満月招き猫

景綱

文字の大きさ
12 / 29

夢月楼へ

しおりを挟む
 賢は長い太鼓橋を玉三郎と美月、老紳士とともに歩みを進めた。
 どこまで続いているのだろう。三連太鼓橋なら聞いたことがあるけどそれ以上に連なっている。名付けるとしたら無限太鼓橋だ。先が見えない。

 最初は月に繋がっているのかと思ったがどうやら違うようだ。
 満月は頭上に淡い光りを湛えている。あの月はなぜこんなにも近くに見えるのだろう。月が衝突するのではと気が気じゃない。そんなことありえないだろうけど。こんな大きな月ははじめてだ。

 不思議なのはそれだけではない。
 橋の両側にキラキラするものが揺らめいている。ススキには似ているがどこか違う。空にも瞬く光が舞い飛んでいる。あれは星ではない。ホタルだろうか。まるで光のダンスだ。
 それにしてもなんて幻想的な景色なのだろう。

 夢月楼にご招待とか話していたのを思い出して賢はどんなところかと想像した。
 竜宮城みたいなところだろうか。そうだとしたら戻ったときには誰も知っている人がいないのではないのか。両親もすでにこの世からいなくなっている可能性もある。このままついて行っていいのだろうか。一瞬躊躇したが賢の足は止まらなかった。もう気持ちは夢月楼にある。そう言っても過言じゃない。

「あっ、見えてきた。夢月楼街だ。懐かしい景色」

 美月にとったら里帰りってところだろう。懐かしく思うのも頷ける。

 んっ、あれ。
 美月はどこに行った。声がしたのに姿が見えない。その代わり毛並みが綺麗な白猫が尻尾をピンと立てて悠然と歩いていた。老紳士もカラフル招き猫も消えていた。スーツを着込んだウサギと自分と背丈が同じくらい大きな猫が二足歩行をしていた。なぜか大猫は短パンにアロハシャツを着ている。

 みんなどこに行ってしまったのだろう。
 大猫とウサギと白猫を見遣り、もしかしてこいつら……。
 そうだ、きっとそうだ。姿は変わってしまったがおそらく大猫が玉三郎でウサギが老紳士で白猫が美月だろう。
 ほら大猫の頭がカラフルだ。あんなカラフルの頭をした猫は滅多にいるものではない。ウサギに関してもあのスーツは老紳士が着ていたものと同じだ。残るは美月か。あの綺麗な白はワンピースの白と同じだ。肌も色白だったし。ちょっとこじつけかもしれないがおそらく間違いないだろう。美月の眼差しを思えば猫だったのだと納得できる。

「賢、どうしたの。女の子をジロジロ見るもんじゃないわよ」

 やっぱり美月だ。白猫が美月だ。

「仕方がないわね。私に惚れちゃったのね」
「いやいやそうじゃない。白猫の姿に変わっちまったからさ」
「あっ、そうなの。違うんだ。もう乙女心がわかっていないんだから」

 美月はプイとそっぽを向いてスタスタと歩みを進めてしまった。
 その様子を目で追っていた玉三郎が近づいて来て肩に手を乗せてきた。

「賢、美月を怒らしたら怖いぞ。本当は好いているのだろう。素直になれ。美月はいい女だ。豹変してしまうこともあるがな。まあなんだ今は猫になっちまっているが美月は嫌いか」
「玉三郎様、いけません。人と猫の間を取り持つことは許されません」
「堅いこと言うな、伊佐」
「ですが夢月楼の法で決められたこと。破ってはいけません」
「そうか。残念だったな賢」

 残念ではない。美月のことは好きではない。たぶん。嫌でも……。自分の心がわからない。
 そんなことよりも夢月楼が気にかかる。いったいどういうところなのだろう。

 どこからともなく笛や太鼓の音色が響く。
 祭でもやっているのだろうか。
 賢は見知らぬ場所へ行く不安と楽しみとが入り混じり複雑な気持ちになった。

「おや、ついて来てしまったのですか」

 伊佐の視線を辿るとパンが軽快な足取りで歩いて来ていた。気のせいかもしれないが楽しそうな顔に映った。

「パン、おまえは留守番していろ。ほら、戻れ」
「賢」
「んっ」
「追い返すのは可哀想だ。好きにさせてやれ」

しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

「私は○○です」?!

咲駆良
児童書・童話
マイペースながらも、仕事はきっちりやって曲がったことは大の苦手な主人公。 一方、主人公の親友は周りの人間を纏めるしっかり者。 偶々、そんな主人公が遭遇しちゃった異世界って?! そして、親友はどうなっちゃうの?! これは、ペガサスが神獣の一種とされる異世界で、主人公が様々な困難を乗り越えていこうとする(だろう)物語です。 ※まだ書き始めですが、最後は「○○○だった主人公?!」みたいなハッピーエンドにしたいと考えています。 ※都合によりゆっくり更新になってしまうかもしれませんが、これからどうぞよろしくお願いいたします。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

焔の龍刃

彩月野生
ファンタジー
秋葉原に愛犬と一緒に住む二次元オタクの月折夕都は、高校生カップルを助け、眼鏡の眉目秀麗な男――司東朝火に捕まってしまう。古より日本を護り続けてきた影の組織“神無殻(かむから)”に属する朝火いわく、夕都は最後の“スサノオの童子”であり、“龍神”の化身たる運命を担うのだという。夕都は、記憶が混沌としており、朝火を知っていると確信する。 ブロマンス×純愛×現代アクションファンタジー。古から繋がる想いの物語。 この物語はフィクションです。劇中に登場する個人名・団体名などはすべて架空のものですが、一部は史実や神話に基づき参考にしております。 また、独自の設定を加えており、実際の史実、神話とは異なる部分が多数ございますので、ご理解ご了承のほど宜しくお願い致します。

処理中です...