【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
74 / 75
本編

72

しおりを挟む
 身を捧げる儀式から五日も経っているというのに、凪は今頃になってヒートを起こした。実はずっとモヤモヤするような体の疼きがあったという。

「何故、言ってくれなかった?」
 麿衣様が言うと、本当に自覚症状としても違和感を覚える程度にしかなく、番になれなかったショックから来たものだと思っていたらしい。

「ずっと僅かに体の異変は感じていたけど、旅立ちの日まで麿衣様との時間を優先したくて言い出せなかった」
 と凪言う。

 どうやら発情しにくい体質のようで、反応はあったものの、症状が微弱で自覚も持てず、フェロモンも殆ど出ていなかったようだ。

 大地神の神殿は花に囲まれている。花の香りに混じって僅かなフェロモンの香りが誤魔化されてしまっていたのかもしれない。なんて密かに思った。


「とにかく、今日の旅立ちは中止だ。麿衣、早く凪を連れて帰れ」

 朔怜様が素早く促した。

 麿衣様は凪を抱えて大神殿を後にした。

 とにかく凪は発情した。やはり運命の番だったのだ。だって、麿衣様にあれだけ愛されていたのだもの。

 朱邑も、凪の発情に喜んでいた。複雑な心境だったに違いないと思ったが、秦羽の件を間近で見てしまっただけに、ずっと気持ちが落ち込んでいたのだそうだ。でも、最後に素晴らしい瞬間に立ち会えた! と満面の笑みをみせた。

 今日の旅立ちは中止され、三日後に改めて朱邑の旅立ちを行うと決まった。

「じゃあ俺はあと三日、朔怜様と一緒にいられるんだな!?」
 無邪気に喜んでいるのは朱邑だけではない。朔怜様も朱邑の頭を思い切り撫でていた。

「わっ! ちょっ! 朔怜様ぁ! ぐちゃぐちゃになるから、止めてくださいって言ってるじゃないですかぁ」
「今は許せ! 凪のお陰で朱邑との時間が得られたのだ!! 喜ばずにいられるものか!」

 二人は犬と大型犬が戯れあっているように見える。とても息の合う二人なだけに、番じゃないのは残念だ。

「ま、俺は神の子を孕める体じゃなかったんだ。そう思えば仕方ないって諦められるよ」
 なんて笑みを絶やさず言っていた。


 そして三日後、再び大神殿に集まった。凪の頸にはくっきりと歯形が刻まれている。そんな二人にみんなから祝福の声が上がった。


 朱邑は全員から見守られながら、地上界へと旅立った。
『須凰の近くに行ってはどうか?』と、朔怜様から持ちかけたそうだが、朱邑はこれを断った。

 須凰は自らの意志で決めて、地上界で頑張っている。その須凰に甘えたくはないと。

 それよりも自分は朔怜様の雷がしっかりと見える、草原か海辺に移り住みたいと申し出た。

 朱邑は最後まで笑顔だった。なのでみんなも笑顔で見送った。


 後から聞いた話には、依咲那様は秦羽が薬を持っていたのは初めから……風神の神殿に迎え入れた直ぐから知っていたようだ。でも、秦羽は使わないと信じてソッとしておいた。アレを使わせたのは自分にも責任があると、追放した後、随分と落ち込んでいたらしい。

 秦羽は過ちを犯してしまった。輝惺様が言うには、依咲那様は慈悲深い人だから、きっと先に地上界へ送っただけだろう、とのことだった。真実かどうかは分からないけれど、僕はその意見を信じることにした。

 それ以上の事は聞けなかった。地上界で心を入れ替えて頑張っていくだろうと信じている。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。  オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。  そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。 アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。  そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。 二人の想いは無事通じ合うのか。 現在、スピンオフ作品の ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...