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第8章 友との決闘
第146話 皇妃エリノーラ
しおりを挟む「ねぇ、今あの人何て言ったのかなぁ?」
「ごめん、俺もよくわかんない」
『……』
目の前にいるギルバートの妻だという女性の放った言葉を、春風達は理解できないでいた。
しかし、そんな彼らを他所に、
「え、えっと、ただいま、エリー」
と、ギルバートはオロオロしながら目の前にいる妻をニックネームで呼ぶと、
「黙れよ、豚が」
と、妻ーーエリノーラは穏やかな笑顔でそう返し、ギルバートとレイモンドの顔面をガシッと鷲掴みし、そして、
「「うぎゃあああああああっ!」」
ギュウっと握りつぶす勢いで力を込めた。
「痛い痛い痛い! は、離してくれエリー!」
「離すわけないでしょ?」
「は、母上! 何故私まで!?」
「豚を止められなかったからですよ、この愚息」
と、笑みを崩さずにそう答えたエリノーラは、2人の顔面を掴む両手に更に力を込めた。
「「ぐぎゃあああああああ! 痛い痛い痛い!」」
とても痛そうに悲鳴をあげる2人を見て、春風達は恐怖のあまり一箇所に集まって震えていたが、
「「でも、気持ちいい」」
『!?』
と、2人の口からとんでもないセリフが出てきたので、ショックでその震えは直ぐに止まった。
春風達が暫くの間固まっていると、
「あ、そうそうエリー!」
と、ギルバートは何かを思い出したかのように叫んだ。
「あら、何かしら豚」
「今日はな、お前に『お土産』があるんだよ!」
「お土産?」
「そうそう、あっちに!」
そう言って、ある方向を指差したギルバート。エリノーラが「?」とその方向に視線を移すと、そこにいたのは、
「……俺?」
春風だった。
「……あら?」
と、何かに気付いたエリノーラは、それまで掴んでいたギルバートとレイモンドをポイッと乱暴に放り投げると、素早く春風の側に近づいた。
「あ、あの……」
突然近づいてきたエリノーラに、春風は一歩後ずさると、
「あなた、もしかして幸村春風?」
と、エリノーラは春風に顔を近づけて尋ねた。
春風は「はい、そうです」と震えた声でそう答えると、
「……か」
「?」
「可愛いいいいい!」
なんと、エリノーラは先程以上の笑みで春風に抱きついたのだ。
「むぎゅ! え、あの、何ですか!?」
思わぬ事態に混乱する春風。そんな春風にエリノーラは、
「何何、何なのこの可愛さ! 水音ちゃんから聞いていたけど、こんなに可愛いのに男の子なんて有り得ないでしょ!? どう見ても可愛い女の子じゃないの!」
と、春風を抱きしめたままそう叫んだ。
「ちょ、あの、苦しいんですけど」
ギュウっと抱きしめられて苦しそうにする春風を見て、
「! だ、駄目ですエリノーラ様! それ以上はいけません!」
と、ハッとなったイブリーヌが助けに入った。
その声に気付いたエリノーラは「ん?」とイブリーヌを見ると、
「あら、イブリんちゃんじゃない、久しぶりねぇ!」
と、ギルバートと同じ様にイブリーヌをニックネームで呼んだ。
イブリーヌは顔を真っ赤にして、
「そ、その呼び方はやめてください!」
と叫んだが、
「嫌よ、可愛いじゃない」
と、満面の笑みで返されて、イブリーヌは更に顔を赤くした。
あまりの出来事に周囲の人達が呆然とする中、エリノーラは抱きしめていた春風を解放すると、未だに地面に突っ伏してピクピクしているギルバートに向かって、
「なるほど、素晴らしいお土産でしたわ」
と、やはり笑顔でそう言った。
「そ、そうか。喜んでもらえてなによりだよ」
と、ギルバートは親指を立ててホッとすると、
「それじゃあ、レイモンドと共にお仕置きは『75パーセント殺し』ね!」
エリノーラは満面の笑みを崩さずそう言った。
「え、ちょっと待て! ここはお仕置きは免除と言う所だろ!?」
ギルバートは顔を上げてエリノーラに抗議したが、
「それはそれ、これはこれよ?」
「「そ、そんな!」」
あっさり返されたので、ギルバートとレイモンドは絶望の表情を浮かべた。
その後、エリノーラは2人の首根っこを掴んで、
「それじゃあ春風ちゃんにイブリんちゃん、私はこれらをちょっとお仕置きしてきますから、先に謁見の間で待っててね。騎士の皆さん、案内お願いね」
『ハッ!』
そう命令したエリノーラは2人の首根っこを掴んだまま、帝城の中へと消えた。
その際、
「嫌だぁあああああああ! 許してくれぇええええええ!」
「は、母上ぇえええええええ! 許してくださいいいいいいい!」
と2人の悲鳴をあげていたが、残念な事に春風達にその悲鳴を聞く余裕はなかった。
残された春風達は、
『……な、何なの?』
と、暫く呆然とした後、騎士達に案内されて、帝城の中へと入った。
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