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第5章 対決、断罪官
第67話 森の隠れ家
しおりを挟む(も、『元・断罪官』だって!?)
自身をそう名乗った女性、アリシアに対して、春風は驚きを隠せないでいた。
そんな春風に、アリシアは落ち着いた表情で話を続ける。
「君が驚くのも無理はない。なにせ、断罪官を辞めた人間がいるなんて話を、聞いたことが無いのだろう?」
「……ええ。そもそも、『断罪官』なんてもの自体の存在も、昨日知ったばかりなんです」
「そうなのか? 君は随分と世間を知らないみたいだな」
「……何気に酷いこと言ってませんか?」
アリシアの物言いに、春風は少しムッとなった。それに気づいたアリシアは、
「ああ、気を悪くしたならすまない」
と、慌てて春風に謝罪した。
その後、アリシアはコホンと咳き込むと、再び落ち着いた表情になって口を開く。
「話を戻そう。君がここに来た目的は、シャーサルに現れた泥棒を捕まえる為だったね?」
アリシアの質問に、春風も落ち着いた表情で答える。
「はい。何か知ってることがありましたら、教えて欲しいのですが」
すると、アリシアは表情を暗くして、
「……申し訳ないが、私からは何も話すことは無い。それ以上に……君をこのまま帰すわけにはいかない」
次の瞬間、少年少女達が一斉に春風を囲んだ。
(うわぁ、こりゃ面倒なことになってきたぞぉ)
心の中でそんな事を呟く春風は、彼岸花を鞘に収めると、
「わかりました。抵抗はしませんよ」
と、両手を上げて観念した感じの態度で言った。
「……すまない」
その様子に、アリシアは申し訳なさそうに再び謝罪した。
その後、春風はアリシア達に連行される形で森の中を進んだ。
「さぁ、着いたぞ」
暫く進むと、そこには今にも崩れそうな感じのボロい木造の小屋があった。
「ただいま、みんな」
アリシアがそう言うと、小屋の出入り口から3人の子供達が飛び出して来た。
『おかえり、アリシアねーちゃん!』
子供達はそう叫ぶと、全員アリシアに飛びついた。
その後すぐに、
「おかえりなさい姉さん」
と、子供達の背後から、長い茶髪を後ろで1つに纏めた少女が出て来た。見たところ、春風より少し年下の様だった。
「ただいま、フィオナ」
アリシアは少女にそう返すと、子供達の頭を「よしよし」と優しく撫でて、
「今日はみんなに会わせたい人を連れて来たんだ」
と言って、背後の春風の方を振り向いた。
「やぁ。一昨日ぶり」
春風は手を振りながらぎこちない笑みで言うと、子供達は一斉に春風を見て、
『あっ! 空飛ぶおねーちゃんっ!』
と、思い出した様に叫んだ。
子供達のその言葉に、春風はピシッとなって、
「俺は男だっ!」
と、思わず怒鳴った。
それを聞いて、アリシアと少年少女達は、
『え? 嘘だろ?』
と言わんばかりの表情になった。
すると、子供達の1人であるちょっと太った少年が、
「ホントにおねーちゃんじゃないの?」
と質問してきたので、
「そうだよ。こんな顔してるけど、れっきとした男だよ」
と、春風は優しくそう答えた。
次の瞬間、今度は髪を三つ編みにした少女が、
「じゃあ、おねにーちゃんだ!」
なって事を言ったので、春風はまた思わず、
「何故!?」
と、少女の方を向いて尋ねると、少女は明るい笑顔で、
「だって、おねーちゃんみたいなきれーな顔してるから!」
と答えた。
それを聞いたアリシア達は、
『た、確かに!』
と言わんばかりの、納得した表情をした。
「おいコラそこぉ! 何みんなで納得してるんだ!?」
春風がそう怒鳴りながら尋ねた、まさにその時、頭の中で声がした。
「新タナ称号ノ入手ヲ確認。称号[おねにーちゃん]ヲ入手シマシタ」
その声を聞いた春風は、
「嘘だろ?」
と呟くと、すぐにステータスウインドウを開き、その称号を調べた。勿論、アリシア達に見られない様にしてからだ。その結果……。
おねにーちゃん……女性の様な顔つきを持つ男性。又はその逆。称号特性:異性だけでなく同性からも好意の眼差しを向けられる様になる。
称号を確認した春風は、
「嘘だろぉおおおおおおおっ!?」
と叫ぶと、その場にがくりと膝から崩れ落ちるのだった。
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