34 / 60
31話
しおりを挟む
———頭が、ズキズキと痛む。
今、何時だ。というかここはどこだ。確かいつもの店で飲んでて.....。
記憶を辿るが、やはり店を出た記憶はない。
身体を起こそうとすると、誰かの手が回されていることに気づいた。
「!?」
どうやらここは、佐原の部屋のベッドだったようだ。
慌てて布団の下を確認するが、服は身につけていた。乱れている様子もない。
そのことにまず安堵し、隣で寝ている佐原をベッドから蹴り落とした。
「何もしてませんよ!?」
ベッドから落とされた佐原は、叱られた犬のようにベッドに上がろうとはせず、顔だけ出してそう言った。
「うるさい叫ぶな頭に響く」
「飲み過ぎなんですよ、姫崎さん」
「仕方ないだろ。あんな噂流されて、飲まないでいられるか」
「半分は事実ですしね」
「喧嘩売ってんのか、お前は。明日全員に否定して回れ。いっそ付き合ってませんって紙貼りつけて一日過ごせ」
「嫌ですよ、俺は本当の事にしたいのに」
ベッドの淵に顔を乗せ、目だけこちらに向ける。その表情は真剣だ。
その頑な態度に頭を抱え、たまらずため息を零す。
「はぁ........。なんで俺なんだよ.....」
「えっ!?まだ伝わってませんでした!?姫崎さんの魅力何個語ったら伝わりますか!?」
「あー、うるさい。....そうじゃなくて、俺は応える気ないって言ったろ」
「言われましたけど....それは諦める理由にはならないので。というか俺も言いましたよね?諦められるくらいなら、もうとっくに諦めてます」
「.......お前、一回ヤったからって調子に乗ってんじゃねえだろうな」
「そんなことはっ....あり、ます....。けどっ!俺が触っても気持ち悪くないって言われたら、俺だけって言われたら調子に乗るなって方が無理じゃないですかっ?」
いや、お前だけなんて言った覚えはないんだが。
「....気持ち悪くないイコール好きってのがよくわからん。そもそも、どうなったら好きだってわかるんだ」
「えー......。それは...人それぞれじゃないですか...?よく言うのは、キスできる人は好き、とか...。でも身体だけの関係、とかもよく聞きますし....」
「お前は?」
「俺ですか?俺は、毎日でも顔見たいな、とか。笑ってくれると嬉しくて、自分しか知らない顔が見れたらドキドキします」
........ないな。
少し想像してみたが、佐原にそんな感情を抱いたことは一度もない。
「....俺は、できたら姫崎さんには安心してもらいたいです」
「安心.....?」
「はい。姫崎さんって、人に頼りたがらないでしょう?一人で生きていくんだ、って決めてるみたいに」
「............」
それは、父親が死んだ時に決めた事だ。
「でも、俺は姫崎さんを一人にしたくないです。人が、俺が、そばにいるだけで安心できる存在になりたいんです。肩を並べて座ってるだけでも、同じ空間にいるだけでもいいんです。それだけで、安心できる事もあるんだって事を知ってほしい」
「........一人の方が安心できる奴もいるだろ」
「そうですね。でもそれってずっとそうなんですかね?一生、死ぬまで一人の方が安心できる人って、たぶんそういう人に出会えなかっただけじゃないでしょうか?」
確かに、そうかもしれない。俺だって、最初から一人が安心するだなんて事は思っていなかった。父と母に愛されていた時も確かにあり、それを心地いいとも感じていた。
それが崩れていったのは、一人で生きると決めた時からだ。
この顔は、他人のよくない感情を引き出してしまう。
それがわかってからは、一人でいる方が楽だった。
「......お前は..俺と付き合ったとして、セックスができなくても付き合いたいと思うのか?」
トラウマは克服できたかもしれないが、それでもやはりセックスは苦手だ。自分が自分でなくなるような、保てなくなるような感覚は、何度も味わいたいと思うものではない。
「えっ!?うーん....、本音を言えば、したいです。めちゃくちゃしたいですけど、姫崎さんが本当に嫌なら、我慢します」
「一度で終わらなかったくせにか?」
「あっ、あれは姫崎さんも気持ち良さそうでしたしっ...」
「やめろって何度も言ったと思うが?」
「だから、顔が嫌がってなかったんですってー!」
必死に言い訳をしている姿に、思わず笑ってしまった。
「......わかった。真剣に考えてみる」
「えっ!?付き合ってくれるんですか!?」
バッと立ち上がり、興奮したように叫ぶ。その声が頭に響き、耳を覆った。
「叫ぶな。考える、って言っただけだ馬鹿」
「それでも嬉しいです!」
そんな事でも嬉しいのか。
満面の笑みで、尻尾をぶんぶんと振っている幻覚が見えそうだ。
今、何時だ。というかここはどこだ。確かいつもの店で飲んでて.....。
記憶を辿るが、やはり店を出た記憶はない。
身体を起こそうとすると、誰かの手が回されていることに気づいた。
「!?」
どうやらここは、佐原の部屋のベッドだったようだ。
慌てて布団の下を確認するが、服は身につけていた。乱れている様子もない。
そのことにまず安堵し、隣で寝ている佐原をベッドから蹴り落とした。
「何もしてませんよ!?」
ベッドから落とされた佐原は、叱られた犬のようにベッドに上がろうとはせず、顔だけ出してそう言った。
「うるさい叫ぶな頭に響く」
「飲み過ぎなんですよ、姫崎さん」
「仕方ないだろ。あんな噂流されて、飲まないでいられるか」
「半分は事実ですしね」
「喧嘩売ってんのか、お前は。明日全員に否定して回れ。いっそ付き合ってませんって紙貼りつけて一日過ごせ」
「嫌ですよ、俺は本当の事にしたいのに」
ベッドの淵に顔を乗せ、目だけこちらに向ける。その表情は真剣だ。
その頑な態度に頭を抱え、たまらずため息を零す。
「はぁ........。なんで俺なんだよ.....」
「えっ!?まだ伝わってませんでした!?姫崎さんの魅力何個語ったら伝わりますか!?」
「あー、うるさい。....そうじゃなくて、俺は応える気ないって言ったろ」
「言われましたけど....それは諦める理由にはならないので。というか俺も言いましたよね?諦められるくらいなら、もうとっくに諦めてます」
「.......お前、一回ヤったからって調子に乗ってんじゃねえだろうな」
「そんなことはっ....あり、ます....。けどっ!俺が触っても気持ち悪くないって言われたら、俺だけって言われたら調子に乗るなって方が無理じゃないですかっ?」
いや、お前だけなんて言った覚えはないんだが。
「....気持ち悪くないイコール好きってのがよくわからん。そもそも、どうなったら好きだってわかるんだ」
「えー......。それは...人それぞれじゃないですか...?よく言うのは、キスできる人は好き、とか...。でも身体だけの関係、とかもよく聞きますし....」
「お前は?」
「俺ですか?俺は、毎日でも顔見たいな、とか。笑ってくれると嬉しくて、自分しか知らない顔が見れたらドキドキします」
........ないな。
少し想像してみたが、佐原にそんな感情を抱いたことは一度もない。
「....俺は、できたら姫崎さんには安心してもらいたいです」
「安心.....?」
「はい。姫崎さんって、人に頼りたがらないでしょう?一人で生きていくんだ、って決めてるみたいに」
「............」
それは、父親が死んだ時に決めた事だ。
「でも、俺は姫崎さんを一人にしたくないです。人が、俺が、そばにいるだけで安心できる存在になりたいんです。肩を並べて座ってるだけでも、同じ空間にいるだけでもいいんです。それだけで、安心できる事もあるんだって事を知ってほしい」
「........一人の方が安心できる奴もいるだろ」
「そうですね。でもそれってずっとそうなんですかね?一生、死ぬまで一人の方が安心できる人って、たぶんそういう人に出会えなかっただけじゃないでしょうか?」
確かに、そうかもしれない。俺だって、最初から一人が安心するだなんて事は思っていなかった。父と母に愛されていた時も確かにあり、それを心地いいとも感じていた。
それが崩れていったのは、一人で生きると決めた時からだ。
この顔は、他人のよくない感情を引き出してしまう。
それがわかってからは、一人でいる方が楽だった。
「......お前は..俺と付き合ったとして、セックスができなくても付き合いたいと思うのか?」
トラウマは克服できたかもしれないが、それでもやはりセックスは苦手だ。自分が自分でなくなるような、保てなくなるような感覚は、何度も味わいたいと思うものではない。
「えっ!?うーん....、本音を言えば、したいです。めちゃくちゃしたいですけど、姫崎さんが本当に嫌なら、我慢します」
「一度で終わらなかったくせにか?」
「あっ、あれは姫崎さんも気持ち良さそうでしたしっ...」
「やめろって何度も言ったと思うが?」
「だから、顔が嫌がってなかったんですってー!」
必死に言い訳をしている姿に、思わず笑ってしまった。
「......わかった。真剣に考えてみる」
「えっ!?付き合ってくれるんですか!?」
バッと立ち上がり、興奮したように叫ぶ。その声が頭に響き、耳を覆った。
「叫ぶな。考える、って言っただけだ馬鹿」
「それでも嬉しいです!」
そんな事でも嬉しいのか。
満面の笑みで、尻尾をぶんぶんと振っている幻覚が見えそうだ。
21
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
最初から可愛いって思ってた?
コプラ
BL
マッチョの攻めから溺愛される可愛い受けが、戸惑いながらもそのまっすぐな愛情に溺れていく大学生カップルのBLストーリー。
男性ホルモンで出来た様なゼミ仲間の壬生君は、僕にとってはコンプレックを刺激される相手だった。童顔で中性的な事を自覚してる僕こと田中悠太はそんな壬生君と気が合って急接近。趣味の映画鑑賞を一緒にちょくちょくする様になっていた。ある日そんな二人の選んだ映画に影響されて、二人の距離が友達を超えて…?
★これはTwitterのお題でサクッと書いたミニストーリーを下地に作品にしてみました。
『吐息』『ゼロ距離』のお題で「事故でもそれは。」Twitter小話の中にあります。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる