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第一章・最愛の坊ちゃま

5・オープニングの鐘が鳴る

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 王都学園とは、このブラシリア国貴族の令嬢令息が十六歳から学ぶことになる学校だ。
 アノー伯爵家のように、家庭教師を付けて勉強する場合もあるけれど、王都住み貴族ではこの学園に通わせるのが通常だ。子の将来の為に人脈を作るのは最重要だからだ。それに結婚相手を見つける目的もあるだろう。

 この世界は異世界アルアルで、男も女も子供が産める。前世を思い出してからはどういうメカニズムなんだろう?って思ってしまったが、それまでは普通のことなので考えたことなど無かった。そのくらい当たり前なんだ。だからこそ『BLゲーム』の舞台として存在するんだろうね。

 僕は前世、恋愛経験がないまま死んだようだから自分の性的嗜好が分からないが、好きになった人ならどちらでも!なのだと思っている。自身の結婚は、ジュリアスのハッピーエンドを見届けてから考えよっかな~。まだまだ僕だって若いからね!だから目下の目標は、ジュリアスの専属従者として王都学園に付いていく!ってことだ。

 屋敷から通うのも十分可能なんだけど、王都学園に入ったら寮生活が待っている。親元を完全に離れて、本人の力のみで生活させるのが目的なんだろう。だけどそこはやっぱり貴族だ。身の回り全てを自分だけでやるのは難しい。それまで蝶よ花よと育てられた令嬢令息なら尚の事。なのでメイドや従者を一人だけ連れて行くのが可能なんだ。
 貴族の序列によって部屋が割り当てられて、侯爵家以上ならば使用人用の小さな次の間付きの大きな部屋を与えられる。あとの人達は学生とは別の使用人用の寮が完備されていて、そこから世話をしに通うことになるみたい。
 だから公爵家の令息の坊ちゃまには、従者用の次の間がある部屋を割り当てられる筈なんだけど…そこはちょっとマズいかも?

 ──だってさ、BLゲームだよ?あんな事やこんな事まで起きるかも知れない!
 坊ちゃまの恋の邪魔にだけはなっちゃいけない…ハァハァ。

 だけどちょっとだけ覗きたい気持ちも…変態かな?それよりも今心配なのは、僕が連れて行って貰えるのか!?って。もうすぐその選考が行なわれるんだけど… 


 +++++

 
 「坊ちゃまと一緒に行くのは私よ!」

 「それは違う!一番長くジュリアス様のお側にいる俺だ」

 「あのぉ、坊ちゃま大好きな僕だということも…ありますよね?」

 三番目にそう口を挟むと、メイドのルーシーさんと先輩従者のアルベルトさんがキッ!と僕を睨んだ。それから二人共に鼻で笑う。

 「エリオットが!?冗談でしょ」

 「お前には早い!顔を洗って出直せ」

 酷い!酷過ぎる~。確かにルーシーさんやアルベルトさんは長年坊ちゃまのお世話を任されている。坊ちゃま専属歴は浅い僕だけど、『愛』は負けてないよ?

 おまけにアルベルトさんは、僕が死にかけていた時に坊ちゃまと共に居たあの人で、坊ちゃま同様に命の恩人とも言えなくもない。あんな汚い僕を背におぶって公爵家まで連れて来てくれたしね。ここに来てからも仕事を一つ一つ教えてくれたのもアルベルトさんだし。ルーシーさんにも、ここへ来た時はまだ子供の年齢だったから色々と可愛がって貰った印象がある。だけど…

 ──負けられない戦いがここにある!!学園に付いて行けなければ、風の噂ほどしかゲームの進行状況を確認出来ないしー!

 僕が一番下っ端で、感謝しなければならない相手のライバル達。だけど僕だけの強みだってある!人には決して言えないが、ゲームのシナリオを知っているのは自分だけ。受験勉強の合間で隠れながらやったから、全ルートの詳細を知っている訳ではないけれど、知り合うことになる人物の性格や背景、イベントなど、坊ちゃまの幸せに向けての情報は誰よりもある!

 学園への同行を希望した僕達三人は、その結果を聞くべく今使用人を統括する執事のスミンさんの部屋に来ているんだけど…どうもまだ選考中のようだ。
 旦那様と坊ちゃま、それと家令のロベルトさんとスミンさんの四人で話し合いの真っ最中みたい。結局は旦那様の意向が重要なんだと思うけど。

 「結構選考に時間が掛かっているようだな?来るように言われた時間からもう半刻も過ぎているけど…」

 「そうね…。私、坊ちゃまのお荷物の整理をしないといけないんだけど。まだかしら?」

 「これだけ揉めてるという事は、僕の可能性もあるんじゃないでしょうか?」

 またまた二人にキッ!と睨まれたけど、ルーシーさんやアルベルトさんが選ばれたなら、こんなに時間がかかる筈がないと思う。本当にもしかしたらもしかする!?

 そう都合よく考えていたら、執事室のドアが開けられてドキッとした。

 「ああ、皆んなお揃いだね。お待たせしてすまない」

 ◯◯◯博士のような容貌のスミンさんが、白髪の天然パーマの髪を揺らしながら、疲れた顔で部屋に戻って来た。いつもはお年の割に颯爽とした印象だが、重要な話し合いだった為かいつもの覇気がない。一体誰が選ばれたんだ!?と逸る気持ちを抑えて、三人はスミンさんを見つめた。

 「あのね…ジュリアス様に同行して学園に行く使用人が決まりました。これは決定事項なので異議は認めませんから」

 ──ゴクリッ。

 固唾を呑んで発表を見守る三人。誰だろう?誰が…?

 「エリオット…君だ!正直、私はまだ経験が足りないと反対したんだがね。決まったからにはしっかりと頑張りなさい」

 僕は、ポカンと口を開けたまま固まった。強力なライバル達を差し置いて自分が選ばれるなんて…信じられない!

 「カラーン!カララーン!」

 僕の頭の中には、ゲームのオープニングの新学期が始まる鐘、その音が延々と鳴り響いていた。
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