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第9章 出会い、波乱、そして……
第205話 訓練場内にて
しおりを挟む「はあああ、参ったなぁあああああ……」
昨夜の恵樹との一件から翌日。
あれから春風と恵樹の間には、とても重苦しい空気が漂っていた。顔を合わせても、お互い気まずいのか軽く挨拶を交わして、そそくさとその場を立ち去ってしまうのだ。
(うう、すっごい気まずい。でも、駄目だ、いつまでもこんなんじゃよくないよな)
そう考えた春風は、恵樹とキチンと話をしようと、彼がいるという帝城の訓練場に向かった。
だが、
(あれ? 何か人が凄い集まってるぞ?)
訓練場に着くと、そこには多勢の帝国兵が集まっていた。
「あのぉすみません、何かあったのですか?」
と、春風は帝国兵の1人に尋ねると、
「ああ、アレだよ」
「アレ?」
そう言われて、春風は帝国兵の1人が指差した方を見ると、そこにいたのは、
「へ? 師匠と、アーデさん?」
凛依冴とアデレードだった。
2人は訓練場の中央でお互い向き合っていたが、よく見るとアデレードは訓練用の木剣を構えているのに対し、凛依冴は何も持っていなかった。
そんな2人を見て、帝国兵達がゴクリと固唾を飲む中、2の間に1人の帝国騎士が立って、
「両者、始め!」
と叫んだ。
次の瞬間、木剣を構えたアデレードが、凛依冴に向かって突撃した。
素早く凛依冴の懐に入ったアデレード。
対して、凛依冴は真っ直ぐアデレードを見つめたまま一歩も動こうともしなかった。
そして、アデレードは凛依冴に向かって木剣を振るった。
だが、
「フッ!」
「な!?」
凛依冴は落ち着いた表情で、その攻撃を軽くいなすと、その勢いのままアデレードを背負い投げした。
「グハッ!」
背中に強烈なダメージを受けたアデレード。
しかし、その後すぐに立ち上がって凛依冴から距離をとり、再び木剣を構えた。
凛依冴はそんなアデレードを見て不敵な笑みを浮かべると、右手をクイックイと動かしてアデレードを挑発した。
その態度にアデレードはカチンときたのか、再び凛依冴に向かって突撃した。
しかし、その後どれだけ攻撃を繰り出しても、凛依冴はそれら全てを軽くいなし、その隙をついて反撃した。
(す、凄い……)
と、春風がそう感心する中、何度も何度も反撃によるダメージを受け続けたアデレードは、次第に冷静さを失い、やがて持っていた木剣に魔力を込め始めた。
(おいおい、嘘だろ!?)
どうやら何か大技を繰り出すつもりだと、春風を含めた周囲の人達はそう感じた。
そして、アデレードが大技を出す準備を終えたその時、
「遅い!」
「!?」
素早くアデレードの懐に入った凛依冴が、彼女の腹に渾身の掌底を放った。
「グアッ!」
まともにくらったアデレードは思いっきり吹っ飛ばされ、背後の壁に激突した。
「ガハァ!」
大ダメージを受けたアデレードは、そのままズルズルと床にへたり込んだ。
「まだ続ける?」
へたり込むアデレードに、凛依冴がそう尋ねると、
「……いえ、参りました」
と言って、アデレードは自身の負けを認めた。
審判役の帝国騎士がそれを確認すると、
「勝者、凛依冴殿!」
と、声高々にそう叫び、それに続く様に周囲の帝国兵達が「ワアアアアア!」と歓声をあげた。
凛依冴はその後へたり込んでいるアデレードに近づいて、
「立てる?」
とその手を差し出した。
アデレードはそれを見て、最初は「ム……」と唸ったが、すぐに表情を切り替えてその手をとって凛依冴に立たせてもらった。
春風はそんな2人の姿を見て、
(ああ、やっぱり師匠は凄いなぁ)
と感心していると、
「あ! おーい、春風ぁー!」
と、春風に気づいた凛依冴が、春風に向かって腕を大きく振るった。
それを見た春風は、
「返事をしなくては」
と思って自分も腕を振ろうとすると、
「今日からこの子も弟子にするからぁ!」
と、凛依冴はアデレードの腕を高く上げてそう言った。
(……ハ?)
凛依冴のその言葉を聞いて、春風だけでなく周りの帝国兵達も数秒ほど沈黙していると、
「ハァアアアアアアアッ!?」
と、春風は驚きの声をあげるのだった。
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