20 / 29
美月のミルク
しおりを挟む
「モンド様」
「なんだ血相を変えてどうした。んっ、その赤子はもしや」
モンドの大きな身体がどかどかと近づいて来た。じっとみつめるや否や「間違いない。賢とやらが赤子になったのだな」と玉三郎に言い放つ。
「はい、これはいったいどういうことでしょう」
「ねぇ、ねぇ、賢は元に戻れるの。これじゃ画家の夢を叶えられないわ」
美月はモンドに詰め寄り訴えていた。目元が光って見えたのは気のせいだろうか。
「うむ、大丈夫だ。この者には夢の魂が効き過ぎているだけだ。命に関わるようなことはない。この現象はわしも久しぶりに見た。何百年前だったか記憶は定かではないがその者は立派な男となって帰っていった」
「そうなんだ。それなら賢も同じなの」
「まあそういうことだ。おそらく賢は化けるぞ」
「化け物になっちゃうの」
「違う、違う。世界に通じる有名画家になる可能性があるってことだ」
「すごい。よかった。私、死んじゃうんじゃないかって思っちゃった」
「美月、おまえは優しいな。というかこの者を好いておるのだろう。おまえの未来も少しは考えてやらねばならぬな」
「えっ」
「モンド様。娘のことはいいのです。夢月楼としてはこの者の夢をしっかり叶えてやることが使命なのです」
「まあそうだが。己家よ、お主も父親ならば娘の幸せもしっかり考えてやらねばいけないぞ。わしは悲しみのない世界にしたい。時期王となる身なのだからすべてを見通せる心広き者にならねばな」
「はい。モンド様」
流石王様だ。この国はモンドがいれば安泰のようだ。
あの大きな姿を見てしまうとどうしても恐怖を感じてしまうが心根は優しいようだ。自分も大丈夫みたいだし一安心だ。それよりも何百年前っていったい何歳なのだろう。それに立派になって帰った者ってのも気にかかる。誰のことだろう。
「ばぶ、ばぶ、ばぶ」
あっ、ダメだ。訊きたいのに口を開くと『ばぶ、ばぶ、ばぶ』になってしまう。
「賢、どうしたの。何か言いたいことがあるの。あっ、そうか。お腹が減っているんだったわね。けどどうしよう」
「美月」
「あっ、はい。モンド様」
「大丈夫だ。ちょっとこっちへおいで」
モンドに呼ばれて美月が近づいていく。
いったい何をしているのだろう。美月の頭を撫でているようだが何か意味があるのだろうか。
「あっ」
美月、どうかしたのか。
「ふむ、これでいい。美月よ、お主が賢を育ててやるのだ。お主の乳を飲んだとなればこの者の才能は一気に開花するであろう」
「モンド様、それはどういうことでしょうか。美月がその者を育てる。そんなこと。娘はまだ嫁入り前なのですよ」
「己家、わかっておる。これはこの者のためでもあるが美月のためでもある。心配するな」
「それはどういうことでしょう」
モンドは己家の問いに答えずに微笑んでいるだけだった。
美月が自分を育てる。それが才能を伸ばすことになるのか。それは凄い。ただ美月のためとはどういうことだろう。己家の問いに答えてほしかった。
「タマおじさま、賢を私のもとへお願い」
「んっ、なぜだ」
「いいから、いいから」
玉三郎に抱かれていた自分は美月の横へ下ろされた。
んっ、この匂い。これはもしかして。
ぐぅーっとお腹が鳴った。
「賢、ほら私のお乳を飲んでお腹いっぱいにして」
えっ、お乳。
やっぱりそうか。この匂いはミルクの匂いだ。気づかなかったがいつの間にか美月の乳房が膨らみを増していた。
どうしてとの思いもあったが空腹には勝てなかった。
美月のおっぱいにしゃぶりつきゴクゴクとミルクを飲んでいく。なんだか不思議な感覚だ。猫のミルクを飲んでいるだなんて。
「おい、嫁入り前の娘に何をする」
己家の怒りの孕んだ声が届くが無視を決め込んだ。今の自分にはお腹いっぱいになることが重要だ。猫の美月が母のように感じる。エロい感情はまったくなかった。これが生きるということなのかもしれない。
美月のミルクを飲むたびにエネルギーを感じた。身体に力が湧いてくる。頭がスッキリとして五感が研ぎ済まされていく。美月のミルクは何か特別なエキスが含まれているのではないだろうか。
モンドの話した才能が一気に開花すると言うのはこういうことなのかもしれない。
ああ、美味しかった。
満腹になり急に眠気を感じた。
ああ、なんだかあたたかい。もふもふな何かに包まれているようだ。そんな心地よさに賢は深い眠りへと誘われていった。
「お、遅れて申し訳ありません。僕の主様は何処に」
なんだか騒がしい奴が来たみたいだけど。まあいいや、今は眠ろう。
「なんだ血相を変えてどうした。んっ、その赤子はもしや」
モンドの大きな身体がどかどかと近づいて来た。じっとみつめるや否や「間違いない。賢とやらが赤子になったのだな」と玉三郎に言い放つ。
「はい、これはいったいどういうことでしょう」
「ねぇ、ねぇ、賢は元に戻れるの。これじゃ画家の夢を叶えられないわ」
美月はモンドに詰め寄り訴えていた。目元が光って見えたのは気のせいだろうか。
「うむ、大丈夫だ。この者には夢の魂が効き過ぎているだけだ。命に関わるようなことはない。この現象はわしも久しぶりに見た。何百年前だったか記憶は定かではないがその者は立派な男となって帰っていった」
「そうなんだ。それなら賢も同じなの」
「まあそういうことだ。おそらく賢は化けるぞ」
「化け物になっちゃうの」
「違う、違う。世界に通じる有名画家になる可能性があるってことだ」
「すごい。よかった。私、死んじゃうんじゃないかって思っちゃった」
「美月、おまえは優しいな。というかこの者を好いておるのだろう。おまえの未来も少しは考えてやらねばならぬな」
「えっ」
「モンド様。娘のことはいいのです。夢月楼としてはこの者の夢をしっかり叶えてやることが使命なのです」
「まあそうだが。己家よ、お主も父親ならば娘の幸せもしっかり考えてやらねばいけないぞ。わしは悲しみのない世界にしたい。時期王となる身なのだからすべてを見通せる心広き者にならねばな」
「はい。モンド様」
流石王様だ。この国はモンドがいれば安泰のようだ。
あの大きな姿を見てしまうとどうしても恐怖を感じてしまうが心根は優しいようだ。自分も大丈夫みたいだし一安心だ。それよりも何百年前っていったい何歳なのだろう。それに立派になって帰った者ってのも気にかかる。誰のことだろう。
「ばぶ、ばぶ、ばぶ」
あっ、ダメだ。訊きたいのに口を開くと『ばぶ、ばぶ、ばぶ』になってしまう。
「賢、どうしたの。何か言いたいことがあるの。あっ、そうか。お腹が減っているんだったわね。けどどうしよう」
「美月」
「あっ、はい。モンド様」
「大丈夫だ。ちょっとこっちへおいで」
モンドに呼ばれて美月が近づいていく。
いったい何をしているのだろう。美月の頭を撫でているようだが何か意味があるのだろうか。
「あっ」
美月、どうかしたのか。
「ふむ、これでいい。美月よ、お主が賢を育ててやるのだ。お主の乳を飲んだとなればこの者の才能は一気に開花するであろう」
「モンド様、それはどういうことでしょうか。美月がその者を育てる。そんなこと。娘はまだ嫁入り前なのですよ」
「己家、わかっておる。これはこの者のためでもあるが美月のためでもある。心配するな」
「それはどういうことでしょう」
モンドは己家の問いに答えずに微笑んでいるだけだった。
美月が自分を育てる。それが才能を伸ばすことになるのか。それは凄い。ただ美月のためとはどういうことだろう。己家の問いに答えてほしかった。
「タマおじさま、賢を私のもとへお願い」
「んっ、なぜだ」
「いいから、いいから」
玉三郎に抱かれていた自分は美月の横へ下ろされた。
んっ、この匂い。これはもしかして。
ぐぅーっとお腹が鳴った。
「賢、ほら私のお乳を飲んでお腹いっぱいにして」
えっ、お乳。
やっぱりそうか。この匂いはミルクの匂いだ。気づかなかったがいつの間にか美月の乳房が膨らみを増していた。
どうしてとの思いもあったが空腹には勝てなかった。
美月のおっぱいにしゃぶりつきゴクゴクとミルクを飲んでいく。なんだか不思議な感覚だ。猫のミルクを飲んでいるだなんて。
「おい、嫁入り前の娘に何をする」
己家の怒りの孕んだ声が届くが無視を決め込んだ。今の自分にはお腹いっぱいになることが重要だ。猫の美月が母のように感じる。エロい感情はまったくなかった。これが生きるということなのかもしれない。
美月のミルクを飲むたびにエネルギーを感じた。身体に力が湧いてくる。頭がスッキリとして五感が研ぎ済まされていく。美月のミルクは何か特別なエキスが含まれているのではないだろうか。
モンドの話した才能が一気に開花すると言うのはこういうことなのかもしれない。
ああ、美味しかった。
満腹になり急に眠気を感じた。
ああ、なんだかあたたかい。もふもふな何かに包まれているようだ。そんな心地よさに賢は深い眠りへと誘われていった。
「お、遅れて申し訳ありません。僕の主様は何処に」
なんだか騒がしい奴が来たみたいだけど。まあいいや、今は眠ろう。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪
naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。
「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」
そして、目的地まで運ばれて着いてみると………
「はて?修道院がありませんわ?」
why!?
えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって?
どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!!
※ジャンルをファンタジーに変更しました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる