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其の弍拾捌

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 フッと違和感を覚えたのは、夕刻間近になった頃だった。

 朝まで抱かれ続け、力尽きていつの間にか眠っていた。目が覚めた時、体は綺麗に拭かれ、新しい夜着を着ていた。陰部まで丁寧に拭かれたと思うと恥ずかしくて仕方ない。

 たっぷりと注がれた飛龍の精液も、掻き出されている。

「ここに、飛龍様のものが入っていたのに……」
 下腹に手を添える。
 発情期ではないから妊娠もしないだろうが、せっかく自分の中に入った飛龍のものがなくなっているのは、寂しいと感じた。

 初めての経験は、恥ずかしさはあるが想像では追いつかないほどの快楽だった。
 思い出すだけで下腹の奥が疼いてしまう。
 執拗に弄られた乳首が、夜着の布地で擦れてじんとした痛みを感じる。
 そっと覗いてみると、赤く腫れていた。、
 牡丹の華は消え、代わりに乳暈の周りには飛龍の歯型がついていて、身体のあちこちに鬱血の痕が見られた。

「いつの間に、こんなに……」

 思わず赤面してしまう。これを全て飛龍に付けられたのだ。数え切れない程の飛龍の証をしばし見入ってしまった。
 勇気を出して、抱いて欲しいと言って良かった。
 これだけの愛を受け止めれば、牡丹の華も消えて当然だ。

 まだ飛龍の体温が残っている。青蝶は自分の体を抱きしめた。もう飛龍に会いたい。抱きしめられたい。
 飛龍の男らしく官能的な香りは、青蝶の心をいつでも揺さぶる。今日はいつ帰ってくるのだろう。一刻も早く……と願わずにはいられない。

 飛龍は仕事に行ったらしく既にいなかった。寝ずに行ったのだろうか。一人でこんなにも眠ってしまい、申し訳なさに苛まれる。

 気怠さと多幸感で、腹は減っていない。仕事道具もなければ何もすることはない。
 ただ、ここで飛龍の帰りを待って過ごすには、時間を持て余し過ぎている。しかし舞の練習をするほどの体力も残っていなかった。それどころか、身体の至る所が筋肉痛のように痛む。普段通りに動くのさえ困難だ。

 番になる時は青蝶の方が負担が多い。そう言われた意味を、ようやく理解した。

 寝台からも降りられず、飛龍が帰ってくるまでは体を休めるしかないと思った。
 ぼうっと部屋を眺めて過ごす。
 頭の中は飛龍でいっぱいだが、フッと思い浮かんだことがあった。

(飛龍様に抱かれ、一番濃い体液を吸収した。それならば顔に変化はないのだろうか)
 百花瘴気により枯れた肌。
 運命の番の体液をもらうことで、悪化した視力は取り戻した。それでも唾液では枯れた肌までは回復できず、半ば諦めていたのだが、あれだけの精液を貰えた今日、何か変化があってもおかしくない。

 自分の顔を触ってみると、予想通り、肌触りが全く違う。
 顔の半分以上、枯れて痣のように見えていた。肌は常に、乾燥して突っ張った感じがしていた。
 その感覚も消えている。

「肌が柔らかくなってる」

 急いで寝台のすぐ横のテーブルに置かれている、手鏡に手を伸ばした。
 自分の顔を見るのは怖い。
 これだけ期待しておいて、変わっていなければショックは大きい。

 手鏡を胸に抱き、呼吸を整えた。

(少しでも消えていますように……!!)
 念入りに願いを込め、せーので鏡と対面する。すると……。

「あっ……!!」

 鏡を極限まで近づけ、いろんな角度から肌を確認していく。

「……すごい……」

 本来の白い肌が見えるではないか。完全に元通りになったわけではないが、最近では白粉を塗っても隠れないだろうと思うくらいに酷くなっていた。それどころか、白粉も塗れないほど皮膚はカサカサに乾燥していた。

 それが、たった一度抱かれただけで、こんなにも肌が蘇っているなんて……!!

「飛龍様の言うことは正しかったんだ」

 嬉しくて自然と目頭が熱くなる。もう元になど戻らないと諦めていた。飛龍が自分を諦めないでいてくれたからこそ、また希望が持てた。本当に感謝しかない。

 そしてこの事実は、暁明シャミンの嘘を裏付ける結果でもある。
 抑制剤で発情期をコントロールし、病気の悪化を止める。もしくは遅らせる。
 そんなのはまるで見当違いな治療ではないか。

 きっと青蝶を差配できるよう、適当に作った話だったのだろう。
 飛龍から暁明の話を聞いた時は信じたくないと思ったが、今となっては、信用していた自分の方が愚かで情けない。

 何年も騙され、やりたくもない売春を行っていたが、客は優しい人が多かった。それだけはせめてもの救いだ。
 客として青蝶を利用していた人たちも、何らかの処分が下されていると聞いた。それに対しては青蝶から「少しでも刑を軽くしてあげてください」と頼みたかったのだが、飛龍にそんなことを言えるはずもなく、頷いて聞き流しただけだった。

 飛龍が帰ってくるまで、青蝶は鏡をずっと眺めていた。
 早く見てもらいたい。
 きっと飛龍が仕事に行く頃は、まだ何も変化はなかっただろうから。

「これって……抱いてもらうほどに綺麗になっていくのかな……」
 自分で呟いておいて赤面する。
 飛龍の突き刺さるような視線を思い出すだけで、陶然としてしまうのだ。
 一人の時は、なるべく思い出さないようにしようと思った青蝶だった。

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