【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
44 / 75
本編

42

しおりを挟む
 輝惺様はなかなか帰ってこなかった。

 火の神の神殿で、何が起こっているのだろうか。

 気になりながらも夕食の準備に取り掛かっていた。

 結局、輝惺様が帰ってきた時、外は暗くなっていた。

「如月、直ぐにみそぎの準備を」

「かしこまりました!」

 大急ぎで神殿から輝惺様の真っ白の襦袢と数珠を持ち出した。

 各神殿の裏には禊用の滝がある。

 輝惺様は既に滝に向かっていた。

 後から追いかける形で神殿の裏へ行くと、あの時と同じような邪気を感じた。

 一瞬で生々しく思い出した。

 闇の神の神殿でいた時、亜玖留様の中に入っていた輝惺様が、黄泉の国から帰ってきた時に纏っていた邪気だ。

 輝惺様は素早く着替え、滝へ入ってくる。

 僕も手を合わせて一緒に祈った。

 邪気が祓われるまで、そんなに時間は掛からなかった。

 黄泉の国はたまに送り込まれた罪人が暴動を起こすと聞いたことがあるが、それなのだろうか……。

 とにかく輝惺様から説明されるまでは待つしかない。

 滝のそばで待っていると、しばらくして輝惺様が出てきた。

「何が……あったのですか?」

「蘭恋が怪我を負っていた。煬源が罪人を黄泉の国へ送り、帰ろうとした時だった。いつもは連れて行かない蘭恋を連れていたそうだ」

 その罪人が隙を見て、黄泉の国から脱走しようとしたらしい。

 煬源様に襲い掛かろうとしたのを、いち早く気づいた蘭恋が止めに入った為に、その罪人にやられてしまったのだと言う。

「それで、蘭恋は!?」

 真正面からまともに襲い掛かられたらしい。ケガがかなり酷かった。

 煬源がその場は収めたが、蘭恋のケガを治すことはできない。それで輝惺様を呼んだというわけだった。

「……。大丈夫だ、もう心配いらない。蘭恋の命に別状はないし、傷も残らないように治してきた」

「よかった……」

 煬源様は、地上界へ行ったことのない蘭恋を連れて行ってあげていたらしい。

 その出先で罪人を見つけた。

 黄泉の国へ蘭恋を連れて行きたくはなかったが、状況的に仕方なかった。

「しかし、今は煬源の方が落ち込んでいる」

 煬源様、蘭恋にケガを負わせてしまった責任感もあるだろうけど……。一番やはり蘭恋が大切だからだ。

「蘭恋は、もう元気なんですか?」

「今は寝ている。体も意識もショックを受けているから、いつ目が覚めるかは分からない。煬源はそれで余計に……」

「そう……ですか……」

 助かったとはいえ、襲われた時のことを思うと胸が苦しくなった。

 早く目覚めますように、と何度も祈りながら眠りについた。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...