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其の弐拾漆

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 部屋に広がる甘い香りは、香を焚いているからではなく、青蝶から放たれるフェロモンであった。

 頑なに耐えていた欲情を解放した飛龍は、このフェロモンに抗えなくなっていた。
 青蝶はそんな飛龍に気付いていないだろう。飛龍が欲のままに攻めるのは、青蝶のΩの性に当てられているからだなんて……。

 最初はもっと優しくするつもりだった。しかしこの香りに当てられると、飛龍でさえ冷静ではいられない。自分の中のαの性が運命の番を欲している。そのくらいに青蝶のフェロモンは強い。今でこれならば、発情期に入るとどうなってしまうのか……。Ωは無意識にαを誘惑する。運命の番ともなれば尚のこと。

 青蝶を目の前にすれば、皇太子などという肩書など忘れてしまう。そのくらいに飛龍は青蝶に淫蕩してる。自分がいかに青蝶に対して余裕がないかを伝えられればいいのに……そんなことを思いながら、飛龍は青蝶のより奥へ奥へと這入っていく。

「殿下、殿下……もう僕は……んんぁぁあ、はっ、ぁぁん」
「青蝶、私の名前を呼んでくれないか」
「そんな……ぁ……無礼な……」
「私が呼んで欲しいのだ」
「ふぇ……フェイロン様……」

 名前を呼ぶと、隘路を穿っている男根が固くなった。
 青蝶は体力の限界をとっくに越えていて、ただただ注がれる快楽に身を委ねるしかできない。
 飛龍の律動は苛烈を極め、腰を砕かれるほどの勢いで突き上げられた。

「はぁぁっっ!! フェイロン様、んぁぁあああっっ~~~!!」

 飛龍が強く男根を突き上げると同時に、青蝶の子宮に白濁を飛沫させた。
 腹の奥に温かいものが流れてくるのが伝わってくる。飛龍が覆い被さり、また腰を打ちつけた。
 αの吐精は長い。青蝶はその全てを自分の中で受け止めるのを嬉しく思った。
 飛龍の背中に腕を回し、自ら口付けた。

 一番濃い体液を注いでもらい、病気のことも頭の隅では気にはなっているものの、それよりも愉悦する気持ちが勝っている。
 ずっと夢見てきた願いが叶ったのだ。吐精が終わっても、離れたくないとまで思ってしまう。
 両脚で飛龍を囲う。
 孔にじんとした疼痛があるが、それも気にしていられない。

「まだ繋がっていたい」と訴えた。
 すると飛龍は目を細めて微笑み、「大丈夫だ」と言った。
 絶頂に達したものの、飛龍のものはまだ萎えてい。

 再びゆらりと腰が揺れ始めると、中で混ざり合った白濁とオメガの液が撹拌され、孔から流れ出た。また卑猥な音と共に官能の刺激を受ける。
 青蝶は、まだ夢見ごちな快楽の海に溺れていられることに喜悦した。

「んっ、んっ……はぁ……フェイロン様、好きです」
 思わず気持ちを打ち明けてしまい、自分の口を噤む。完全に無意識であった。
 今まで飛龍からの愛情を注がれるばかりで、自分の恋情など烏滸がましいと思っていた。
 しかし今日こんなふうに抱かれ、ついポロリと本音を零してしまった。

 飛龍は思わず動きをとめ、青蝶を見つめてくる。

「今……なんと……」
「え、あっ……あの……」
「もう一度、言ってくれ。青蝶」
「あの……僕は飛龍様をお慕いしていました。初めて飛龍様の前で舞を披露した時から、ずっと……」
「青蝶!! まさかっ!! そうか、そうだったのか。もっと早くに伝えて欲しかった」
「だって、僕と飛龍様ではあまりにも身分が違いすぎます。気持ちを伝えるなど、許されないと思っていました」

 飛龍は感極まったようであった。目頭から水滴が落ち、青蝶の頬で弾けた。
「やはり諦めないで良かった」
 何度も諦めようかと悩んだ。名前すらも分からない踊り子の居場所を突き止めるのに、こんなに苦戦するとは思ってもみなかった。
 もしかすると、本当は運命の番ではないのかもしれないと疑ったほどだ。

「一ヶ月後、其方を妃として正式に迎え入れる。そして、私の番になってくれ」
「飛龍様……喜んで、お受けいたします」

 今度は青蝶から涙が溢れた。
 自分に幸せな未来が待ち受けていたなんて、まだ信じられない。しかし目の前にいる飛龍の愛を体全体で受け止めた。
 夢ではない。今度こそ、現実だ。

 飛龍は朝になっても青蝶を離さないでいた。全ての行為が終わる頃、青蝶の枯れた顔の皮膚に、潤いが蘇る。
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