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第一章

第10話 私のお姉ちゃん

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 私には2つ上にお姉ちゃんがいる。

 お姉ちゃんは、小さな頃からしっかり者で器用になんでもこなせる私の憧れだった。
 でも同時に、しっかりしていて優しく可愛いお姉ちゃんが羨ましい、お姉ちゃんは私が欲しい物を全部持っていてずるいって思ってた。

 だって、私はお姉ちゃんのようにしっかりしてないから、お勉強だって遊びだって直ぐに飽きて何でも途中で投げ出してしまう。だから、両親からはいつもこう言われる。


「少しはお姉ちゃんのように集中してやりなさい。」って。


 私はそう言われるのが凄く嫌だった。
 そんなの出来るものならとっくにやっているわけで…
 どんなに頑張っても出来ないものはできないのだ。

 両親は出来るお姉ちゃんを基準に考えるから、出来ない私を認められなかったのかもしれない。その結果のあの言葉なのだろう。

 出来ないことを出来なくていいと認めてくれるのは、皮肉にも比較対象のお姉ちゃんだけだった。


 それから、お姉ちゃんはとっても可愛らしい。

 見た目ももちろん可愛らしいのだが、それだけではなくてあくまで雰囲気だけだけど、私を例えるなら元気のいいちんちくりんな珍獣で、一方でお姉ちゃんを例えるとふわふわな妖精さん。

 前述した通り、見た目だってちいさくて目がパッチリしていてとても可愛らしい。そんな香乃果お姉ちゃんは誰が見ても、庇護欲をそそられる可愛らしさだった。

 見た目だけなら、お姉ちゃんに瓜生二つな私も負けてないくらいには可愛いと思う。なんならアイドルの某坂道グループの子達にも負けてないはず……

 いや、流石にそれは言いすぎたかも…

 でも、子供の頃から街角スナップショットや双子モデル等のお誘いは絶えなかったので、それなりに、そこそこ可愛いとは自負している。


 双子といえば、私達はよく双子に間違えられる。

 子供の頃から、何でももりもり沢山食べてよく寝てよく遊ぶ私は、お陰様でスクスクと育ち、平均よりも身体が大きかった。そんな私とは対極のお姉ちゃんは、お淑やかで大人しくてとても女の子らしかったし、食べる量も女の子らしかったので、同世代の平均よりも少し小柄だった。

 だから、私が小学生になるまでは、2つ上のお姉ちゃんと私の身体の大きさはほぼ同じだったので、同じ服に同じ髪型をしていたら親でも見分けるのが難しい程、お姉ちゃんと私の見た目はとてもよく似ていた。

 パッと見、見た目も背格好もよく似ているから、お母さんも流行りの双子コーデを積極的に好んでさせるので、周りからはよく双子に間違えられていたけど、似ているのは見た目だけで性格はまるで真逆。


 末っ子気質なお転婆で活発な男勝りな私。
 大人しくてふわふわした雰囲気の気の優しいお姉ちゃん。


 そして、優しいお姉ちゃんは末っ子気質で我儘放題の私の気持ちをいつも優先してくれた。

 ひとつのものを半分この時は必ず大きい方をくれるし、おやつが足りなければいつも分けてくれたし、勉強をしていても私が遊んでと言えば中断して遊んでくれた。

 お母さんが色違いのお揃いで買ってきた洋服やアクセサリーだって、欲しい方を先に選ばせてくれたし、たまに欲しい物が被った時には譲ってくれた。お姉ちゃんに与えられた物だって欲しいと言えばくれたし、飽きれば私の物と交換だってしてくれた。

 だから私は小さい時からお姉ちゃんが大好きで、いつだってお姉ちゃんにくっついていたかった。
 幼馴染みんな一緒にいる時、私もお姉ちゃん達と遊びたくて、お姉ちゃんの方に行こうとすると、いつも「穂乃果はまだ小さいからもう少ししたら」って、同い年の優とお母さん達と一緒にいなさいって言われていた。

 そういう時、お姉ちゃんの傍には、いつもさとくんとわっくんがいた。

 さとくんは3つ上のお隣のお兄ちゃんで、他の人と違って私には優しくなかった。さとくん以外は、みんな私に優しくしてくれるのに、さとくんだけは、いつも私に「あまりわがままいうな。」とか「このを困らせたらいけない。」とか「渉からおやつを取り上げるな。」とか、口うるさくお小言を言うし、私がお姉ちゃんに近づくと睨んで来るから苦手だった。でもお姉ちゃんには凄く優しくて、軽口を言い合いながらも、なんだかんだお姉ちゃんを優先していたのはなんでなんだろう。

 わっくんはお姉ちゃんみたいに優しくて、私が頂戴っていえば、お姉ちゃんみたいに何でもくれた。
 ひとつ上なのに甘えたで泣き虫ですぐ泣くから、弟?家来?みたいだなって思ってた。それに虐めすぎて泣いても、お姉ちゃんがいつもわっくんにやってるのと同じことをしてあげると、すぐに泣き止むから扱いやすかった。
 そんなわっくんもお姉ちゃんが大好きなのか、お姉ちゃんにベッタリだった。

 そんなふたりのお兄ちゃん達に大事にされているお姉ちゃんはずるい。
 私だって、お兄ちゃん達に大事にされてチヤホヤされたい。

 お姉ちゃんばかりずるい。
 でも、さとくんは厳しいから嫌。

 それにさとくんはお姉ちゃんを大事にしているから、きっとお姉ちゃんに我儘いって甘えている私の事を大事にしてくれるわけない。

 だったら、私はわっくんに大事にされたい。わっくんはお姉ちゃんみたいに優しいし、きっと私の事を甘やかしてくれるはずだ。

 だから、お母さんに「ふたりにとっての王子様は誰?」と聞かれた時に、私は迷わずわっくんって言った。

 お姉ちゃんにはさとくんという王子さまがいるのだから、わっくんは私の王子さまになって、私を大事にしなきゃいけないと思った。

 それなのに、お姉ちゃんの王子さまもわっくんがいいって……

 なんでお姉ちゃんもわっくんなの?
 さとくんがいるじゃん!
 わっくんは私の王子さまなのに。

 お姉ちゃんが私を優先してくれなかったのは、後にも先にもこれだけ。
 だから、本当は譲ってあげるべきなんだろうけど、これだけは私も絶対に譲れなかった。

 その代わりに、私はお姉ちゃんに我儘を言うのを辞める事にしたし、お姉ちゃんの気持ちも考えるようにした。
 無理やりお姉ちゃんに物を強請ったりするのも辞めた。

 それから、私はわっくんに大好きアピールを頑張った。
 お姉ちゃんからだけでなく、わっくんからもおやつを奪ったりするのを辞めたし、我儘も極力言わないようにした。

 そうしたら、私の事も見てくれるようになるって思ってた。
 だけど、わっくんはお姉ちゃんしか見ていなかった。
 お姉ちゃんばかり目で追って、お姉ちゃんとばかり一緒にいた。
 わっくんの目にはお姉ちゃんしか映っていない、そんなの誰が見てもわかるくらい、わっくんはお姉ちゃんが大好きだったのだ。


 そんなある日、突然、仲の良かったお姉ちゃんとわっくんが喧嘩をした。
 学校の前で、今まで一度もわっくんの事を叩いたことがなかったお姉ちゃんが、わっくんを突き飛ばして叩いたのだ。

 わっくんは突然の事に吃驚したのか、塞ぎ込んでしまった。

 あれから体調を崩したお姉ちゃんは、私達と一緒に登校しなくなり、わっくんと顔を合わせない日が1週間程続いた。

 だから、その間に私はお姉ちゃんの代わりになろうと思った。

 わっくんが淋しがったら、お姉ちゃんがやってた通りに、抱っこして撫で撫でして、添い寝をしてあげた。

 最初は「このちゃん」って言って泣いていたけど、「お姉ちゃんはわっくんが嫌いになっちゃったけど、ほのはわっくんが大好きだよ。これからはほのが一緒にいるよ」
 ってお姉ちゃんがいない間、何度も言ってるうちにわっくんも諦めたのか、お姉ちゃんじゃなくて私に懐くようになった。

 それからは、いつもは聞き流していたわっくんの話をちゃんと聞くようにした。
 よくわからない話にも話を合わせて相槌も打ったし、「このちゃんとやったやつ」って思い出話をするのも、「それ、ほのとやったじゃん」って言い直してた。
 最初は否定してたわっくんも、次第にそれが私との思い出だって思うようになって、徐々にわっくんはお姉ちゃんじゃなくて私の傍にいてくれるようになった。

 でも、嘘はついてない。

 一緒にやった訳じゃないけど、お姉ちゃんとわっくんがやってる、その時その場には私もいたんだから、私とやったって言っても問題ないと思っていた。
 でも、それが後々どんな事になるか、この時の幼稚で稚拙で自分勝手な私は考えもしなかった。

 ただ、わっくんが私と一緒にいてくれるようになった、その事実だけが満足だった。

 お姉ちゃんがわっくんを避けていた1週間の間に、私とわっくんの距離はグッと縮まってとても嬉しかったし、相変わらず優しくしてくれた。わっくんは私の王子さまだって子供の頃にお母さんから聞いた時に決めていたから、これでずっと一緒に居られると思っていた。


 花冠だって、私にくれると思っていたのに…
 それなのに……

 あの花冠は最初からお姉ちゃんのものだった。


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