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第一章・最愛の坊ちゃま

4・僕の日常

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 ジュリアス様は、僕よりも二つ歳下の八歳だ。なのにあの落ち着き様…
 僕だって決して騒ぐタイプの人間ではないけれど、坊ちゃまのあの凪いだ海のような静けさは何だろう?
 
 八歳といえばまだ大人に頼る年頃だと思う。なのにもう既に坊ちゃまは、老成しているように見えた。流石に主人公…凡人とは違うのかも知れない。それに貴族のトップといえる公爵家の令息という立場もそうさせるのかもな。伯爵家出身といっても、田舎に閉じ籠もっていた僕には分からない世界なんだろうね?

 それにジュリアスが両親から虐待されているとか、冷たくされていたとかの設定なんて無かったと思うけど…だからそのせいという訳でもなさそう。皆から愛され尊敬される主人公である坊ちゃま。幼少期からあのように冷静沈着な方だったとは、新しい発見だ!

 「エリオット…君、また変な事を考えているのではないのか?」

 変声期前の甘さの残るその声に、ビクッと現実に戻される。それから目の前に顔を向けると、キラキラのお目々を少し細めて、僕を訝しげに見ている坊ちゃまが。いけね!すっかりトリップしちゃってた…

 「はい!坊ちゃま。勉強中の坊ちゃまのお姿をこの目に焼き付けていました」

 そう自慢げに答えて微笑むと、坊ちゃまは呆れたような表情を浮かべた。だってこんな貴重なお勉強シーン、そうするでしょ?こんな小さな頃から、ありとあらゆる勉学を極めようと努力している坊ちゃま…尊い!

 あれから僕は公爵家へ連れて来られ、身を清めてから医師の診察を受けた。栄養失調の症状はみられたが、推しの側に居られる嬉しさが勝ったのか直ぐに回復して、まずは見習いのボーイになった。目指すは従者になって、さらに坊ちゃま専属従者だ!そう心に誓って頑張っている。そして今、坊ちゃまの午前中の勉強の時間は、お茶入れ係として邪魔にならないように、そっとお側に立っている。

 「なんだかさっきから気が散るんだよね…。そうだ!お前も共に勉強するのはどうだい?お父様には私から言っておこう。従者になりたいのなら、何ごとも知っておかなければならないだろう?」

 その提案に、僕はブルンブルンと首を振って「僕などとんでもない!」と辞退した。そんなことをしたら、坊ちゃまを見ている時間がなくなる!せっかくベストポジションなのに…

 「嫌なのかい?それなら剣術の時間だけでも共にしなさい。君は私の専属の従者になりたいって言ったけど、二人だけの時にもしも襲われるようなことがあったなら、誰が私を守るんだ?エリオットだよね?」

 くっ…坊ちゃま!そんな高飛車なセリフも味わい深い~
 だけど、そりゃそうだよね?超絶美人の坊ちゃまが、不届き者に襲われる可能性だってある。そういえば…

 ──確か大公ルートで、刺客に狙われちゃったりしたかも?これはヤバい!

 大公ルート…国王の歳の離れた弟である大公様が、ジュリアスの恋のお相手になるルートが存在する。そのルートになると、すんなりと二人の愛が成就せず、跡目争いの渦に巻き込まれてしまうんだ。だからね、この危険なルートだけは全力で止める!そう心に誓ってるんだ。だけど、どのルートにしたって絶対安全だとは限らない。振られた攻略対象が、闇落ちしてジュリアスを監禁とか…あるかも知れないし!だいぶやり込んだゲームだったけど、僕の知らない裏ルートだってあるかもね?となると…

 「分かりました。是非僕も剣術を習わせて下さい。技術を磨いて全力で坊ちゃまをお守り致しますので!」

 鼻息荒くそう宣言した。勉強といえば、義母から嫌がらせで禁止されていたけど、もうやらなくても大丈夫っていうか、そこそこ学びきったっていうか…だからそうなっても影響は無かった。もしかして今考えれば転生者能力っていうの?一度聞いたり読めば、難なく覚えちゃうんだ。だけど剣術だけは自信ない!有名な騎士であったあの父親の子なんだけどね。でも坊ちゃまの安全の為に、やれることはやらなくては!俄然ヤル気が出てきたな。

 それから僕は、ジュリアスの専属従者を目指して日々努力した。僕自身が貴族令息であった為、何をやるべきなのかは分かっているつもりだったけれど、見るのとやるのは全く違っていた。だからエドモア公爵家の者として、先輩使用人達を見習いながら研鑽を積んで、あっという間に八年という月日が経つ。僕は十八歳になり、ジュリアスは十六歳になった。

 ──そう!あのBLゲームが始まる、王都学園に入学する時期がやって来た。わーお!
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