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本編
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どのくらいの時が経っただろうか……。
ようやく狼神様達による礼拝が終わった。
「……あとは、二人に賭けるしかない」
依咲那様が呟いた。
僕達、八乙女が座っている場所からは輝惺様と亜玖瑠様の様子は伺えない。
神殿の中が静寂に包まれる。
誰も動こうとはしなかった。元の体に戻りますように……と祈る時間だけが流れている。
八乙女のみんなは手を合わせ、二人に向かって拝んでいる。
狼神様はその場に立ったまま、見守っていた。
さっきまで狼神様の祓詞が響いていたから、余計に静かに感じる。
心の中で強く願う。
(輝惺様……亜玖瑠様……、どうかお目覚めを……)
それでも、すぐには目覚めてくれない。
隣で蘭恋が啜り泣いている。
もし、失敗しているとすれば……二人はどうなってしまうのだろう……。
考えたくもない不安ばかりが脳裏を過ぎる。
蘭恋の背中を摩りながら、自分に言い聞かせるように「大丈夫」と囁いた。
狼神様は祈る姿勢を保ったまま、じっと二人の目覚めを待っている。
まだ、諦めなくていい。
もし本当にダメなら、狼神様達があの姿勢をやめるだろう。
そのくらいしか輝惺様と亜玖瑠様を信じる手段がなかった。
神殿の天井から、光が降り注いだ。それは輝惺様と亜玖瑠様の腹の上に置かれた勾玉に降り注ぐ。
「なに……あれ……」
凪が震える声で呟く。
突然の状況に、八乙女だけ理解できていない。
まさか……。また嫌な考えが生まれてしまう。
(どうか、二人を連れて行かないで……)
須凰も朱邑もギュッと目を閉じて祈っていた。
それに習うように、月詠も目を閉じて祈り始める。
降り注ぐ光は、勾玉の中に吸い込まれるように入っていく。
そして……、遂に光が漏れ始めた。
フッと咲怜様の口角が上がった気がする。
勾玉から漏れた光は四方八方に飛び散った。
部屋全体を光が包む。眩しくて目も開けられない。二人はどうなってしまうのか……。
狼髪様は目も細めずにその場から動こうともしない。ただ輝惺様と亜玖瑠様を見守っているだけだ。
どうやらさっきの儀式はこの光を誘い出すものだったらしい。
ようやくその光が落ち着き始めた頃、八乙女も狼髪様の姿を確認した。
五人が両手を広げて二人の周りに円を描く。
そこだけ違う空間のような空気が漂っていた。
「さあ、来い……」
煬源様が呟く。
そのあと光は完全に勾玉の中に閉じ込められた。
あれだけ明るかった部屋が暗く感じる。
しかし、その次の瞬間、今度は勾玉から光が飛び出した。
魂の形みたいだ。
二つの光は宙を旋回し、飛び出したのとは違う方の勾玉に飛び込んだ。
(今のが、輝惺様と亜玖瑠様……?)
狼神様が、再び祓詞を読み上げる。
その時、輝惺様の体が僅かに動いた。
ようやく狼神様達による礼拝が終わった。
「……あとは、二人に賭けるしかない」
依咲那様が呟いた。
僕達、八乙女が座っている場所からは輝惺様と亜玖瑠様の様子は伺えない。
神殿の中が静寂に包まれる。
誰も動こうとはしなかった。元の体に戻りますように……と祈る時間だけが流れている。
八乙女のみんなは手を合わせ、二人に向かって拝んでいる。
狼神様はその場に立ったまま、見守っていた。
さっきまで狼神様の祓詞が響いていたから、余計に静かに感じる。
心の中で強く願う。
(輝惺様……亜玖瑠様……、どうかお目覚めを……)
それでも、すぐには目覚めてくれない。
隣で蘭恋が啜り泣いている。
もし、失敗しているとすれば……二人はどうなってしまうのだろう……。
考えたくもない不安ばかりが脳裏を過ぎる。
蘭恋の背中を摩りながら、自分に言い聞かせるように「大丈夫」と囁いた。
狼神様は祈る姿勢を保ったまま、じっと二人の目覚めを待っている。
まだ、諦めなくていい。
もし本当にダメなら、狼神様達があの姿勢をやめるだろう。
そのくらいしか輝惺様と亜玖瑠様を信じる手段がなかった。
神殿の天井から、光が降り注いだ。それは輝惺様と亜玖瑠様の腹の上に置かれた勾玉に降り注ぐ。
「なに……あれ……」
凪が震える声で呟く。
突然の状況に、八乙女だけ理解できていない。
まさか……。また嫌な考えが生まれてしまう。
(どうか、二人を連れて行かないで……)
須凰も朱邑もギュッと目を閉じて祈っていた。
それに習うように、月詠も目を閉じて祈り始める。
降り注ぐ光は、勾玉の中に吸い込まれるように入っていく。
そして……、遂に光が漏れ始めた。
フッと咲怜様の口角が上がった気がする。
勾玉から漏れた光は四方八方に飛び散った。
部屋全体を光が包む。眩しくて目も開けられない。二人はどうなってしまうのか……。
狼髪様は目も細めずにその場から動こうともしない。ただ輝惺様と亜玖瑠様を見守っているだけだ。
どうやらさっきの儀式はこの光を誘い出すものだったらしい。
ようやくその光が落ち着き始めた頃、八乙女も狼髪様の姿を確認した。
五人が両手を広げて二人の周りに円を描く。
そこだけ違う空間のような空気が漂っていた。
「さあ、来い……」
煬源様が呟く。
そのあと光は完全に勾玉の中に閉じ込められた。
あれだけ明るかった部屋が暗く感じる。
しかし、その次の瞬間、今度は勾玉から光が飛び出した。
魂の形みたいだ。
二つの光は宙を旋回し、飛び出したのとは違う方の勾玉に飛び込んだ。
(今のが、輝惺様と亜玖瑠様……?)
狼神様が、再び祓詞を読み上げる。
その時、輝惺様の体が僅かに動いた。
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