ユニーク賢者の異世界大冒険

ハヤテ

文字の大きさ
上 下
311 / 608
第11章 断罪官の逆襲

第282話 決戦、断罪官15 アリシア、「過去」との戦い5

しおりを挟む

 (ああ、負けちゃったな)

 アリシアの刀「桜吹雪」による斬撃を受けて吹っ飛ばされたユリウス。そのダメージが大きいのか体は動かなかったが、目だけは開いていた。

 そんなユリウスのもとに、いくつかの足音が近づいてくる。

 ユリウスはどうにか首を動かして、その足音の正体を確かめると、近づいてきてるのは、アリシア達だった。

 「ユリウス小隊長」

 アリシアはユリウスのすぐ側まで近づくと、悲しそうな表情でその名を呼んだ。そんな彼女を見て、ユリウスは口を開く。

 「トドメをさしなさいアリシア。今の私には、もう抵抗する気力もないわ」

 と、弱々しくそう言うと、ユリウスは静かに目を閉じた。

 アリシアはそんなユリウスに近づくと、彼の上体を起こして……。

 ーーパァンッ!

 「……え?」

 その頬に思いっきりビンタをした。

 「あ、アリシア?」

 突然のことに呆けた表情をするユリウスに、アリシアは尋ねる。

 「ユリウス小隊長、あなた一撃を受けましたね?」

 「……!」

 「最初から死ぬつもりで、わざと一撃を受けたんですよね!?」

 「……ええ、そうよ」

 「どうして!?」

 「……それが、あなたへの『償い』になると思ったからよ」

 「償いって何ですか!? 私の故郷を、家族を殺したことに対するですか!?」

 「……」

 問い詰めるアリシアに対し、最後は無言になるユリウス。その態度を見て、アリシアは怒りを爆発させた。

 「ふざけるなぁ! そんなことで、私の、私達の気が晴れるわけないでしょ! 今日私が戦場ここに立ったのは、あなたにそんなことをさせる為じゃない! あの一撃だって、最初からあなたを殺す為に放ったんじゃないんだから!」

 そう叫んだアリシアの両目から、大粒の涙が溢れた。

 そんなアリシアを見て、ユリウスは一瞬「え?」となったが、すぐに我に返って、

 「ああ、やっぱり。あれ食らった時、全然殺意を感じなかったから……」

 と、納得したかのようにそう言ったが、最後まで言おうとしたその時、ガバッとアリシアに抱きつかれた。
 
 「アイタタタタタタタァ! ちょ、痛い、マジで痛いからぁ!」

 ダメージを受けていた為、ユリウスはかなり痛そうにそう叫んだが、

 「我慢しなさい、男でしょ!?」

 と、抱きついてきたアリシアに怒鳴られて、

 「あ、ハイ」

 と、ユリウスはあっさりと返事した。

 その後、アリシアは抱き締める力を強めると、

 「私達に償いたいなら、生きてください」

 と、声を震わせてそう言った。

 その言葉に、ユリウスは「それは……」と何か言おうとしたが、アリシアはそれを遮って更に話を続ける。

 「ユリウス小隊長、私は……」

 「?」

 「あなたの隊に配属になった時、あなたのこと『随分と個性的なんだな』って思ってました」

 「まぁ、これが私っていう人間だからね」

 「でも、真剣に任務をこなすあなたの姿を見て、凄く『綺麗だ』って惚れてしまいました」

 「え、そうなの?」

 「はい。その後、任務を終えるごとに精神をすり減らしてきた私を、何度も励ましてくれたうちに……」

 「?」

 「……あなたのことが、好きになってしまったんです」

 アリシアの言葉を聞いて、ユリウスだけでなく周りまでもが、

 「……え?」

 となったが、すぐにユリウスはハッとなって、

 「いやいやいや、あなた何を言ってるの!? それ、本気で言ってるの!?」

 と、大慌てでアリシアを問い詰めた。

 すると、

 「本気で言ってるに決まってるでしょ!」

 と、アリシアにそう返された。

 「だ、駄目よ私なんて! 任務とはいえ、私何人も人を殺してきた人間よ!?」

 「そんなの、私だって一緒です!」

 「それだけじゃないわ! 言いたくはなかったけど、私は断罪官になる前は、生きる為に何人もの女を抱いて、何人もの男に抱かれた汚らわしい人間なのよ!?」

 「そんなの、私が綺麗にすれば問題ありません!」

 そう即答したアリシアを見て、周囲が「えぇ?」とドン引きしたが、それに構わずアリシアは更に話を続ける。

 「小隊長、本気で私達に償いをしたいなら、ここで死ぬなんて絶対に嫌です。それならせめて、私の為に生きてください。お願いですから」

 そう言って、アリシアはユリウスを抱き締める腕の力を更に強くした。

 「アリシア、私は……」

 と、ユリウスが何か言おうとした、まさにその時、

 『ちょっと失礼』

 と、フィオナ、アデル、ケイト、クレイグ、ルーシーがユリウスの側に近づいて……。

 ーービシッ!

 「あいたぁ!」

 と、5人はユリウスの頭に思いっきりチョップをかました。

 「え、な、ええ?」

 ユリウスはチョップを受けた頭を押さえて、頭上に「?」を浮かべていると、フィオナが前に出て、

 「これで、私達から故郷を、家族を奪ったことに関しては勘弁してあげます。その代わり……」

 「?」

 「全力で姉さんを幸せにしてください。でないと、もっと酷い目に合わせますから」

 と言い放ったフィオナを見て、ユリウスはグッと唇を噛み締めると、アリシアの方を向いて、

 「アリシア……」

 「?」

 ゆっくりと両腕を動かし、アリシアを抱き締めると、

 「私も、大好きよアリシア。愛してる」

 と、震えた声でそう言った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

不死殺しのイドラ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:12

【完結】君のために生きる時間

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,121pt お気に入り:685

10

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:1

[完結] 残念令嬢と渾名の公爵令嬢は出奔して冒険者となる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:34,991pt お気に入り:605

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14,511pt お気に入り:1,550

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:319pt お気に入り:1,591

おいてけぼりΩは巣作りしたい〜αとΩのすれ違い政略結婚〜

BL / 完結 24h.ポイント:20,612pt お気に入り:2,687

流刑地公爵妻の魔法改革~ハズレ光属性だけど前世知識でお役立ち~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,260pt お気に入り:4,303

私達の愛の行方

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,131pt お気に入り:5,470

処理中です...