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本編

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 旅立ちの日、大神殿には狼神様と八乙女が集まった。

 しかし、狼神の表情は暗かった。そしてもう一つ不可解なことがある。

 秦羽の姿が見当たらない。朱邑を見るも、朱邑も狼神様と同じ表情をしていた。
 
(秦羽に何かあったのか?)
 聞きたいけど、声をかけられる状況ではなかった。

 大神殿の神棚の前に狼神様が一列に並ぶと、朔怜様が依咲那様に耳うちで何かを言っている。

 そして、咲怜様が一歩前へ出ると、静かに口を開いた。

「先日の身を捧げる儀式で秦羽が惚れ薬を使っていた。隠して天界から持ってきていたようだ。香油に混ぜて誤魔化そうとしていた。違反行為が見つかった場合、有無を言わせず追放となっている」

 秦羽が惚れ薬を!? 耳を疑うその内容に八乙女がどよめいた。とても想像が出来ない。何かの間違いだと思いたい。しかし、紛れもない事実から目を背け留わけにはいかない。


「秦羽を追放した」

 ハッキリと、言い放った。八乙女が息を呑んだ。朱邑は堪えきれない涙を流していた。


 そこからは輝惺様に代わり、話しを続ける。

「私達は、運命の番としか番えない。それには理由がある。その巫子は神の子を授かることが出来る特異体質なのだ」

———特異体質。

 今までそんなのは誰も話さなかった。ただ、その『運命』に導かれてきたのだと思っていた。

 改めて自分の存在意義を確かめることとなる。

 下腹に手をやる。

 ここに輝惺様との子が……。

 今は何も分からないが、きっとその内、腹が出て子が元気に動き回る。それができる体だからこそ、番になれたのだ。


 秦羽は規則を破り、依咲那様と番になろうとした。しかし、そんな薬はただの薬でしかない。狼神相手に効くわけはない。

 追放と言ってもどこに行ったのか……聞いてみたが、頑なに教えてもらえなかった。

「知らない方が良い」と言うだけだ。

 それ以上は僕たちにも追いようが無かった。秦羽は既にここにはいない。

 なんともいえない雰囲気が大神殿に流れた。

 狼神様は半ば強引に秦羽の話を切り替えた。
「では、地上界へ旅立つ凪、そして朱邑はこちらへ」

 納得できたわけではないが、仕方なく二人が指示された場所へと移動する。

 前に一度見た光景だ。

 須凰が地上界へ旅立つ時もこんな感じだった。

 仲間との別れは何度経験しても慣れないだろう。


「ん? 凪、体が熱いようだが、体調が悪いのか?」

 輝惺様が凪の異変に気づいた。

「はい、でも大丈夫です。少し熱っぽいだけですから」

 凪も返すが、何かがおかしい。

 しかし麿衣様が近寄ると、その熱が何なのか直ぐに分かった。

「凪? もしかして、発情している?」

 そう、凪は発情していたのだ。
 
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