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本編

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 蘭恋は次の日に目覚めたものの、しばらくは火の神の神殿からは出て来なかった。

 数日の間は、本人も神殿の外に出るのが怖いと言っていたようだけど、煬源ようげん様のほうが狼狽し酷く沈んでいて、とても外には出せないと言っているようだ。

 雷神・朔怜ざれい様から神界でいるうちは安心だろうと言っ他そうだが、それでもしばらくは無理そうだと話していた。

「煬源は、勿論これまでの巫子も大切にしてきたけど、蘭恋は特別のようだ。あんなにも独占欲の強さは見たことがない」

 輝惺様が言う。

 それならば、蘭恋だってそうだ。初めこそ火の神様を怖がっていたが、今は僕にハッキリと煬源様が好きだと断言している。

「……相思相愛なんですね」

「そのようだな。煬源は『運命の番』に違いないとまで言っているらしい」

「そうなんですか!?」

 朔怜様が煬源様のあまりの溺愛ぶりに驚いていると言って、輝惺様が笑った。


 八乙女としては、蘭恋に早く朝拝に出てきてほしいと思っているけど、それは言わないでおいた。煬源様が蘭恋をそれほどまでに大切にしているのだ。きっと蘭恋も二人きりの時間を楽しんでいるに違いない。

(また、朝拝へ来たときは色々話を聞かなくちゃ)

 一先ず蘭恋は回復しているとわかっただけでも安心だ。

「如月、今日は大地神の神殿へ行くぞ」

「そうなんですか? 僕も行ってもいいですか?」

「勿論だ。二人で来るようにと言われている。なんでも新しいお茶を飲ませてくれると言っていた」

「それは楽しみですね!」

 神殿で記録と片付けを終えると、直ぐに出発した。

 大地神の神殿に行くのは久しぶりだ。今度こそは花畑もお茶会も楽しみたい。

 輝惺様と大地神の神殿へ着くと、麿衣様と凪が暖かい日向でのんびりとくつろいで居る……と思ったが、麿衣様が凪を自分の前に抱えて座っている。何をしているのだろう。

 近づいてみると、麿衣様が凪の毛繕いをしていた。

(羊って、毛繕いが必要だっけ?)

 と思っていたら、麿衣様が穏やかに笑って「凪は髪がクルンクルンだから、直ぐに絡まってしまうんだよ」と言った。

 凪も当然のように麿衣様の前に鎮座し、気持ちよさそうに頭を委ねている。陽だまりの中で今にも眠ってしまいそうだ。

 それを見た輝惺様も毛繕いに興味を持ったらしく、麿衣様の隣に座り、一緒になって凪の頭の毛繕いを始めた。

 僕は麿衣様の準備してくれたお茶を飲みながら、花畑を眺めて過ごした。

 蘭恋も早くここへ連れていたい。

 そしたら、きっととても癒される。

 後でお花のお茶をもらって、火の神の神殿まで届けようと思った。
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