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第2章 冒険の始まり
第16話 小夜子の怒りと「勇者」のステータス
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開いた口が塞がらなかった小夜子だったが、どうにか正気に戻ってウィルフレッドに質問した。
「それってつまり、私達にそんな危険な存在と戦えと、そういう事なのですか?」
今にも倒れそうになりながらも質問する小夜子に、ウィルフレッドは国王としての態度で答えた。
「うむ。その通りだ」
その答えに、小夜子の怒りが爆発した。
「ふざけるな! いくら私達が神に選ばれたからって、今日までただの教師と学生として生きてきたんだぞ!? なのに、いきなり召喚されて、この世界の為に戦えだなんて、そんなの無理に決まっているだろ! それに、私達にあなた方を救えるような力を持っているとはとても思えない!」
怒りで口調が荒くなった小夜子に、謁見の間にいる者達全員の視線が集まった。元々、高坂小夜子という女性はとても真面目で気が強く、時に厳しいところもあるが、生徒を思いやる優しさも兼ね備えた人物だ。故に今、自分達の為に怒ってくれた小夜子に、春風は勿論、クラスメイト達の一部がジーンと感動した。
すると、小夜子の言葉に触発されたのか、クラスメイト達の中から、
「怖い」
「嫌だ」
「帰りたい」
という声が上がった。それと同時に、ウィルフレッドを除く王族と鎧姿の男女が、どうすればいいのかわからずオロオロしだした。
その時、ウィルフレッドがスッと玉座から立ち上がった。
「其方の名を、聞かせて欲しい」
そう言われて、小夜子は少し戸惑いながら、落ち着いた口調で答えた。
「高坂小夜子。高坂が性で、小夜子が名前です。この子達の教師をしております」
「そうか。では、『小夜子殿』と呼べば良いだろうか?」
「……ええ、構いません」
すると、ウィルフレッドは小夜子に深く頭を下げた。その姿に、小夜子とクラスメイト達、そして王族達も驚いた。
そんな状況でもお構いなしに、ウィルフレッドは、
「其方の怒りは最もだ。すまない事をしたというのは承知の上だ。だがそれでも、この世界を救う為には他に方法が無かったのだ」
と、謝罪と言い訳が混じったセリフを述べた。
それでも納得の出来ない小夜子に、ウィルフレッドは続けた。
「其方は先程、『力が無い』と言っていたが、それは違う。この世界に召喚された時、其方達は神々より『勇者』としての『力』を授かっているのだ」
その言葉に驚く小夜子達に、ウィルフレッドはさらに続けた。
「意識を集中し、『ステータスオープン』と唱えるのだ。そうすれば、自分達の今の状態を教えてくれるだろう」
ウィルフレッドにそう言われると、小夜子達は全員意識を集中して、
『ステータスオープン』
と唱えた。
次の瞬間、小夜子達の目の前にウインドウ画面が現れた。驚いた小夜子がそのウインドウを見ると、そこにはこう記されていた。
高坂小夜子(人間・女・27歳) 職能:神聖騎士
レベル:1
ボーナスポイント:0
体力:90/90
魔力:80/80
攻撃:9
防御:22(10+10+2)
知力:10
精神:10
器用:7
敏捷:9
運勢:6
魔力属性:火、光
状態異常:無し
スキル:神聖剣、絶対防御、剣術、体術、光魔術
特殊スキル:異世界言語理解、神器召喚
称号:異世界(地球)人、職能保持者、勇者
装備:レディースーツ、室内履き
「こ、これは一体?」
「それは『ステータス』。其方達の強さを表すものだ。称号の項目を見るがよい。そこに『勇者』と記されているだろう?」
そう言われて、小夜子達はすぐに称号を確認すると、そこには確かに「勇者」と記されていた。
「わかったであろう? それこそが、其方達が神々に選ばれた『勇者』だという証なのだ」
小夜子はウィルフレッドの言葉に愕然としながらも、なんとか反論しようとした。
ところが、
「良いじゃないですか、先生」
突然の割り込みの声に驚いた小夜子は、すぐに声の主の方を向いた。
それはクラスメイト達の1人で、いかにも「優等生」といった感じの整った茶髪が特徴のイケメンな少年だった。
「前原!」
(前原君?)
小夜子に続くように、春風もその少年の方を向いた。
少年の名は、前原翔輝。優秀な成績を誇るクラスの中心的存在だ。
ただし、あまり良い「噂」は聞かないが……。
「『良い』って、どういう意味だ前原?」
「そのままの意味ですよ。聞いての通り、世界がピンチを迎えていて彼らはとても困っていて、この状況を変えられるのは選ばれた『勇者』である僕達しかいない。なら、力を貸すのは当然じゃないですか」
「確かにそうだ! だがわかっているのか? これは、遊びじゃない! 下手をしたら死ぬかもしれないんだぞ!?」
小夜子の正論に、春風は心の中で「その通りだ」と呟いた。
しかし、
「わかっていませんね先生。僕達は神様から勇者に相応しい『力』を授かっているんですよ? これで僕達が死ぬ要素がどこにあると言うんですか?」
残念な事に、翔輝には届かなかった。それどころか、どこか馬鹿にしたような口調で反論してきた。
そんな翔輝に、春風は表面では平常を装っていたが、内心ではかなりイラっとしていた。
翔輝はイケメンな笑顔を崩さずに、クラスメイト達に向かって言う。
「皆、大丈夫だよ。『勇者』である僕達なら、きっとこの世界を救えるさ。今はレベル1で知らない事が多いけど、頑張って強くなって、一緒に困難を乗り越えて、そして僕達の名をこの世界の歴史に刻もうじゃないか!」
翔輝のいかにもな言葉に、春風は心の中で、
(何を言ってんだコイツは?)
と呟きながら、呆れた表情をした。
だが、
「そ、そうか。そうだよな」
「うん、私達なら、出来るよね」
と、それまで怯えてたり、戸惑っていた様子のクラスメイト達が、次第にやる気に満ち溢れだした。
それを見て焦る小夜子と、ポカンとなる春風。
一方、ウィルフレッド達はそんな彼らを嬉しそうに見て、しまいには、
「これで世界が救われる!」
なんて言う人もいた。
やがて、春風を除くクラスメイト全員が「勇者」になる事に賛成な雰囲気になっていく中、ウィルフレッドが尋ねた。
「それでは、其方達の力を貸してくれると言うのか?」
その言葉に翔輝が、
「はい、もちろ……」
と、答えようとしたその時、
「あのー、ちょっとよろしいでしょうか?」
突然の発言に、謁見の間にいる者達全員が、その発言をした者の方を向いた。
そこには、眼鏡を外し、前髪をかき分けた春風が、
「質問があります」
と言わんばかりに手を上げていた。
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