。
「ハァ、ハァ……」
アジト付近の森の中を、足を引きずりながらも進んでいく流。逃走の果てに彼がたどり着いた場所は、崖の上だった。
「……く」
崖下を覗くと海が見えたが、それでも落ちたらただでは済みそうにないと流が理解していると、
「アンディ博士!」
と、ここで中学3年の春風達が追いついた。
流はそれを確認すると、
「動くな!」
と、懐から拳銃を手に取って、それを中学3年の春風達に向けた。
それを見た丈治達は怯んだが、
「アンディ博士、もうやめましょう?」
と、中学3年の春風は怯むことなく真っ直ぐ流を見てそう言うと、ゆっくりと近づいた。
しかし、
「動くなと言った筈だ!」
と、流は中学3年の春風の足下の地面に向かって、何発も銃弾を撃ち込んだが、それでも、彼は真っ直ぐ流を見ていた。
そして、
「アンディ……いや、安土博士、もうあなたは終わりです。お願いですから、銃を下ろしてください」
と、中学3年の春風は、流を「アンディ」ではなく本名でそう呼んだ。
その姿を見て、流は何かを感じたのか、
「く、来るな! やめろ! 僕をそんな目で見るなぁ!」
と、まるで怯えるようにそう叫んだ。震えているのか、拳銃を握る手に力が入らないでいた。
一方、中学3年の春風は真っ直ぐ流を見つめながら、
「もうやめましょう安土博士。いや……流子お姉さん」
と、更に流を、本当の名前で呼んだ。
「え、流子……お姉さん?」
「嘘、安土博士って女の子なの?」
と、後ろで丈治達が頭上に「?」を浮かべていたが、それを無視して、
「っ! そ、その名前、覚えていたのか?」
と、流がそう尋ねると、
「ええ、覚えてますよ。『安土流子』。それがあなたの本名で、本当は女の人だってことも、女の人扱いされるのが嫌で、いつも男みたいな格好をして、みんなに『安土流』って呼ばせていたのも覚えてます。といっても、最終的には『アンディ』って呼ばれることになっちゃったけど……」
と、中学3年の春風は気まずそうに「ハハ」と笑いながら答えた。
すると、
「……して」
「?」
「どうしてなの? 5年前、僕は……私は、あなたから両親を奪ったのよ? 両親だけじゃない、所長も、仲間も裏切って、いっぱい人を死なせて、いっぱい人を悲しませたのよ?」
と、流……否、流子は涙を流しながらそう尋ねてきた。
その質問に対して、中学3年の春風は答える。
「……確かに、あなたはお父さん達を裏切りました。ブレイン・ロードって人達によって人がいっぱい殺されました。その所為で、お父さんとお母さんは僕を救って死んで、僕自身も、世間では『死んだ』ってことにされました。そして今、あなた方は『村』みんなを、僕の『大切な人達』に酷いことをしました。それは、絶対に許しちゃいけないことです」
「だったら……!」
「だけど……それでも僕は、あなたに生きて欲しい。ぶった斬ろうとしたことは、本当にごめんなさい。死んじゃったらどうしようって思ったけど、生きてくれてよかったって思ってます」
そう謝罪した中学3年の春風を見て、流子は更に体を震わせる。
「どうして? どうしてあなたは、そんな風に優しくなれるの!?」
大粒の涙を流しながらそう尋ねる流子に、中学3年の春風は真っ直ぐな眼差しを向けながら答える。
「決まってるでしょ? 『友達』だからですよ!」
「と、友……達?」
「そうです! あなたとブレイン・ロードの連中は、確かに酷いことをしました。でも僕は、お姉さん達に生きて償って欲しいって思ってます! だから……!」
そう答えると、中学3年の春風はスッと左手を出して、
「一緒に帰りましょう? 帰って、みんなに『ごめんなさい』して、やってしまったことを償いましょう? 大丈夫、僕も手伝いますから」
と言った。
その言葉を聞いて、流子の震えは止まった。
「……強いのね」
と、流子はそう口を開いたが、グッと拳銃を握って、
「ごめんね春風。私は、あなたのように強くはないの。親の仇を、『友達』と呼べるような、あなたみたいに」
そう言うと、銃口を自身首筋に当てて、
「さよなら、大好きな私の『友達』。あなたは、生きて」
「! 駄目だよ、流子お姉さん!」
と、中学3年の春風は止めようとしたが、それよりも早く、流子は引き金を引いた。
そして、バァンという音と共に、銃弾は彼女の首を撃ち抜いて、それと同時に、彼女の体は崖下へと落ちていった。
「お姉さぁあああああん!」
と、中学3年の春風が崖縁に立った時、そこには荒れる海が見えるだけで、彼女の姿はなかった。
「……馬鹿だよ、アンディさん。僕は……俺は……」
流子が消えた後で、中学3年の春風は叫ぶ。
「俺は強くなんかない! 強くなんかないんだよぉおおおおおおおっ!」
そう叫んだ中学3年の春風を、
「春風……」
と、丈治達は悲しそうな表情で見つめていた。
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