満月招き猫

景綱

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夢月楼へ

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 賢は長い太鼓橋を玉三郎と美月、老紳士とともに歩みを進めた。
 どこまで続いているのだろう。三連太鼓橋なら聞いたことがあるけどそれ以上に連なっている。名付けるとしたら無限太鼓橋だ。先が見えない。

 最初は月に繋がっているのかと思ったがどうやら違うようだ。
 満月は頭上に淡い光りを湛えている。あの月はなぜこんなにも近くに見えるのだろう。月が衝突するのではと気が気じゃない。そんなことありえないだろうけど。こんな大きな月ははじめてだ。

 不思議なのはそれだけではない。
 橋の両側にキラキラするものが揺らめいている。ススキには似ているがどこか違う。空にも瞬く光が舞い飛んでいる。あれは星ではない。ホタルだろうか。まるで光のダンスだ。
 それにしてもなんて幻想的な景色なのだろう。

 夢月楼にご招待とか話していたのを思い出して賢はどんなところかと想像した。
 竜宮城みたいなところだろうか。そうだとしたら戻ったときには誰も知っている人がいないのではないのか。両親もすでにこの世からいなくなっている可能性もある。このままついて行っていいのだろうか。一瞬躊躇したが賢の足は止まらなかった。もう気持ちは夢月楼にある。そう言っても過言じゃない。

「あっ、見えてきた。夢月楼街だ。懐かしい景色」

 美月にとったら里帰りってところだろう。懐かしく思うのも頷ける。

 んっ、あれ。
 美月はどこに行った。声がしたのに姿が見えない。その代わり毛並みが綺麗な白猫が尻尾をピンと立てて悠然と歩いていた。老紳士もカラフル招き猫も消えていた。スーツを着込んだウサギと自分と背丈が同じくらい大きな猫が二足歩行をしていた。なぜか大猫は短パンにアロハシャツを着ている。

 みんなどこに行ってしまったのだろう。
 大猫とウサギと白猫を見遣り、もしかしてこいつら……。
 そうだ、きっとそうだ。姿は変わってしまったがおそらく大猫が玉三郎でウサギが老紳士で白猫が美月だろう。
 ほら大猫の頭がカラフルだ。あんなカラフルの頭をした猫は滅多にいるものではない。ウサギに関してもあのスーツは老紳士が着ていたものと同じだ。残るは美月か。あの綺麗な白はワンピースの白と同じだ。肌も色白だったし。ちょっとこじつけかもしれないがおそらく間違いないだろう。美月の眼差しを思えば猫だったのだと納得できる。

「賢、どうしたの。女の子をジロジロ見るもんじゃないわよ」

 やっぱり美月だ。白猫が美月だ。

「仕方がないわね。私に惚れちゃったのね」
「いやいやそうじゃない。白猫の姿に変わっちまったからさ」
「あっ、そうなの。違うんだ。もう乙女心がわかっていないんだから」

 美月はプイとそっぽを向いてスタスタと歩みを進めてしまった。
 その様子を目で追っていた玉三郎が近づいて来て肩に手を乗せてきた。

「賢、美月を怒らしたら怖いぞ。本当は好いているのだろう。素直になれ。美月はいい女だ。豹変してしまうこともあるがな。まあなんだ今は猫になっちまっているが美月は嫌いか」
「玉三郎様、いけません。人と猫の間を取り持つことは許されません」
「堅いこと言うな、伊佐」
「ですが夢月楼の法で決められたこと。破ってはいけません」
「そうか。残念だったな賢」

 残念ではない。美月のことは好きではない。たぶん。嫌でも……。自分の心がわからない。
 そんなことよりも夢月楼が気にかかる。いったいどういうところなのだろう。

 どこからともなく笛や太鼓の音色が響く。
 祭でもやっているのだろうか。
 賢は見知らぬ場所へ行く不安と楽しみとが入り混じり複雑な気持ちになった。

「おや、ついて来てしまったのですか」

 伊佐の視線を辿るとパンが軽快な足取りで歩いて来ていた。気のせいかもしれないが楽しそうな顔に映った。

「パン、おまえは留守番していろ。ほら、戻れ」
「賢」
「んっ」
「追い返すのは可哀想だ。好きにさせてやれ」

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