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再会
しおりを挟む「なんだ騒がしい奴だ。ここはモンド様の城だと知っての振る舞いか」
「己家、よいのだ。わしが呼んだのだ。ほらミーヤ、おまえの主はそこにいるぞ」
ミーヤはモンドの指差す先を見て目が点になった。
赤子が主様なのか。
何がどうなっている。いくらなんでも赤子になるなんて。そんなに魂年齢が低かったとは思わなかった。
「ねぇ、あんた驚いたでしょ。でもね、これはちょっとしたイレギュラーよ。けど、こうなったのも賢の資質が凄かったってこととも言えるのかもね」
誰だ。なんで主様を抱き寄せている。
「なんだ、なんだ、なんだ。おまえはなんだ。僕の主様に馴れ馴れしいぞ」
「こら、言葉が過ぎるぞ。誰だかわかって口を利いているのか」
「知らないよ。そんなの」
「そうかそれなら俺のことも知らぬのか」
えっ、ミーヤはまじまじと声の主を見遣りハッとした。
「す、すみません。己家親王様」
ミーヤは土下座をして床に頭をつけた。
なんて口を利いてしまったのだろう。王族にこんな口を利いたらそれこそ死罪だ。
「己家、そう脅かすな。ミーヤ、いいのだ。頭を上げなさい」
「モンド様、しかし」
「本当に大丈夫よ。私たちは王族だけどみんなと変わらないの。差別なんてしないの」
「そ、そう言われても。あの、そういうあなた様は」
「私は美月。そこの怖い顔している己家親王の娘よ」
「えええ、知らなかったとは言え本当に申し訳ありません」
勢いよく頭を下げてしまい床に額を打ちつけてしまった。
「ちょっとあんた大丈夫」
「あっ、はい。大丈夫です」
「なんだか可愛いわね。ほら、たんこぶ作っちゃって。痛かったでしょ」
美月がたんこぶのあたりを優しく撫でてくれた。なんて優しいお方だろう。癒される。あっ、王族の方にこんなことさせてはダメだ。
「僕みたいな者にそんなことしてはいけません。本当にすみませんでした」
「だからそんなに畏まらないの。もうお父様がいけなんだからね」
己家親王は頭を掻いて笑っていた。
***
まったくうるさい。
寝られないじゃないか。
「ばぶ、ばぶ、ばぶ」
文句を言い放ったはずなのに言葉が出てこなかった。そうだった、赤ちゃんだった。
賢はその事実を思い出して項垂れた。
「あら、起きちゃった。うるさかったわよね。ごめんね。あそこの仏頂面したお父様が全部いけないんだからね」
「おい、そこまで言わなくたっていいだろう。反省している」
「反省しているんだって。賢ちゃん、許してあげようか」
なんだかよくわからないが許してやろう。なんてそこまで自分は偉くない。
それにしてもよく寝た。
賢は大欠伸をして美月のおっぱいにしゃぶりつく。
「ああ、もうお腹空いちゃったの」
「こら、おまえ。嫁入り前の娘に」
「己家、少しは黙っておれ」
「すみません。モンド様」
鱈腹ミルクを飲みゲップをすると猫が一匹増えていることに気がついた。何でそんなに目を見開いているのだろう。何かおかしなことしただろうか。
んっ、猫のミルクを飲む人の子だなんておかしいか。もしもそんな場面に出くわしたら自分も驚くかもしれない。
それにしても、あの猫。どこかで見たことがあるような。
賢は記憶の抽斗を片っ端から開きまくった。
じっとみつめているうちに一匹の猫の顔と重なった。んっ、もしかして。まさか違うだろう。頭の中に浮かぶ懐かしい猫の存在。見れば見るほど似ている。
あいつは天に召された。あいつがいるはずがない。ここはあの世ではないだろう。だとしたら他人の空似か。んっ、他猫の空似か。そんなことどっちでもいい。
ミーヤなのか。おまえはミーヤなのか。
どうにも気になり気づけばミーヤに似た猫のもとへハイハイして近づいて行っていた。
デカい。こんなにデカくはなかった。
違う、自分が小さくなっているだけだ。それでも普通の猫よりは大きいだろう。
ミーヤに似た猫の背中を撫でて『おまえ、ミーヤか』と訊いたのだが実際は「ばぶ、ばぶ、ばぶ」となっていた。
「もしかしておまえがミーヤだと気づいたんじゃないのか」
えっ、今ミーヤって。やっぱりそうなのか。玉三郎、こいつミーヤなのか。美月、そうなのか。モンド、そうなのか。己家、おまえの顔怖いぞ。
全員の顔を見回して答えを待つ。
「賢、その子のことわかるの」
美月の問い掛けに頷いた。
「お、おまえ。今、頷いたな。やっぱり俺たちの言葉がわかるんだな。ならば娘の乳をいやらしい目でみていたのだろう」
「お父様。賢はそんな人じゃありません」
二人の会話を断ち切るかのようにミーヤが賢を抱きしめて叫ぶ。
「主様。僕のこと覚えていてくれたんですね。ミーヤです。ミーヤですよ。主様が僕をたくさん絵に描いてくれましたよね。そのミーヤですよ」
涙目になって嗚咽をもらすミーヤ。感極まったのか抱きしめる力が増した。
ミーヤ、ちょっと。首が締まる。おい、おい。これはまずい。ミーヤの手を叩くが気づいてくれない。『ばぶ』の一言さえ発せない。
「おい、赤子が白目をむいているぞ。ほら手を放せ」
玉三郎の言葉にミーヤはやっと状況を理解して抱きしめていた手を緩めた。
ああ生き返る。これほど空気に喜びを感じたことはない。いや、二度目だ。あそこの怖いかおした奴にやられたのを思い出す。
「おい、おまえ。今、俺のこと睨んだだろう」
「もうお父様、賢はそんなことしません」
「いやいやいや、睨んだぞ。間違いなく睨んだぞ」
「はい、はい。わかりました。もしもそうだとしたらお父様が悪いことしたからですよ」
「な、なんだと美月」
「まあ、まあ、親子喧嘩はそのへんにして」
モンドに止められて己家の顔は苦虫を嚙み潰したように映った。すぐに表情を和らげていたが間違いなく不愉快な気分であったのだろう。
「それはそうとモンド様、ミーヤをなぜ呼ばれたのですか」
「それはこの者が賢のことを心配しておってな。夢を諦めてほしくないからここへ来られるようにしてほしいと懇願しておったのだ」
そうなのか。ミーヤは自分のために。
「それじゃ私に賢の夢を見せたのはモンド様なのですか」
「まあ、そういうことだ」
「私はてっきり天の啓示かと思ったのに。占い師としてワンランクアップで来たのかと思ったのに」
「美月、そう落ち込むではない。おまえの力は以前より増しておる。大丈夫だ。だからこそわしの念が伝わったのだ。力がなければ心の念を受信することさえできぬからな」
「そうか、そうなのね」
美月の顔が晴れやかになり一瞬だけ後光が差した。美月はわかりやすい性格をしている。賢は頬を緩ませて美月のことをみつめた。美月は不意にこっちに目を向けて「賢はやっぱり私の運命の人なんだわ」ととんでもないことを口にしてキスを連発した。
お、うおっ、おい。やめろ。
な、なんだ。顔が痛いぞ。
キスでは足らず顔を嘗めまわしていた。猫の舌はざらついていて痛い。やめてくれ。
気づくと美月は己家に捕まり引き離されていた。
父親としては娘の行為に見ていられなくなったのだろう。
その代わりパンが今度は顔を嘗めてきた。
パン、おまえがなぜ嘗める。もしかして毛繕いしているつもりなのか。そう考えればこれも好意がある証拠なのかもしれない。
ここは気が済むまで我慢しよう。
そう思ったのが間違いだった。
「では、今度は僕が」
大きな舌で顔をひと嘗めされて堪らずミーヤの顎を両手で押しやった。
「もう主様、なぜ拒むのですか。僕だってこの日をずっと夢見てきたんですからね」
気持ちはわかるがもう十分だ。このままでは皮膚が擦り切れて柔らかい肌が修復不可能になりかねない。
「ミーヤ、そこまでにしなさい。賢の夢を叶えてやりたいのだろう。本当であれば夢月三滝の洞窟へ行っていなければならないところだ。ミーヤ、おまえが連れていってやりなさい。そこのパンとやらも一緒にな。そうそう美月もだ。乳が必要だからな」
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