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第9章 出会い、波乱、そして……
第194話 春風とイブリーヌ・3
しおりを挟むオズワルドから裏スキルについての話を聞いた翌日、春風はいつものように仲間達に魔術を教えていた。
だが、
(『闇のスキル』、か……)
春風の心の中は、昨夜からずっと沈んでいたが、みんなに心配をかけては駄目だと思い、なるべく表情には出さないようにしていた。
そんな時、
「あの、ハル様」
(ん?)
不意に自分の名を呼ぶ声がしたので、春風はすぐにその方向を見ると、そこには心配そうに春風を見つめるイブリーヌがいた。
何故、イブリーヌが春風の呼び方を「春風様」から「ハル様」に変えたのか?
それは、数日前のこと。
「え、イブリーヌ様も俺に魔術を教わりたいのですか?」
「はい。わたくしも、どうしても強くなりたいのです」
「俺、固有職保持者ですよ?」
「他の方達には教えるというのに、わたくしは仲間外れですか?」
目をウルウルとさせてそう尋ねるイブリーヌを見て、春風は助けを求める様に周囲を見回すと、その場にいる全員が、
『教えてあげなよ』
と言わんばかりの表情をしていた為、春風は「ハァ」と溜め息を吐いて、
「わかりました。では、あなたにも教えます」
と言うと、イブリーヌはパァと表情を明るくして、
「ありがとうございます、お師匠様!」
「おっ!?」
いきなり「師匠」と呼ばれた春風は、ギョッとなって可笑しな返事をした。
その後、すぐにハッとなって「コホン」と咳き込むと、イブリーヌに尋ねた。
「あの、イブリーヌ様? 『お師匠様』って、俺のことですか?」
「はい! 春風様はわたくしに魔術を教えてくださる方、言うなれば『師匠』なのです。ですから、『お師匠様』なのです!」
元気良くそう答えたイブリーヌの言葉に、春風は一瞬目眩がしたが、すぐに持ち直して、
「いやいやいや、やめてくださいよ! 俺には『師匠』と呼ぶ人がいるんですよ! その『師匠』を差し置いて、俺が『師匠』と呼ばれるとか勘弁してほしいのですが!」
「え、そうなのですか? うーん、では、『春風先生』で!」
「ですからやめてください! 俺、ていうか俺達には『先生』と呼ぶ人がいるんですよ!」
「駄目ですか? では、『春風兄様』で!」
「もっとやめてください! 俺、クラリッサ様に、あなたのお姉様に殺されてしまいます!」
必死にやめさせようとする春風に、イブリーヌが「むぅ」と頬を膨らませると、
「あ、でしたら、間をとって『ハル様』なんてどうですか?」
と、右手をバッとあげた恵樹が、そう提案してきた。
「おいコラ、ケータ! なんで君が提案してくるかな!? そして、その呼び方の何処が『間をとって』なのかな!?」
怒った春風が恵樹にそう文句を言うと、
「それです! それを採用します!」
と、イブリーヌがまさかの採用をした。
春風は何か言わなきゃとイブリーヌを見たが、既にかなり目をキラキラさせていたので、
「……もう、『ハル様』で良いです」
「ありがとうございます! ではハル様、よろしくお願いします!」
こうして、イブリーヌも加わることになったのだ。
そして現在、
「何ですか、イブリーヌ様?」
「あの、何だか凄くお元気がなさそうなのですが、どうかしたのですか?」
心配そうな顔でそう尋ねてきたイブリーヌ。
それを聞いて春風は、
(しまった! 表情に出ていたか!)
と考えると、
「なんでもありませんよ。ただ、ちょっと寝不足なだけです」
と、優しく微笑んでそう答えた。
その後、イブリーヌにみんなの所に戻るよう促すと、イブリーヌはそそくさと戻っていった。
(ふぅ。危ない危ない)
そう思った後、春風は額の汗を拭う仕草をして、イブリーヌと同じ様にみんなの所に向かうと、
「おーい、春風ぁ」
と、自身の名を呼ぶ声がして、春風はすぐにその方向を向くと、
「エドマンド様?」
そこにはエドマンドがいた。
「そうしたんですか、エドマンド様?」
と、春風が尋ねると、
「父上が『謁見の間』に来てほしいって言ってる」
「謁見の間に、ですか?」
「そうだ」
エドマンドの言葉を聞いて、春風が「なんの用ですか?」と尋ねると、
「お前に、客が来ているんだ」
と、エドマンドはそう答えた。
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