33 / 60
30話
しおりを挟む
同居を続けなければいけないことは残念だが、考えてみればなにも昨日のような事がまた起こるわけではない。
あの時は力が入らず抵抗できなかっただけで、媚薬など盛られていなければ抵抗できるのだ。
だからあんな状況には二度とならないだろう。
そう思えばあと一カ月くらいなんてことない。
なんて考えていた次の出勤日、署内はとんでもない噂でもちきりだった。
「なー、なー、お前ようやく警部とくっついたって本当か?」
そう聞かれたのは、四六時中張り付いている必要がなくなり、久しぶりに一人になった時だ。
「は?」
大して話した事もないような奴に突然声をかけられ、一応足を止めた。
だが、その言葉は確かに俺に向けられているのに、何一つ理解できない。
警部は佐原のことだろうが、くっついたとはどういう意味なのか。
というかこいつの名前なんだっけ?
「なんの話だ」
「とぼけるのか~?もうみんな知ってるぞ?」
みんなって誰だ。具体的に言え。なんで当事者らしい俺がなにも知らなくて"みんな"が知ってんだ。
先程から下卑た笑みで、まるで友達かのように接してくるこいつも鬱陶しい。
「本当に何の話かわからないんだが」
「え~....、じゃああれデマだったってこと?でも実際見たって言ってた奴もいたぞ?」
「見た?何を?」
「姫崎が佐原警部にお姫様抱っこされてるとこと、次の日歩きづらそうにしてる姫崎」
....まあ、見てる奴いたからな。
確かにそれは事実だ。痛みや違和感で歩きづらかったのも。
だが、それがどうした。しかもなんでそれを"みんな"が知っているなんて事になるんだ。
「だからなんだ?」
「あ、事実なんだ?いやー、やっぱお前ってソッチだったんだな~。浮いた話全くなかったのになにが決め手だったんだよ」
.......誰か通訳を呼んでもらえないだろうか。
日本語を喋っているはずなのに、全く意味がわからない。
そっちがどっちなのかもよくわからないし、浮いた話?決め手?まさか佐原と付き合ってるとでも思ってるのか...?
だが、横抱きと歩きづらそうにしているだけでそんな発想になるか?
「言っておくが、警部とは付き合ってないぞ?」
一応否定すると、とんでもない発言が飛び出した。
「えっ?でもヤったんだろ?」
「ヤっ...!?」
な、なんでバレ...!?っていうかなんでそんな事が噂になってんだよ...!!
◇◇◇
(佐原視点)
「いやー、すごい噂になってますね!」
お酒の席で、影山さんが楽しそうにビールを呷る。
今日は俺と姫崎さんの奢りでの飲み会だ。
本当はお店が決まったら、という感じだったのだが、噂が広まりすぎて急遽今日になり、結局いつもの店で飲んでいる。
「なんでこんな広まってんだよ...!」
姫崎さんが眉間に思いっきり皺を寄せ、空のお猪口をテーブルに叩きつけた。
「良くも悪くも目立ちますからねー、姫崎さん」
「だからっておかしいだろ!」
「で、ほんとのところどうなんですか?」
「喧嘩売ってんなら買うぞ?」
影山さんは今日も絶好調で、ここぞとばかりに揶揄っている。姫崎さんも酔っ払っているからか、喧嘩っ早い。
いや、手が早いのは酔ってない時もそうか。
「姫崎さんっ、飲み過ぎですよっ」
「ああ!?元はと言えばお前の所為だろ!」
はいっ、ごめんなさいっ!
ピシャリと怒鳴られ、思わず身を縮める。
俺が一度でやめられていたら、こんなことにはなっていなかっただろう。
でも仕方なくないですか?あんなにエロい姫崎さん目の前にして止まれる人がいたら教えてほしいんですけど!
「あれ、もう隠さない感じですか?」
姫崎さんが敬語を使っていないことを言っているんだろう。でも多分姫崎さんは気づいてない。
「あの、皆さんも敬語じゃなくていいですよ?」
なんとなく言うタイミングがなかったが、別にこだわりはない。役職では上だが、皆さんの方が年上だし先輩なのだから。
「俺はこのままでいいですよー。一人だけに敬語なくすとかそんな器用なことできないし」
「俺も...、このままで。なんか今更タメ口っていうのも違和感っていうか」
「私も咄嗟の時間違えてしまうかもしれないので、このままでお願いします」
影山さんも千葉さんも神野さんも敬語のままで、ということだったが、不思議と距離をとられた感じはしない。
影山さんは最初からフレンドリーだったし、千葉さんもカチカチの敬語、って感じではない。神野さんは多分嘘だろうけど、俺を立ててくれているのがわかる。
「おい!お前の所為なんだから責任もって全員に否定してこい!」
姫崎さんは話を聞いていなかったのか、自分のお猪口にお酒を注ぎ、それを飲みながらまた怒鳴っている。
「うわ、横暴~」
「うるせえ!じゃあ他になんかいい方法あんのか!?」
「......あの、いっそ噂を本当にするっていうのはどうですか!?」
酔っ払ってても、言質とったもん勝ちだよね!?
「却下!」
だが、一瞬で断られてしまった。
「そんなぁ」
「却下に決まってんだろ!」
「こいつめっちゃ酔ってんな。記憶なくなるんじゃないか?」
怒鳴る姫崎さんを見て、呆れたように千葉さんがぼそりと呟く。
「酔ってないって言ってるだろ!もっと酒よこせ!」
「俺と付き合ってくれたらいくらでも飲ませてあげます!」
チャンスだ!と思い、はい!っと手を挙げてそう言う。
「お!警部攻めますね!」
「付き合わんって言ってるだろ!強姦魔め!」
「わー!姫崎さん何言ってんですかっ」
ここが居酒屋だってこと忘れてません!?
ぎくりとする単語を叫ばれ、慌てて止める。
「えー、警部、犯罪はダメですよ?」
「してませんからっ」
そう。あれは完全に合意だったと思う。だって、言葉では嫌だとか、やめてとか言ってたけど、顔は完全に嫌がってなかった。
パニックにも陥らなかったし、セックスが苦手な姫崎さんが俺には触られても気持ち悪くないって言ってたし!
だからあれだ。嫌よ嫌よも好きのうち。
絶対俺を好きだと言わせてみせる!
あの時は力が入らず抵抗できなかっただけで、媚薬など盛られていなければ抵抗できるのだ。
だからあんな状況には二度とならないだろう。
そう思えばあと一カ月くらいなんてことない。
なんて考えていた次の出勤日、署内はとんでもない噂でもちきりだった。
「なー、なー、お前ようやく警部とくっついたって本当か?」
そう聞かれたのは、四六時中張り付いている必要がなくなり、久しぶりに一人になった時だ。
「は?」
大して話した事もないような奴に突然声をかけられ、一応足を止めた。
だが、その言葉は確かに俺に向けられているのに、何一つ理解できない。
警部は佐原のことだろうが、くっついたとはどういう意味なのか。
というかこいつの名前なんだっけ?
「なんの話だ」
「とぼけるのか~?もうみんな知ってるぞ?」
みんなって誰だ。具体的に言え。なんで当事者らしい俺がなにも知らなくて"みんな"が知ってんだ。
先程から下卑た笑みで、まるで友達かのように接してくるこいつも鬱陶しい。
「本当に何の話かわからないんだが」
「え~....、じゃああれデマだったってこと?でも実際見たって言ってた奴もいたぞ?」
「見た?何を?」
「姫崎が佐原警部にお姫様抱っこされてるとこと、次の日歩きづらそうにしてる姫崎」
....まあ、見てる奴いたからな。
確かにそれは事実だ。痛みや違和感で歩きづらかったのも。
だが、それがどうした。しかもなんでそれを"みんな"が知っているなんて事になるんだ。
「だからなんだ?」
「あ、事実なんだ?いやー、やっぱお前ってソッチだったんだな~。浮いた話全くなかったのになにが決め手だったんだよ」
.......誰か通訳を呼んでもらえないだろうか。
日本語を喋っているはずなのに、全く意味がわからない。
そっちがどっちなのかもよくわからないし、浮いた話?決め手?まさか佐原と付き合ってるとでも思ってるのか...?
だが、横抱きと歩きづらそうにしているだけでそんな発想になるか?
「言っておくが、警部とは付き合ってないぞ?」
一応否定すると、とんでもない発言が飛び出した。
「えっ?でもヤったんだろ?」
「ヤっ...!?」
な、なんでバレ...!?っていうかなんでそんな事が噂になってんだよ...!!
◇◇◇
(佐原視点)
「いやー、すごい噂になってますね!」
お酒の席で、影山さんが楽しそうにビールを呷る。
今日は俺と姫崎さんの奢りでの飲み会だ。
本当はお店が決まったら、という感じだったのだが、噂が広まりすぎて急遽今日になり、結局いつもの店で飲んでいる。
「なんでこんな広まってんだよ...!」
姫崎さんが眉間に思いっきり皺を寄せ、空のお猪口をテーブルに叩きつけた。
「良くも悪くも目立ちますからねー、姫崎さん」
「だからっておかしいだろ!」
「で、ほんとのところどうなんですか?」
「喧嘩売ってんなら買うぞ?」
影山さんは今日も絶好調で、ここぞとばかりに揶揄っている。姫崎さんも酔っ払っているからか、喧嘩っ早い。
いや、手が早いのは酔ってない時もそうか。
「姫崎さんっ、飲み過ぎですよっ」
「ああ!?元はと言えばお前の所為だろ!」
はいっ、ごめんなさいっ!
ピシャリと怒鳴られ、思わず身を縮める。
俺が一度でやめられていたら、こんなことにはなっていなかっただろう。
でも仕方なくないですか?あんなにエロい姫崎さん目の前にして止まれる人がいたら教えてほしいんですけど!
「あれ、もう隠さない感じですか?」
姫崎さんが敬語を使っていないことを言っているんだろう。でも多分姫崎さんは気づいてない。
「あの、皆さんも敬語じゃなくていいですよ?」
なんとなく言うタイミングがなかったが、別にこだわりはない。役職では上だが、皆さんの方が年上だし先輩なのだから。
「俺はこのままでいいですよー。一人だけに敬語なくすとかそんな器用なことできないし」
「俺も...、このままで。なんか今更タメ口っていうのも違和感っていうか」
「私も咄嗟の時間違えてしまうかもしれないので、このままでお願いします」
影山さんも千葉さんも神野さんも敬語のままで、ということだったが、不思議と距離をとられた感じはしない。
影山さんは最初からフレンドリーだったし、千葉さんもカチカチの敬語、って感じではない。神野さんは多分嘘だろうけど、俺を立ててくれているのがわかる。
「おい!お前の所為なんだから責任もって全員に否定してこい!」
姫崎さんは話を聞いていなかったのか、自分のお猪口にお酒を注ぎ、それを飲みながらまた怒鳴っている。
「うわ、横暴~」
「うるせえ!じゃあ他になんかいい方法あんのか!?」
「......あの、いっそ噂を本当にするっていうのはどうですか!?」
酔っ払ってても、言質とったもん勝ちだよね!?
「却下!」
だが、一瞬で断られてしまった。
「そんなぁ」
「却下に決まってんだろ!」
「こいつめっちゃ酔ってんな。記憶なくなるんじゃないか?」
怒鳴る姫崎さんを見て、呆れたように千葉さんがぼそりと呟く。
「酔ってないって言ってるだろ!もっと酒よこせ!」
「俺と付き合ってくれたらいくらでも飲ませてあげます!」
チャンスだ!と思い、はい!っと手を挙げてそう言う。
「お!警部攻めますね!」
「付き合わんって言ってるだろ!強姦魔め!」
「わー!姫崎さん何言ってんですかっ」
ここが居酒屋だってこと忘れてません!?
ぎくりとする単語を叫ばれ、慌てて止める。
「えー、警部、犯罪はダメですよ?」
「してませんからっ」
そう。あれは完全に合意だったと思う。だって、言葉では嫌だとか、やめてとか言ってたけど、顔は完全に嫌がってなかった。
パニックにも陥らなかったし、セックスが苦手な姫崎さんが俺には触られても気持ち悪くないって言ってたし!
だからあれだ。嫌よ嫌よも好きのうち。
絶対俺を好きだと言わせてみせる!
21
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
[BL]デキソコナイ
明日葉 ゆゐ
BL
特別進学クラスの優等生の喫煙現場に遭遇してしまった校内一の問題児。見ていない振りをして立ち去ろうとするが、なぜか優等生に怪我を負わされ、手当てのために家に連れて行かれることに。決して交わることのなかった2人の不思議な関係が始まる。(別サイトに投稿していた作品になります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる