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第12章 集結、3人の「悪魔」
第312話 馬車内でのやり取り
しおりを挟む「邪神」ことループスが待っているという北の大地。
ギルバートから聞いた話では、そこにはかつて「最初の固有職保持者」こと「賢者」が生まれた国があった場所で、その「賢者」の暴走によって国が消滅してからは、誰一人そこに住む者はいなかくて、今は数多の魔物が棲む所となっているという。
そして現在、その北の大地に向かって、ウォーリス帝国からギルバートを含めた多数の騎士や兵士、魔術師達が旅立った。当然、その中には春風達「七色の綺羅星」や、水音や歩夢達「勇者」も含まれている。
彼らが乗る馬車の1つには、皇帝であるギルバートの他に、セイクリア王国第2王女であるイブリーヌと、ハンターであるリアナに、彼女の育ての親にしてループスと同じく真のエルードの神であるヘリアテス、そして春風が乗っていた。他と比べてとても大きく、且つ特別な馬車である為、中は結構広く、立派なものなのだが、乗っている肝心の本人達はというと、
『……』
何故か皆、もの凄く気まずそうにしていた。
原因はわかっている。
きっかけは出発前、春風と冬夜のやり取りは、ギルバートら皇族達を含めた仲間達に全て聞かれていたことだった。
あれから全員、春風の部屋に入って、
『すみませんでした』
と、やり取りを聞いてたことに対する謝罪をした。
それを聞いて、春風は最初顔を真っ赤にしたが、
「いえ、俺の方こそ、みっともない所を見せてしまって、すみませんでした」
と、こちらも頭を下げて謝罪した。
それから間もなくして、準備を終えた春風達はそれぞれの馬車に乗って帝都を旅立ったが、やはりやり取りを聞かれた気まずさからか、道中は特に会話することもなく、ただ重苦しい雰囲気に包まれた状態になったのだった。
そんな雰囲気の中、
「……なぁ、春風」
と、ギルバートが口を開いた。
「な、何でしょうか?」
名前を呼ばれて、春風がぎこちなくそう言うと、
「その、なんだ。お前は、『あの日』のことで、今も自分を許せないのか?」
と、ギルバートもぎこちなくそう尋ねた。
春風はその質問に対して、最初は答えるのを躊躇ったが、やがて意を決したように、
「……はい」
と、頷きながら答えた。
それを聞いて、リアナ、イブリーヌ、ヘリアテスが心配そうに春風を見つめた。
ギルバートは暫くの間、「うぅん……」と考え込んだが、
「ダァアッ! 駄目だ駄目だ! こんなんじゃ駄目だぁっ!」
と、噴火したように叫び出すと、その後すぐに春風を方を向いて、
「おい春風ぁ!」
「は、はいぃ!」
「お前は、最初は元の世界を救う為にこの世界に来たんだよなぁ!?」
と、勢いのままに問い詰めた。
それに驚いた春風は、
「は、はい、そうです!」
と、背筋をピンと伸ばして答えると、ギルバートは更に問い詰める。
「そして今、お前はこの世界のことも救おうと決めたんだよなぁ!?」
「は、はいぃ、そうです!」
「だったら、俺が言うことは1つだ!」
ギルバートはそう叫ぶと、春風の両肩をガシッと掴んで、
「お前は、1人じゃねぇ!」
と言い放った。
春風はそれを聞いて、
「……はい?」
と、頭上に「?」を浮かべると、ギルバートは更に続けて言う。
「2年前、お前は子供達を助ける為に、たった1人で的の本拠地に乗り込んだ」
「……はい」
「だが、今は違う。お前の側には、レギオンの仲間達や、お前に惚れた女達、そして俺や、俺の家族もいる。だから……」
ギルバートは春風の両肩を掴む力を強くして、
「お前だけじゃなく、俺達のことも信じろ。これは、命令だ」
と、真っ直ぐ春風を見てそう言った。
春風は最初ポカンとなったが、すぐに小さく「ハハ」と笑って、
「はい!」
と、ギルバートを真っ直ぐ見てそう返事した。
「おっしゃ! いい返事だ!」
ギルバートがそう言うと同時に、リアナ、イブリーヌ、ヘリアテスは緊張した表情から一転して、穏やかな笑みを浮かべた。
その時、
「陛下、もう間もなく到着します!」
という声が馬車の外から聞こえたので、
「あいよ!」
と、ギルバートはそう返事した。
すると、ギルバートは馬車の窓を開けて、
「おい、外を見てみろよ」
と、春風達に外の景色を見せた。
3人と1柱は窓から顔を出して、目の前に広がる景色を見た。
その後、春風はギルバートに尋ねる。
「陛下、あそこがそうなんですか?」
ギルバートはコクリと頷いて答える。
「そうだ。あそこが、『最初の固有職保持者』が生まれた国、その主要都市の跡地だ」
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