73 / 75
本編
71
しおりを挟む
旅立ちの日、大神殿には狼神様と八乙女が集まった。
しかし、狼神の表情は暗かった。そしてもう一つ不可解なことがある。
秦羽の姿が見当たらない。朱邑を見るも、朱邑も狼神様と同じ表情をしていた。
(秦羽に何かあったのか?)
聞きたいけど、声をかけられる状況ではなかった。
大神殿の神棚の前に狼神様が一列に並ぶと、朔怜様が依咲那様に耳うちで何かを言っている。
そして、咲怜様が一歩前へ出ると、静かに口を開いた。
「先日の身を捧げる儀式で秦羽が惚れ薬を使っていた。隠して天界から持ってきていたようだ。香油に混ぜて誤魔化そうとしていた。違反行為が見つかった場合、有無を言わせず追放となっている」
秦羽が惚れ薬を!? 耳を疑うその内容に八乙女がどよめいた。とても想像が出来ない。何かの間違いだと思いたい。しかし、紛れもない事実から目を背け留わけにはいかない。
「秦羽を追放した」
ハッキリと、言い放った。八乙女が息を呑んだ。朱邑は堪えきれない涙を流していた。
そこからは輝惺様に代わり、話しを続ける。
「私達は、運命の番としか番えない。それには理由がある。その巫子は神の子を授かることが出来る特異体質なのだ」
———特異体質。
今までそんなのは誰も話さなかった。ただ、その『運命』に導かれてきたのだと思っていた。
改めて自分の存在意義を確かめることとなる。
下腹に手をやる。
ここに輝惺様との子が……。
今は何も分からないが、きっとその内、腹が出て子が元気に動き回る。それができる体だからこそ、番になれたのだ。
秦羽は規則を破り、依咲那様と番になろうとした。しかし、そんな薬はただの薬でしかない。狼神相手に効くわけはない。
追放と言ってもどこに行ったのか……聞いてみたが、頑なに教えてもらえなかった。
「知らない方が良い」と言うだけだ。
それ以上は僕たちにも追いようが無かった。秦羽は既にここにはいない。
なんともいえない雰囲気が大神殿に流れた。
狼神様は半ば強引に秦羽の話を切り替えた。
「では、地上界へ旅立つ凪、そして朱邑はこちらへ」
納得できたわけではないが、仕方なく二人が指示された場所へと移動する。
前に一度見た光景だ。
須凰が地上界へ旅立つ時もこんな感じだった。
仲間との別れは何度経験しても慣れないだろう。
「ん? 凪、体が熱いようだが、体調が悪いのか?」
輝惺様が凪の異変に気づいた。
「はい、でも大丈夫です。少し熱っぽいだけですから」
凪も返すが、何かがおかしい。
しかし麿衣様が近寄ると、その熱が何なのか直ぐに分かった。
「凪? もしかして、発情している?」
そう、凪は発情していたのだ。
しかし、狼神の表情は暗かった。そしてもう一つ不可解なことがある。
秦羽の姿が見当たらない。朱邑を見るも、朱邑も狼神様と同じ表情をしていた。
(秦羽に何かあったのか?)
聞きたいけど、声をかけられる状況ではなかった。
大神殿の神棚の前に狼神様が一列に並ぶと、朔怜様が依咲那様に耳うちで何かを言っている。
そして、咲怜様が一歩前へ出ると、静かに口を開いた。
「先日の身を捧げる儀式で秦羽が惚れ薬を使っていた。隠して天界から持ってきていたようだ。香油に混ぜて誤魔化そうとしていた。違反行為が見つかった場合、有無を言わせず追放となっている」
秦羽が惚れ薬を!? 耳を疑うその内容に八乙女がどよめいた。とても想像が出来ない。何かの間違いだと思いたい。しかし、紛れもない事実から目を背け留わけにはいかない。
「秦羽を追放した」
ハッキリと、言い放った。八乙女が息を呑んだ。朱邑は堪えきれない涙を流していた。
そこからは輝惺様に代わり、話しを続ける。
「私達は、運命の番としか番えない。それには理由がある。その巫子は神の子を授かることが出来る特異体質なのだ」
———特異体質。
今までそんなのは誰も話さなかった。ただ、その『運命』に導かれてきたのだと思っていた。
改めて自分の存在意義を確かめることとなる。
下腹に手をやる。
ここに輝惺様との子が……。
今は何も分からないが、きっとその内、腹が出て子が元気に動き回る。それができる体だからこそ、番になれたのだ。
秦羽は規則を破り、依咲那様と番になろうとした。しかし、そんな薬はただの薬でしかない。狼神相手に効くわけはない。
追放と言ってもどこに行ったのか……聞いてみたが、頑なに教えてもらえなかった。
「知らない方が良い」と言うだけだ。
それ以上は僕たちにも追いようが無かった。秦羽は既にここにはいない。
なんともいえない雰囲気が大神殿に流れた。
狼神様は半ば強引に秦羽の話を切り替えた。
「では、地上界へ旅立つ凪、そして朱邑はこちらへ」
納得できたわけではないが、仕方なく二人が指示された場所へと移動する。
前に一度見た光景だ。
須凰が地上界へ旅立つ時もこんな感じだった。
仲間との別れは何度経験しても慣れないだろう。
「ん? 凪、体が熱いようだが、体調が悪いのか?」
輝惺様が凪の異変に気づいた。
「はい、でも大丈夫です。少し熱っぽいだけですから」
凪も返すが、何かがおかしい。
しかし麿衣様が近寄ると、その熱が何なのか直ぐに分かった。
「凪? もしかして、発情している?」
そう、凪は発情していたのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
408
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる