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第14章 更なる「力」を求めて
第415話 水音編11 落ち着いたところで……
しおりを挟むその日、エルードの空を、1つの「影」が飛んでいた。
「……」
普通の鳥でも、鳥型の魔物でもないその「影」は、とある方向を見つめながら、その大きな翼を羽ばたかせていた。
さて、それを知らない水音達はというと、グレアムの家の食堂にて、
「本当に、ごめんなさい」
と、目の前で分身1号に土下座(?)で謝罪されていた。
しかし、
「駄目だ! 絶対に許さん!」
と、分身1号の生みの親であるループスは、仁王立ち(?)で分身1号を威圧した。
しかし、どちらも見た目が可愛らしい子犬だったので、ループス本人には失礼なのだが、
(あ、ちょっと可愛いかも)
と、見ている水音達は、皆何処かほっこりとした表情になっていた。
するとここで、水音は「いかんいかん」とハッとなったのか、
「あの、ループス様、僕はもう気にしてませんので、そんなに怒らなくても……」
と、分身1号を庇おうとしたが、
「いいや駄目だぞ水音。こいつは俺のとこから逃げ出したうえに、それからもずっと音沙汰無しだったんだ。いくらお前がこいつを許しても、俺が絶対に許さん!」
と、ループスは頑なに分身1号を許さなかった。その言葉を聞いて、分身1号もシュンとなった。
そんな分身1号の姿を見て、水音がどうしたものかと考えていたその時、食堂の扉が開かれて、
「皆様、お疲れでしょうから、お茶を用意しました」
と、グレアムが人数分のお茶やお菓子を持って入ってきた。その隣には孫娘のミュリィもいて、お手伝いをしているのかグレアムと一緒にお茶を運んでいた。
その後、全員が配られたお茶を飲んでいると、グレアムが水音に向かって口を開く。
「水音殿、ご気分はどうですかな?」
「はい、だいぶ落ち着きました。お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした」
そう言うと、水音は深々と頭を下げた。
「あぁ、そんな、顔を上げてください。確かにあれは驚きましたが、なんと言いますか……私から見れば、まるで泣いているように見えましたから」
と、少し焦った様子のグレアムの言葉に、水音が「え?」となると、
「ああ、それは私も思った。あの時のお前は、本当に泣いているように見えてな、見ているこちらが胸を締め付けられそうになったぞ」
と、それまで黙っていたセレスティアも、何処か悲しそうな表情でそう言った。
水音はその言葉に何か思うところがあったのか、
「『泣いている』、か。そう、かもしれませんね」
と、表情を暗くして下を向いた後、
「……嫌な『記憶』を、思い出してしまいまして」
と、顔を下に向けたままそう言った。
「嫌な記憶?」
と、ループスが尋ねると、
「お前が言ってるのは、もしかして3年前ことか?」
と、それまで黙っていた煌良が尋ねてきた。
「……何の、ことかな?」
と、水音が下を向いたまま尋ね返すと、
「お前が、その『力』で同級生数人を病院送りにした時のことだ」
と、煌良は真っ直ぐ水音を見てそう答えた。それに反応したのか、ループスをはじめとした周囲の人達が、皆「え?」となった。
「……知ってたの?」
「ああ、なにせ俺も、その時ずっと見ていたからな」
と、そう答えた煌良の言葉に、水音が「ハハ、参ったな」と自嘲気味に笑うと、
「水音」
と、セレスティアが水音の手を握って、
「良ければその時のこと、聞かせてくれないか? ああ、心配するな、私もリネットもアビーも、お前を責めたりはしないからな」
と、優しくそう言った。その言葉に続くように、リネットもアビゲイルもコクリと頷いた。勿論、ループスや煌良達、更にはグレアムまでも同様だった。
水音は少し考え込むと、グレアムを見て、
「グレアムさん、今から『嫌な話』をしますので、その……」
と、チラリとグレアムの側にいるミュリィを見ながらそう言ったので、
「わかりました」
と、グレアムはミュリィに、
「大事な話をするから、部屋に戻ってなさい」
と言った。その後、ミュリィはコクリと頷いて食堂を出た。
そしてミュリィが出ていったのを確認すると、
(さて、何処から話すべきかな?)
と考えたが、
(うん、決めた)
と、意を決したかのような表情を浮かべて、
「……フン!」
と、右手から青いオーラを出した。
その後、周囲の人達が驚いた様子でその青いオーラを見つめると、
「僕は、小さい頃からこの『力』の所為で、色々と嫌な思いをしまして……」
と、水音は静かに自身の「過去」を語り始めた。
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