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第11章 断罪官の逆襲
第307話 ご褒美
しおりを挟む「ふぅ……」
その夜、春風は自室の窓から夜空を眺めながら、謁見の間でのことを思い出していた。
あれから春風は、ギルバートに自身の「考え」を伝えた。その結果、
「やれやれ、ホント甘いなお前は」
と、ギルバートに溜め息混じりに呆れられてしまったが、
「だがま、お前が「それ」で良いってんなら、俺からは特に何も言わねぇよ」
と納得してくれたので、春風はホッと胸を撫で下ろした。
その後、ギルバートから労いの言葉をもらうと、そのまま全員で食事をした。「お疲れ様」の意味が込められているのか、かなり豪勢な料理が並んでいたので、仲間達は大いに喜びながら食事を楽しみ、それが終わると、全員自分達の部屋へと戻り、現在に至る。
(ホント、今日は大変だったなぁ……)
と、夜空を眺めながらそんなことを考えていると、
「春風様」
「ん?」
不意に名前を呼ばれて、春風はその声がした方へと顔を向けると、机の上に置かれた零号【改】に目が入った。
そして零号【改】の画面が光ると、
「……ジゼルさん」
そこから若い女性ーー「零の精霊」となったジゼルが出てきた。
「どうかしたんですかジゼルさん?」
と、春風が尋ねると、ジゼルは春風に向かって、穏やかな笑みを浮かべて、
「春風様、今日はお疲れ様です」
と、労いの言葉をかけた。
それを聞いた春風は、少し恥ずかしそうに、
「あ、ありがとうございます」
と、返したので、ジゼルは「フフ」と小さく笑った。
それから春風とジゼルは少しの間沈黙していると、春風が先に口を開いた。
「えっと、用件はそれだけでしょうか?」
春風は恐る恐るそう尋ねると、
「あら、まさかあれだけだと本気で思っているのですか?」
と、ジゼルは若干拗ねるような感じでそう尋ね返したので、
「あ、いえ、なんと言いますかそのぉ……」
と、春風は慌てて何か言おうとしたが、上手く言葉に出来ず、
「すいません、言葉が上手く出ませんでした」
と、春風は深々と頭を下げて謝罪した。
ジゼルはそれを見て、更に「フフ」と笑うと、
「ごめんなさい、冗談です」
と、ジゼルも春風に向かってそう謝罪した。
それを聞いて、春風は「もう」と顔を赤くしたが、すぐに真面目な表情になって、口を開く。
「……あの、ジゼルさん」
「何ですか?」
「……今日のウォーレンさんとの戦い、ジゼルさんはどう思ってますか?」
「どう、とは?」
「いや、そのぉ、今更こんなことを聞くのもおかしいかもしれませんけど……今回の戦い、俺はウォーレンさんを殺さなかったどころか、『助ける』って思いっきり言っちゃいましたから、相手が……」
と、春風が最後まで言おうとしたその時、ジゼルはスッと右手を差し出して、春風に「待った」をかけた。
「じ、ジゼルさん?」
少し驚いた春風に、ジゼルは穏やかな笑みで言う。
「大丈夫ですよ春風様、わかっております」
「え?」
「確かに、あの男は私と、私の家族を殺した男です」
「でしたら……」
「ですが、前にも言いましたよね? 『人を幸せにする為に頑張ることが出来るあなたの手を、血で汚してほしくない』と」
「……はい」
「そして今日、春風様は初めてあの男と戦った時と同じように、『殺さない』ことを選びました。それは、私にとって凄く嬉しいことです」
「ジゼルさん……」
「ですから、今日はそんな春風様に、私から『ご褒美』があるのですよ」
「……え?」
ジゼルの言葉に、春風はキョトンと首を傾げると、ジゼルは両目を閉じて意識を集中し出した。
すると、ジゼル体が一瞬光ったが、すぐにその光は消えた。
そしてジゼルは両目を開けると、両手で春風の右手を掴んだ。
「……あ!」
と、春風が小さく驚きの声をあげると、ジゼルはニコリと笑って、
「ご覧の通り、こうして『実体化』が出来るようになりました」
と言ったので、春風は思わず、
「す、凄いよジゼルさん!」
と、満面の笑みでジゼルの手を掴んだが、すぐにハッと我に返って大慌てで手を離そうとすると、
「春風様……」
「え?」
ーーチュ。
ジゼルは、春風の額にキスをした。
突然のことに春風は呆然となっていると、
「今はまだ、これだけです」
と、ジゼルは顔を赤くしながら、笑顔でそう言った。
春風は再びハッと我に返って、
「ちょ、ジゼルさん!? いきなり何を!?」
と、ジゼルに問い詰めると、
「あら、もっとしてほしかったのですか?」
と言って、ジゼルは再び顔を近づけてきた。
するとその時、
『ストーップッ!』
と、勢いよく自室の扉が開かれたと同時にそう叫ぶ声がしたので、春風とジゼルは「何だ?」と扉の方を見ると、そこにはリアナ、歩夢、凛依冴、そしてイブリーヌがいた。
因みに、その横には顔をひょっこりと出したルーシーの姿もあった。
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