【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
22 / 75
本編

20

しおりを挟む
 どのくらいの時が経っただろうか……。

 ようやく狼神様達による礼拝が終わった。

「……あとは、二人に賭けるしかない」

 依咲那様が呟いた。

 僕達、八乙女が座っている場所からは輝惺様と亜玖瑠様の様子は伺えない。

 神殿の中が静寂に包まれる。

 誰も動こうとはしなかった。元の体に戻りますように……と祈る時間だけが流れている。

 八乙女のみんなは手を合わせ、二人に向かって拝んでいる。

 狼神様はその場に立ったまま、見守っていた。

 さっきまで狼神様の祓詞が響いていたから、余計に静かに感じる。

 心の中で強く願う。
(輝惺様……亜玖瑠様……、どうかお目覚めを……)

 それでも、すぐには目覚めてくれない。

 隣で蘭恋が啜り泣いている。

 もし、失敗しているとすれば……二人はどうなってしまうのだろう……。

 考えたくもない不安ばかりが脳裏を過ぎる。

 蘭恋の背中を摩りながら、自分に言い聞かせるように「大丈夫」と囁いた。

 狼神様は祈る姿勢を保ったまま、じっと二人の目覚めを待っている。

 まだ、諦めなくていい。

 もし本当にダメなら、狼神様達があの姿勢をやめるだろう。

 そのくらいしか輝惺様と亜玖瑠様を信じる手段がなかった。

 神殿の天井から、光が降り注いだ。それは輝惺様と亜玖瑠様の腹の上に置かれた勾玉に降り注ぐ。

「なに……あれ……」

 凪が震える声で呟く。

 突然の状況に、八乙女だけ理解できていない。

 まさか……。また嫌な考えが生まれてしまう。

(どうか、二人を連れて行かないで……)

 須凰も朱邑もギュッと目を閉じて祈っていた。

 それに習うように、月詠も目を閉じて祈り始める。

 降り注ぐ光は、勾玉の中に吸い込まれるように入っていく。

 そして……、遂に光が漏れ始めた。

 フッと咲怜様の口角が上がった気がする。

 勾玉から漏れた光は四方八方に飛び散った。

 部屋全体を光が包む。眩しくて目も開けられない。二人はどうなってしまうのか……。

 狼髪様は目も細めずにその場から動こうともしない。ただ輝惺様と亜玖瑠様を見守っているだけだ。

 どうやらさっきの儀式はこの光を誘い出すものだったらしい。

 ようやくその光が落ち着き始めた頃、八乙女も狼髪様の姿を確認した。

 五人が両手を広げて二人の周りに円を描く。

 そこだけ違う空間のような空気が漂っていた。

「さあ、来い……」

 煬源様が呟く。

 そのあと光は完全に勾玉の中に閉じ込められた。

 あれだけ明るかった部屋が暗く感じる。

 しかし、その次の瞬間、今度は勾玉から光が飛び出した。

 魂の形みたいだ。

 二つの光は宙を旋回し、飛び出したのとは違う方の勾玉に飛び込んだ。

(今のが、輝惺様と亜玖瑠様……?)

 狼神様が、再び祓詞を読み上げる。

 その時、輝惺様の体が僅かに動いた。


 


しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。  オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。  そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。 アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。  そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。 二人の想いは無事通じ合うのか。 現在、スピンオフ作品の ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...