満月招き猫

景綱

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満月の夜

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 美月が同じ部屋で寝ている。
 二人っきり。
 チラッと美月を見遣り吐息を漏らす。

 ベッドに寝ている美月と少し離れたところのソファーに寝る自分。忍び足でベッドに近づこうか。やめろ。賢は寝返りを打ちソファーの背凭せもたれ側に顔を向ける。
 別の部屋があるのに「ここにいて」なんて。美月は自分のことどう思っているのだろう。一度しか会ったことがない男の家に泊まれる軽い女なのか。違う、違う。そうは思えない。これは何かのドッキリか。それも違う。

 ダメだ、ダメだ。変な想像はするな。無理だ。この状況で妄想を膨らませずにいられる者は皆無だ。男なら自然なことだ。妄想だけで留めている自分を褒めてやりたいくらいだ。それにしてもこの状況。美月といい関係になるチャンスだ。
 こら、やめろ。美月は「変なことしないでね」って。
 そのままの言葉の意味として捉えていいのか。本当は誘っているんじゃないのか。
 馬鹿、やめろって言っているだろう。ここは紳士であれ。
 ああ、くそっ、眠れない。
 ドキドキしっぱなしだ。美月は本当にどう思っているのだろう。

「起きろ、もうそろそろ時間だ」

 張りのある声が静寂を破る。
 招き猫の声だ。そうだあいつがいた。玉三郎とかいったっけ。二人っきりではなかった。美月に何かしようとしていたらきっとあいつが邪魔をしただろう。それだけでは済まないかもしれない。この家から追い出される可能性だってある。
 危なかった。

 んっ、あっ、パンもいたのか。

『おまえも美月に惚れちまったんだもんな』

 待て、待て。違う。自分は美月に惚れたわけじゃない。たぶん。

「美月、そこのおまえは、えっとなんていったっけ」
「仁山賢だ」
「そうだった。賢、そろそろ満月の時間だ。扉が開かれるぞ」

 扉が開かれる。どういうことだろう。やけに大きく見える丸い月を眺めて小首を傾げた。

「なあ、それって」
「待て。説明はあとでしてやる。おい、美月。サッサと起きろ」
「えっ、もう食べられないわよ」
「こら美月。寝ぼけているんじゃない。満月の時間だ」

 玉三郎の怒声にビクリとして飛び起きた美月はキョロキョロと見回すと状況がわかったのかベッドから抜け出して玉三郎のそばに座った。

「ほら、賢もこっち」

 美月に手招きされて隣に座る。

「来るぞ。来るぞ。来るぞ」

 カチ、カチ、カチ。
 時計の針が零時五十九分を指す。まさにその瞬間、満月が輝きを増していく。

 えっ、なんだあれは。幾筋もの光が一直線にこっちへ向かって来る。違う。光が波打っている。そうかと思うと光と光が手を取り合って太い光の綱と化す。何か形作っているみたいだ。もしかして橋か。そうだ、間違いない。こっちに向かって橋が架かっていく。
 おや、小さな影が。今度はなんだ。人か。誰かがやって来る。えっ、ウサギ。スーツでバッチリ決め込んだウサギだ。そう思ったら目の前に老紳士が立っていた。

「おお、来たか伊佐いさ

 深々とお辞儀をする老紳士は顔を上げ微笑んだ。

「はい、このときを待っておりました。玉三郎様、美月様。やっとです。やっとお迎えに上がることができました」
「うむ、そうだな伊佐」

 伊佐と呼ばれた老紳士は目を潤ませていたかと思うとこっちへ目を向けてお辞儀をしてきた。

「そちらのお方。確か仁山賢様ですね。夢月楼むつきろうへご招待いたします。おや、そちらの猫は」
「ああ、パンだ。我が家の飼い猫だ」
「そうですか」

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