年下上司の愛が重すぎる!

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31話

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———頭が、ズキズキと痛む。

今、何時だ。というかここはどこだ。確かいつもの店で飲んでて.....。
記憶を辿るが、やはり店を出た記憶はない。

身体を起こそうとすると、誰かの手が回されていることに気づいた。

「!?」

どうやらここは、佐原の部屋のベッドだったようだ。
慌てて布団の下を確認するが、服は身につけていた。乱れている様子もない。
そのことにまず安堵し、隣で寝ている佐原をベッドから蹴り落とした。


「何もしてませんよ!?」

ベッドから落とされた佐原は、叱られた犬のようにベッドに上がろうとはせず、顔だけ出してそう言った。

「うるさい叫ぶな頭に響く」

「飲み過ぎなんですよ、姫崎さん」

「仕方ないだろ。あんな噂流されて、飲まないでいられるか」

「半分は事実ですしね」

「喧嘩売ってんのか、お前は。明日全員に否定して回れ。いっそ付き合ってませんって紙貼りつけて一日過ごせ」

「嫌ですよ、俺は本当の事にしたいのに」

ベッドの淵に顔を乗せ、目だけこちらに向ける。その表情は真剣だ。
その頑な態度に頭を抱え、たまらずため息を零す。

「はぁ........。なんで俺なんだよ.....」

「えっ!?まだ伝わってませんでした!?姫崎さんの魅力何個語ったら伝わりますか!?」

「あー、うるさい。....そうじゃなくて、俺は応える気ないって言ったろ」

「言われましたけど....それは諦める理由にはならないので。というか俺も言いましたよね?諦められるくらいなら、もうとっくに諦めてます」

「.......お前、一回ヤったからって調子に乗ってんじゃねえだろうな」

「そんなことはっ....あり、ます....。けどっ!俺が触っても気持ち悪くないって言われたら、俺だけって言われたら調子に乗るなって方が無理じゃないですかっ?」

いや、お前だけなんて言った覚えはないんだが。

「....気持ち悪くないイコール好きってのがよくわからん。そもそも、どうなったら好きだってわかるんだ」

「えー......。それは...人それぞれじゃないですか...?よく言うのは、キスできる人は好き、とか...。でも身体だけの関係、とかもよく聞きますし....」

「お前は?」

「俺ですか?俺は、毎日でも顔見たいな、とか。笑ってくれると嬉しくて、自分しか知らない顔が見れたらドキドキします」

........ないな。
少し想像してみたが、佐原にそんな感情を抱いたことは一度もない。

「....俺は、できたら姫崎さんには安心してもらいたいです」

「安心.....?」

「はい。姫崎さんって、人に頼りたがらないでしょう?一人で生きていくんだ、って決めてるみたいに」

「............」

それは、父親が死んだ時に決めた事だ。

「でも、俺は姫崎さんを一人にしたくないです。人が、俺が、そばにいるだけで安心できる存在になりたいんです。肩を並べて座ってるだけでも、同じ空間にいるだけでもいいんです。それだけで、安心できる事もあるんだって事を知ってほしい」

「........一人の方が安心できる奴もいるだろ」

「そうですね。でもそれってそうなんですかね?一生、死ぬまで一人の方が安心できる人って、たぶんそういう人に出会えなかっただけじゃないでしょうか?」

確かに、そうかもしれない。俺だって、最初から一人が安心するだなんて事は思っていなかった。父と母に愛されていた時も確かにあり、それを心地いいとも感じていた。

それが崩れていったのは、一人で生きると決めた時からだ。
この顔は、他人のよくない感情を引き出してしまう。
それがわかってからは、一人でいる方が楽だった。

「......お前は..俺と付き合ったとして、セックスができなくても付き合いたいと思うのか?」

トラウマは克服できたかもしれないが、それでもやはりセックスは苦手だ。自分が自分でなくなるような、保てなくなるような感覚は、何度も味わいたいと思うものではない。

「えっ!?うーん....、本音を言えば、したいです。めちゃくちゃしたいですけど、姫崎さんが本当に嫌なら、我慢します」

「一度で終わらなかったくせにか?」

「あっ、あれは姫崎さんも気持ち良さそうでしたしっ...」

「やめろって何度も言ったと思うが?」

「だから、顔が嫌がってなかったんですってー!」

必死に言い訳をしている姿に、思わず笑ってしまった。

「......わかった。真剣に考えてみる」

「えっ!?付き合ってくれるんですか!?」

バッと立ち上がり、興奮したように叫ぶ。その声が頭に響き、耳を覆った。

「叫ぶな。考える、って言っただけだ馬鹿」

「それでも嬉しいです!」

そんな事でも嬉しいのか。
満面の笑みで、尻尾をぶんぶんと振っている幻覚が見えそうだ。
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