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第12章 集結、3人の「悪魔」
第340話 「妖刀」2
しおりを挟む妖刀・彼岸花。
それは、この世界に来てから今まで振るってきた分身である「赤刀・彼岸花」とは違う、正真正銘のオリジナル。
そして、春風が2年前の「あの日」に1度だけ振るった刀。
その後、師匠である凛依冴に返した筈のその刀が、今、自身の手に握られている。
(まさか、この世界に持ってきてたなんて……)
と、春風がそんなことを考えていた、その時、
「駄目だよ、ハルゥ!」
「駄目だ、春風ぁ!」
「っ!」
リアナと水音が、突然春風に「待った」をかけてきた。
「え、何? ふ、2人共、どしたの?」
と、春風があまりの出来事に混乱していると、
「ハルお願い! この剣を抜いちゃ駄目!」
「そうだよ! これは、絶対に抜いてはいけないものだよ!」
と、リアナと水音が、春風に「彼岸花を抜くな」と言ってきたのだ。よく見ると、2人の顔色は酷く真っ青で、まるで春風が手にしているオリジナルの彼岸花を恐れているみたいだった。
更に、
「……わ、私からもお願いします」
という声が聞こえたので、春風は声がした方向に視線を向けると、
「ヘリアテス様?」
そこには、リアナや水音と同じように顔を真っ青にし、ブルブルと体を震わせているヘリアテスがいた。そしてよく見ると、彼女の隣にいるループスも、同じように何かに怯えるように体を震わせていた。
「えっと、ヘリアテス様にループス様、一体どうしたんですか?」
と、春風が尋ねると、
「ごめんなさい春風さん。その剣なんですが、かなり危険なものを感じてしまいまして、出来れば抜かない方がいいと思うんです」
と、怯えた表情のヘリアテスがそう答えた。
春風はそんなヘリアテスを見て、
(ええ? 神様までそんなこと言うなんて……)
と、どうしたものかと考えていると、
「お、お前らぁ! 神を無視するなぁあああああっ!」
と、それまで存在を無視されていたガストが、怒鳴り散らしながら風の塊を何発もぶっ放してきた。
(んげ! あいつのことすっかり忘れてた!)
と、春風が驚いていると、
「させない!」
と、観客席から静流が飛び出して素早く春風達の前に立ち、手にした大剣を思いっきり振るうと、そこから発生した衝撃波で、ガストが放った風の塊を全て打ち消した。
目の前で起きた出来事に、
「な、何!? 打ち消しただと!?」
と、ガストが驚きの声をあげると、
「「ぶっ飛べ」」
と、今度は冬夜と雪花の2人が、ガストに向かってそれぞれ魔術を放った。
「くっ!」
しかし、ガストは間一髪のところでそれを回避し、お返しと言わんばかりに、2人にまた風の塊を放ったが、既に2人の姿はそこになく、いつの間にか春風の側に移動していたと知り、
「ちぃ! いつの間に……!」
と、ガストは盛大に舌打ちをした。
一方、冬夜達と合流した春風達はというと、
「春風、大丈夫?」
「う、うん。ありがとう、兄さん、姉さん、母さん」
「えへへ、どういたしまして」
「うふふ」
と、家族間で和んでいると、
「マリーちゃん」
と、真面目な表情になった冬夜が、凛依冴に向かって口を開いた。
「何? 冬夜博士」
「ここで、春風に彼岸花を渡したことについては、『お父さん』としては許せないけど……」
「……」
「マリーちゃんにとっては必要なことで、『春風ならきっと大丈夫』だって思っているからなんだよね?」
「……ええ。私も出来れば使ってほしくないって思ってます。ですが、春風ならきっと、彼岸花を本当の意味で使いこなせるとも思ってるんです。だから……」
と、凛依冴が最後まで言おうとしていたその時、冬夜がスッと右手をあげて「待った」をかけた。
そして、春風の方を向くと、
「春風。君なら、どうしたい?」
と、尋ねた。
「俺は……」
その問いに、春風はグッと彼岸花を握りしめながら考え込むと、まるで何かを決意したかのようにゆっくりと口を開く。
「……師匠、ヘリアテス様とループス様を頼んでいいですか?」
「ええ、わかったわ」
そう言うと、凛依冴は呆けているループスとヘリアテスを抱えて、ギルバート達がいる観客席へと戻った。
「は、ハル、何をする気なの?」
と、リアナが春風に尋ねると、
「……彼岸花を抜く」
と、春風は彼岸花を見つめながら、真剣な表情で答えた。
その言葉を聞いて、
「そ、そんな、駄目だはる……」
と、水音が春風を止めようとしたが、
「大丈夫。俺を信じてほしい」
と、真剣な表情を崩さずにそう返したので、水音はそれ以上何も言うことが出来なかった。それは、リアナ達も同様だった。
その後、春風は一歩一歩前に進んでガストの前に立つと、
「彼岸花、いくよ」
と、小さく呟いて、彼岸花を左手に持ち替えて、右手でその柄をグッと握った。
次の瞬間……。
ーードクンッ!
という心臓の音に似た音が、闘技場内全体に響きわたると……。
ーーシュルルルルル!
という音と共に、彼岸花の柄や鍔から、いくつもの金属の触手のようなものが伸びて、春風の右腕に絡みついた。
そして、
「グアアアアアアアッ!」
と、春風の悲鳴が響き渡った。
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