最愛の敵

ルテラ

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アデリア戦

18話 軍人/英雄

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「だがラズリ、トートは軍人だ」
 困惑しながらフィールが言う。
「人を殺していないのなら何にでもなれる」
 フィールは言いたいことがまとまらず黙り込む。ラズリは続ける。
「英雄は人を守り人を救うのが仕事と言ったが英雄が人を殺していい時がある」
 さらに困惑する。
「それが世界を変える時だ」
「世界を・・・」
 フィールはさらに眉間に皺がよる。
「変える?」
 アイシャが続きを言う。
「そうだ。本物の魔物や魔王はいないだがそれに似た存在ならいる。例えば“大量殺人鬼”やテロリス、なんかはそれに当たる」
「それらを倒す時は許されると」
 フィールが慎重に聞く。
「正確には世界を脅かす存在が現れた時だ。それを倒した時、英雄となる」
 再び沈黙が走る。
 レオは何かを諦めたように
「わかりました。ラズリに従うよ」

 再び屋敷は沈黙に包まれる。しかしリビングに人の気配がする。
「フィール、灯を点けたらどうですか?」
 フィールが振り向く。
「レオ。消しといてくれ」
「分かりました」
 フィールの隣に座る。
「俺にも酒を下さい」
 自身の氷で作った。グラスを渡し、フィールに注がせる。
「ありがとうございます」
 酒を一口飲みフィールを見る。
「気持ちは分かります」
「俺も分かってる。仕方がないって、でも・・・」

『正確には世界を脅かす存在が現れた時だ。それを倒した時、英雄となる』
『必要か?英雄ってのは?』
『時期に分かる。それに固執する理由がな』

「フィールはどちらを止めたいのですか?ラズリ?それともトート?」
「わかんねぇ」
 酒を一口飲みソファーに項垂れる。
「トートに話すのも1つの手です」
 レオを睨むようにして見る。
「ラズリは責ないでしょうね」
 レオはグラスの中の酒を見ながら言う。
「分かってるよそんなの。冷酷とか何とか言われてるがあいつが・・・あいつが誰よりも優しいってわかってる」
 涙を流す。
 レオは背中を摩り、思い出す。

ー数年前ー
 まだパイロンとして4人が名を馳せる前。4人はただの仮面を被った殺戮者として話題となっていた。
 パイロンは戦争を終え、小さな町で休息を取っていた。
 フィールとアイシャは宿で休息をラズリとレオは町を歩いていた。
ゴン
「ラズリ!」
 ラズリに石が当たり血が出る。
「問題ない」
「人殺し!」
 そこには震えながら立っていた少女がいた。
「パパを返して!」
 するとラズリ達に背を向け少女に抱きつく人がいた。母親だろう。
 母親はこちらに体を向けると地面に頭を擦るようにして謝罪をする。
「申し訳ありません。なにぶん世間を知らないのです。罰は・・・」
 地面から頭が離れる。
 ラズリが膝をつき、母親の肩を掴み、上げる。
「謝罪は必要ない」
「君の言う通りだ。すまない」
 そしてラズリは少女に頭を下げる。
「恨め、だから人は恨むな」
 少女と母親は再び涙を流す。それはラズリが言ったことの意味が分かったからだろうかそれともラズリが頭を下げているのに涙を流しているのだろうか。
 俺はただその光景を黙って見ていた。
 
 そうラズリが優しいのは俺が一番わかっている。そしてこの計画がどんな結果になるのかも。
 レオは願った。ラズリがせめてこの期間だけは幸せを受理できるように。
 ー叶わないとわかっていながらー
 
ー一週間後ー
 何もないまま時間が過ぎた。
 自分はパイロンと一緒に朝食を食べていた(ラズリは部屋で)。
コンコンコン
「お食事の所失礼します」
 執事長が入ってくる。
「どうしましたか?」
「皇帝から次の戦地が決まったので皇城に来るようにとのことです」
「わかりました」自分達は皇城に行く。
 閲覧室の中に入ると今度は家臣達いた。
「場所は?」
 ラズリさんがすぐに聞く。
「神聖イニティーム帝国だ」
「始まりの国か・・・」フィールさんが言う。
 世界の殆どは3つの帝国によって支配された。だが3つの帝国の真ん中にいながら未だに侵略されていない国、神聖イニティーム帝国だ。
 なぜ始まりの国と言われているのか。
「確か『世界の英雄』が誕生して所ですよね」
 自分が確認するように質問する。
「正確には向こうが勝手に言っているだけであって根拠は何もない」
 皇帝が呆れながら答える。
「鎖国状態であると聞きましたが?」
「あぁその通りだ。故に嘘か真かわからない噂ばかりが後を絶たない」
「でも何でそんな得体の知れない国を?」       
 アイシャさんが聴く。
「得体が知れないからこそさっさと片付けたいんだ。3ヶ月後に進軍する」
「わかった。1ヶ月の間に作戦を立てる」
「頼んだ」
 会議が終了した。

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