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第14章 更なる「力」を求めて
第416話 水音編12 水音の「過ち」
しおりを挟む水音達「桜庭家」の一族は、先祖代々生まれた時から、ある特殊な「力」を持っていた。
それは、「鬼の闘気」と呼ばれている破壊のエネルギーを操る能力で、「桜庭」の一族なら誰もが持っているものだという。当然、その中には母方の祖父にして現当主の洋次郎と、その娘である水音の母・清光、そして、水音の妹・陽菜も含まれていた。
「力」の強さはその人によって異なっているが、水音が持っている「力」はあまりにも強大だった。
それ故に、水音は幼い頃からその「力」に振り回される日々を送っていた。洋次郎と清光から「力」を扱う為の訓練を受けていたが、それでもちょっとムカついただけで体から「鬼の闘気」が溢れ出て、それが周囲の人達を傷つけてしまっていたのだ。
その所為で水音は周囲の人達だけでなく、同じ一族の人間からも「化け物」と呼ばれていた。特に水音と同い年の従兄弟を筆頭に、その取り巻き達から受けた仕打ちはかなり酷いもので、大人しくて優しい水音は、いつしか暗い感じの子供になってしまっていた。
そんなある時、水音の父親である優誓は、
「水音、父さんと一緒に『武術』をやろう」
と言って水音を誘い、彼に格闘術だけじゃなく、剣術や弓術といった、様々な武術を叩き込んだ。その理由は優誓曰く、
「『力』の誘惑に負けない、強い『精神力』を身につけるためだ」
だ、そうだ。
水音自身も、様々な武術を操る優誓を尊敬していたので、特に嫌がることはなく、それ以来、水音は清光から「鬼の闘気」を扱う為の訓練を、優誓からは武術を学ぶようになった。
やがて、ある程度まで「鬼の闘気」を抑えられるようになると、水音は磨き上げた武術の腕を駆使して大会に出るようになった。その理由は、優誓から訓練を受けていくうちに、自身の腕が何処まで通用出来るか試したくなったのだという。
最初は優勝どころか上位にすら入れなかったが、その時の悔しさをバネに更に技を磨いていった。
そして中学に上がった時、水音は出場した空手の大会で優勝することが出来たのだ。
これには水音本人だけでなく、両親と祖父母、そして陽菜も大変喜んだが、それを面白くないと思っている者達がいた。
それは、幼い時から水音を虐げてきた、水音の従兄弟とその取り巻き達だった。
今まで虐げていた水音が、自分達を差し置いて「幸せ」を手に入れたことに腹が立った彼らは、なんと陽菜を人質にするという暴挙に出たのだ。
最初は鍛えていた分、水音が優勢だったが、長年自身を傷付けてきた連中を相手に、その心の傷が癒えていなかった水音は、次第に劣勢に陥っていた。
やがて、絶対絶命のピンチに立たされたうえに、陽菜が従兄弟に暴行されそうなったその時、
「やめろぉ! 陽菜に手を出すなぁあああああああっ!」
それまでずっと抑えていた「鬼の闘気」が、水音の「怒り」によって解放された。
「お前達……許さない」
解放された水音の「鬼の闘気」は、あまりにも大きく、禍々しく、そして、強い「殺意」に満ち溢れていた。
「殺す」
そう言って、水音は感情のままに動いた。
「水音!」
「……え?」
自分の名前を呼ぶ声に、水音はハッとなった。
目の前には父親である優誓がいた。
「父、さん?」
頭上に「?」を浮かべながらそう言った水音は、ふと自身の両手を見ると、その手は真っ赤に染まっていた。
(……あれ? 何で?)
どうして真っ赤なっているのか理解出来なかった水音が、次に自身の周囲を見回した。
そこには、何か強い衝撃を受けて血を流しながら倒れている従兄弟と取り巻き達と、何かの側でわんわん泣いている陽菜がいたので、水音は優誓の制止を振り切り、その何かと陽菜に近づいた。
すると、何かの側で泣いていた陽菜が、同時に何かを言っているのかが聞こえた。
水音は「何だろう?」と思って、その言葉に耳を傾ける。
「お母さん! お母さん!」
その言葉を聞いた時、水音は陽菜の側にいる何かの正体を知った。
それは、従兄弟達と同じように体から血を流して倒れている、母親の清光だった。
「……母、さん?」
その瞬間、水音は自分が何をしてしまったのか理解した。
そう、水音は「怒り」と「殺意」に身を任せて、自身の「鬼の闘気」を暴走させてしまい、それで従兄弟達と、自分の母親を手にかけてしまったのだ。
「そ、そんな……嘘だ、母さん、僕はただ……僕はただ……!」
それを理解した時、
「母さん! うわぁああああああああああっ!」
水音はショックで悲鳴をあげた。
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