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第9章 出会い、波乱、そして……
第206話 アデレード、「弟子」になる
しおりを挟むそれは、朝食が終わった時のことだった。
「は? 私の弟子になりたいって?」
「はい! その通りです!」
ポカンとした表情の凛依冴に、アデレードは頭を下げてそう言った。
「えーと、何で私に?」
凛依冴が頬を引き攣らせてそう尋ねると、
「勿論、春風君ともう一度戦い、勝つ為です! その為に、彼の師匠であるあなたの弟子になりたいのです!」
と、アデレードは全く恥ずかしがる様子もなく、なんとも単純かつ明確な理由を述べた。
「……因みに、昨日春風に負けてどう思ったの?」
「そんなの、悔しいに決まってるじゃないですか! 女神マールを潰したのと同じ技だというのはちょっとだけ嬉しいですが!」
最後の部分を聞いて、凛依冴だけでなく周りの人達も「えぇ?」と若干引いたが、凛依冴は少し考え込んで、
「……わかったわ。取り敢えず、まずはあなたの力を見せてちょうだい」
「はい! わかりました!」
そんな訳で、凛依冴とアデレードは訓練場で「模擬試合」という名の腕試しをすることになり、結果、凛依冴が勝利し、アデレードは弟子となったのだ。
そして現在、
「なるほど、大体わかりました……って、なんじゃそりゃあ! 何その意味不明な展開はぁ!?」
と、全ての事情を聞いた春風のノリ突っ込みが炸裂した。
それを聞いて、凛依冴も「まぁそうなるわな」とうんうん頷くと、
「まぁ、そんなわけで、彼女も私の弟子になったから」
と、「勘弁してよ」と言わんばかりの困った笑顔でそう言った。
春風はそれを見て「ハァ」と溜め息を吐くと、
「わかりました。それで、実際彼女と戦ってみてどうでした?」
と、凛依冴に尋ねた。
「全然駄目ね」
即答だった。
「グハッ!」
凛依冴の隣にいるアデレードはダメージを受けた。
春風はそれを見て、
「え、ちょ、師匠?」
と驚いたが、
「まず基礎が出来てない」
「フグッ!?」
「師匠!?」
凛依冴は止まらなかった。
その後も、
「ステータスやスキルに頼りすぎ」
「ブフォッ!」
「ちょっと……」
「昨日の戦いでも思ったけど……武器の扱いがなってない」
「フゴォ!?」
「師匠?」
「なんていうか、武器とスキルに振り回されてる?」
「グフゥ!」
「師匠!」
「これは私の主観だけど……戦い方に品がない」
「グハフッ!」
「師匠ってば!」
「後は……うん、『ヒャッハー』うるさい」
「アヒュン……」
「もうやめたげて師匠! アーデさんが精神的に死んじゃう!」
とまぁ、そんなやり取りの末、言いたいことを言ってスッキリした凛依冴と、それを見てあわあわする春風。そして言われ放題のアデレードはというと、凛依冴の隣で立ったまま真っ白になっていた。因みによく見ると、彼女の口から魂の様なものが出ていた。
(ていうか、ここまでダメ出しされてる彼女に昨日勝った俺って一体……)
そう思った春風は、心の中で泣きたくなり、
(うん。もっと自分を鍛えなくては!)
と、心の中でそう決意した。
「というわけで、彼女はこれから私が鍛え直すということで、弟子にしたってわけよ」
満面の笑みでそう話す凛依冴を見て、春風は「ハハハ」と乾いた笑いをこぼすと、すぐに「コホン」と咳き込んでアデレードの方を見て、
「あの、アーデさん」
と話しかけた。
「は! な、なんだい春風君!?」
春風に声をかけられて、ハッとなったアデレード。そんな彼女に、春風は困った様な笑みを浮かべると、
「改めて、よろしくお願いします」
と言って、スッと右手を差し出した。
アデレードはそれを見て、
「ああ、こちらこそよろしく!」
と言うと、差し出されたその手を握った。
それを見た凛依冴はうんうんと首を縦に振ると、
「あれ? ところで春風、何をしにここへ来たの? 訓練を受けに来たってわけじゃないよね?」
と、今になって漸く春風が訓練場に来た理由を尋ねた。
「ああ、実は、ちょっと人を探しに来たのですが……」
ハッとなった春風は、そう答えて辺りをキョロキョロと見回そうとした時、
「……あ」
「……や、やぁ、ハルッち」
目の前に目的の人物ーー恵樹を見つけた。
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