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第11章 断罪官の逆襲
第282話 決戦、断罪官15 アリシア、「過去」との戦い5
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アリシアの刀「桜吹雪」による斬撃を受けて吹っ飛ばされたユリウス。そのダメージが大きいのか体は動かなかったが、目だけは開いていた。
そんなユリウスのもとに、いくつかの足音が近づいてくる。
ユリウスはどうにか首を動かして、その足音の正体を確かめると、近づいてきてるのは、アリシア達だった。
「ユリウス小隊長」
アリシアはユリウスのすぐ側まで近づくと、悲しそうな表情でその名を呼んだ。そんな彼女を見て、ユリウスは口を開く。
「トドメをさしなさいアリシア。今の私には、もう抵抗する気力もないわ」
と、弱々しくそう言うと、ユリウスは静かに目を閉じた。
アリシアはそんなユリウスに近づくと、彼の上体を起こして……。
ーーパァンッ!
「……え?」
その頬に思いっきりビンタをした。
「あ、アリシア?」
突然のことに呆けた表情をするユリウスに、アリシアは尋ねる。
「ユリウス小隊長、あなたわざと一撃を受けましたね?」
「……!」
「最初から死ぬつもりで、わざと一撃を受けたんですよね!?」
「……ええ、そうよ」
「どうして!?」
「……それが、あなたへの『償い』になると思ったからよ」
「償いって何ですか!? 私の故郷を、家族を殺したことに対するですか!?」
「……」
問い詰めるアリシアに対し、最後は無言になるユリウス。その態度を見て、アリシアは怒りを爆発させた。
「ふざけるなぁ! そんなことで、私の、私達の気が晴れるわけないでしょ! 今日私が戦場に立ったのは、あなたにそんなことをさせる為じゃない! あの一撃だって、最初からあなたを殺す為に放ったんじゃないんだから!」
そう叫んだアリシアの両目から、大粒の涙が溢れた。
そんなアリシアを見て、ユリウスは一瞬「え?」となったが、すぐに我に返って、
「ああ、やっぱり。あれ食らった時、全然殺意を感じなかったから……」
と、納得したかのようにそう言ったが、最後まで言おうとしたその時、ガバッとアリシアに抱きつかれた。
「アイタタタタタタタァ! ちょ、痛い、マジで痛いからぁ!」
ダメージを受けていた為、ユリウスはかなり痛そうにそう叫んだが、
「我慢しなさい、男でしょ!?」
と、抱きついてきたアリシアに怒鳴られて、
「あ、ハイ」
と、ユリウスはあっさりと返事した。
その後、アリシアは抱き締める力を強めると、
「私達に償いたいなら、生きてください」
と、声を震わせてそう言った。
その言葉に、ユリウスは「それは……」と何か言おうとしたが、アリシアはそれを遮って更に話を続ける。
「ユリウス小隊長、私は……」
「?」
「あなたの隊に配属になった時、あなたのこと『随分と個性的なんだな』って思ってました」
「まぁ、これが私っていう人間だからね」
「でも、真剣に任務をこなすあなたの姿を見て、凄く『綺麗だ』って惚れてしまいました」
「え、そうなの?」
「はい。その後、任務を終えるごとに精神をすり減らしてきた私を、何度も励ましてくれたうちに……」
「?」
「……あなたのことが、好きになってしまったんです」
アリシアの言葉を聞いて、ユリウスだけでなく周りまでもが、
「……え?」
となったが、すぐにユリウスはハッとなって、
「いやいやいや、あなた何を言ってるの!? それ、本気で言ってるの!?」
と、大慌てでアリシアを問い詰めた。
すると、
「本気で言ってるに決まってるでしょ!」
と、アリシアにそう返された。
「だ、駄目よ私なんて! 任務とはいえ、私何人も人を殺してきた人間よ!?」
「そんなの、私だって一緒です!」
「それだけじゃないわ! 言いたくはなかったけど、私は断罪官になる前は、生きる為に何人もの女を抱いて、何人もの男に抱かれた汚らわしい人間なのよ!?」
「そんなの、私が綺麗にすれば問題ありません!」
そう即答したアリシアを見て、周囲が「えぇ?」とドン引きしたが、それに構わずアリシアは更に話を続ける。
「小隊長、本気で私達に償いをしたいなら、ここで死ぬなんて絶対に嫌です。それならせめて、私の為に生きてください。お願いですから」
そう言って、アリシアはユリウスを抱き締める腕の力を更に強くした。
「アリシア、私は……」
と、ユリウスが何か言おうとした、まさにその時、
『ちょっと失礼』
と、フィオナ、アデル、ケイト、クレイグ、ルーシーがユリウスの側に近づいて……。
ーービシッ!
「あいたぁ!」
と、5人はユリウスの頭に思いっきりチョップをかました。
「え、な、ええ?」
ユリウスはチョップを受けた頭を押さえて、頭上に「?」を浮かべていると、フィオナが前に出て、
「これで、私達から故郷を、家族を奪ったことに関しては勘弁してあげます。その代わり……」
「?」
「全力で姉さんを幸せにしてください。でないと、もっと酷い目に合わせますから」
と言い放ったフィオナを見て、ユリウスはグッと唇を噛み締めると、アリシアの方を向いて、
「アリシア……」
「?」
ゆっくりと両腕を動かし、アリシアを抱き締めると、
「私も、大好きよアリシア。愛してる」
と、震えた声でそう言った。
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