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本編

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 狼神様の勾玉は体の小さな八乙女なら、両手じゃないと治らないほどの大きさがある。

 それを一人で磨き上げるのは至難の技だ。

 しかも時間が迫っている。

 もう輝惺様と亜玖瑠様を大神殿まで移動させるために、狼神様が向かってしまった。

 でもどうしても僕一人で輝惺様の勾玉を磨き上げたい。

 既に亜玖瑠様のは完成が近い。急がなくては、間に合わないなんて許されない。

「如月、頑張って!!」

 八乙女からも応援の声が飛んでくる。

 額から流れる汗も無視して、ひたすら輝惺様を想い、日長石を磨き続けた。


「亜玖瑠様の、これでどうですか?」

 須凰が天袮様に尋ねる。

「ふむ……。良し、これなら大丈夫だ」

 ワッと歓声が上がる。

「後は輝惺様のだけね。如月、どう?」

「うん、朔怜様と天袮様がほとんど整えてくれているから……もう少し磨けば……」

 一人でやってる場合じゃないとは分かっている。それでもみんな咎めもせずに見守ってくれている。

 なんとしてでも、輝惺様が大神殿に運ばれるまでに完成させたい!!

 狼神様が貸してくれた領布で無心で磨き上げていると、石がどんどんクリアになっていくのが分かる。

 光の神だから、光を放つほどの透明感と輝きを持たせたい。

 輝惺様の手首につけても見劣りしないように作り上げたい。

 その気持ちだけで手を動かすことに専念した。

「……うん、如月。これで大丈夫だ」

 天袮様が覗き込んで勾玉を手に取る。

「わぁ! キレイ~」

 八乙女からも口々に声が上がった。


「おい! 準備はどうだ?」

 咲怜様の声が神殿に響く。どうやら輝惺様と亜玖瑠様が大神殿へ到着したようだ。

「今、できました!!」

 震える声で返事をすると、狼神様が四人とも帰ってきた。

「よし! じゃあ、急いで行こう」

 麿衣様が言うとそれぞれの巫子を抱えて滝を飛び越えた。

 僕と月詠は咲怜様と煬源様が抱えてくれた。

 大神殿への鳥居を潜り、参道を進むと、いつも朝拝を行っている拝殿がある。

 そしてその奥に聳え立っているのが大神殿だ。

 ここには八乙女は初めて入る。

 全員が緊張の面持ちで七人で固まって狼神様に続き、奥へと入っていった。

 長い通路を進むと、突然開けた空間が見えてくる。

 真正面には大きな神棚があり、ここだけ空気が違っているように感じた。

「スゴい……」

 立ち尽くし、辺り一面を見渡す。

 高い天井には狼神様それぞれの紋が描かれている。

 そしてどう言うわけか、窓もないこの空間はとても明るい。

 神々しいという表現がピッタリの場所だった。

 輝惺様と亜玖瑠様は神棚の前に寝かされていた。さっき磨いた勾玉は、それぞれの手で支えるようにし、腹の上に置かれていた。

 亜玖瑠様の入った輝惺様の体がとても痩せているように見える。頬も痩けている。

 顔色のない輝惺様の顔を見るのは辛いものがあった。

「じゃあ、始める。八乙女は少し後ろの方で座って見ていろ」

「はい!」

 煬源様の指示に従い、入口付近まで下がって一列に正座をした。

 狼神様は輝惺様と亜玖瑠様を囲むように立ち、それぞれの勾玉を手に持つと礼拝が始まった。

 五人揃って唱える祓詞が大神殿に響く。

 迫力も去る事ながら、咲怜様と煬源様の力強い声や依咲那様と天袮様の艶美な声、そこに麿衣様の優しい響きのハーモニーが加わる。

 うっとりとそれに聞き入っていた。

 五人でこんなにも聞き惚れてしまうのならば、七人揃えば一体どんなに素晴らしいだろうか。考えただけでも鳥肌が立ちそうだ。

 何度か繰り返し唱えている。

 きっとこの状況的に、すぐにはお互いの体には戻れないのだろう。

 五人の祓詞は、繰り返されるほどに力が込められた。
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