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第三章・伯爵家当主マリン

36・当主への道

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 「落ち着いて聞いてくれ。君の父上のロテシュ伯爵と兄君が馬車の事故で昨日亡くなられた。だから早く伯爵家に帰った方がいい!これから大変だろうから…」

 僕が執務室に入るなり、ミシェルが沈痛な面持ちでそう言った。
 ミシェルは、僕と父や兄との確執は知らない。
 だから、僕がショックを受けて悲しむと思っている。

 ──普通だったらそうだろうね?ショックで寝込んだりしそうだ。

 「父上と兄上が…亡くなった!?」
 茫然としながらそう呟いて、次の瞬間頬を涙が伝う。

 ──あんまり平気そうなのもどうかな?って、ちょっとだけ泣いてみた。
 
 「マ、マリン大丈夫か?」
 ミシェルが心配そうな顔で見ていて、心の中で、ごめんネ心配かけて…って思う。
 それにこれから、ちょっと辛い事言っちゃうしなぁ~って。
 
 ──僕はこの公爵家を出て、ロテシュ伯爵家に戻る。

 正直、ロテシュ伯爵家がどうなろうが知ったこっちゃないよ?
 だけど、後継ぎが居なくてお取り潰しとかになっちゃうとしたら、僕は伯爵家の令息じゃなくなる。それこそ本末転倒だろう。
 そうなったら、それこそ身分差でミシェルとの結婚は難しくなる。

 ──僕はやっぱり、ミシェルが好きだ!!出来る事なら僕を選んで欲しいし、結婚したい。

 それを実現する為に、取り敢えずは自分の出来る事をする。
 だから、ここは心を鬼にしてミシェルに言っちゃうよ?

 「僕、ロテシュ伯爵家に帰ります。そして、ロテシュ伯爵家の当主になろうと思っています。これまでの一年半、ありがとうございました!」
 そう言って、僕はミシェルに向かって一礼した。そして…
 
 「ミシェル様、明日まではこのお屋敷に居てもいいでしょうか?荷物をまとめるのも時間がかかりますから。それから婚約破棄の書状は後でロテシュ家に届けていただけると助かります。」

 僕は自分の言いたい事を一気に言い放ってスッキリし、公爵家を離れるなら何を持って行こうかな?って考えた。
 
 ──全部は持っていかなくてもいいよね?家具とかは置いておいてもらおう!

 そう思っていたら、僕の前に居るミシェルの身体が震えているのに気付く。…えっ?

 目の前のミシェルがワナワナと震えて、蒼白の顔で僕をじっと見ながら言った。

 「だ、だめだ!婚約解消することは赦さない!」

 ──えっ…でも、一旦婚約解消しなくちゃならないんじゃなかった?そうじゃないと、僕が伯爵家を継げないんじゃないかと…?

 「あ、あの…僕、一旦ね、伯爵家を継がないといけないんだけど?あっ!ええ?」

 途方に暮れてそう呟いた僕を、突然ミシェルは抱き締める。
 ギューッとキツく抱き締めるので、僕は息が上手く出来ない。

 「あ、んん。ミシェルー!い、息がぁ~」

 その声にちょっとだけ締め付けが和らいだけど、身体は決して離してはくれない。
 ガッチリと抱え込まれて、ミシェルの意思の強さを感じる。

 「あ、あのね、ちょっとだけあっち、行ってくるから!それだったらいい?様子だけ見てくるし。ね?」

 ミシェルは僕の提案にしぶしぶ頷いて、じゃあ私も行きます!と言う。

 ──それ、無理でしょ?公爵家どうするのよ~!ギルフォード公爵様は領地から全然戻って来ないしさ…

 「じゃあさ、半年だけ!どっちみちミシェルが20歳にならないと結婚は出来ないでしょ?だったらそれまでの半年間、ロテシュ伯爵家に行ってきます!それまでにあっちの事は何とかしますから…ねっ?」

 ──ミシェルが僕を、じっとりと見据えている…怖い!
 でもさ、それしかなくない?その方法しか考えられないんだけど…
 口には出せないけど、それまでにミシェルにも結論を出して欲しい!

 僕とクリス…どっちと結婚するのよ?
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